本メルマガは、IoT価値創造推進チームの稲田修一リーダーが、取材を行ったIoT導入事例の中から特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。第1回目はミサワホーム様の「見える化」による価値創出の事例です。今後、2週間に1回を目途に配信する予定ですので、ご期待ください。
【ここに注目!IoT先進企業訪問記(1)】
「見える化」で住まいの安全・安心を買う-ミサワホームの被災度判定計GAINET
最近は口コミがきっかけになってヒットした商品が増えています。体重の移動で前進、後進、停止が可能で、スケボー感覚で乗れる電動スクーターの「ミニセグウェイ」、カバンのように見えて通勤や旅行時に背負えると好評の手提げカバン型のリュック、書いた直後にこすってもインクがすぐに乾くので手や紙が汚れないボールペンなどです。ソーシャルメディアの発達で、実際に商品を使った顧客の感想がネット上に広く流通し、それが商品の売れ行きに大きな影響を与えているのです。
ミサワホームの被災度判定計GAINETは、その存在を知る人が少ない商品です。しかし、使った顧客の評価は高いので、口コミで拡がっていくといいなと思うサービスです。その一番のメリットは、地震が発生した時にいち早く建物の被災度を判定し、知らせてくれることです。また、これがあると、地盤の状態や建物の安全性を普段からある程度知ることが可能です。「住んでいる地域の震度が2の時に自宅の震度は3のことが多いので、地盤が良くない可能性がある」「自宅の建物は震度6までなら大丈夫だが震度7では危ない」などです。
昨今のセンサー技術の発展とIoT化でデータの収集・分析範囲が拡大した結果、これまでも気になっていたけれどデータがないので分からないと諦めていた事象の「見える化」が可能になっています。住まいの安全性もその一つです。
1.なぜ「見える化」が可能になるのか
ミサワホームでは、実物大の建物に実際に家具などを置いた状態で、巨大地震を模した振動実験を繰り返し行っています。元々は高い耐震性能を有する住宅を開発するためですが、このような実験で取得したデータを分析すると、振動の強さや揺れのタイプに応じ建物にどのような損傷が生じるのかが明らかになります。同社は、実験結果を元に、揺れの状況から建物の被災度を割り出すアルゴリズムを開発したのです。
「GAINET」では、住宅の基礎部分に加速度センサーを取り付け、地震の揺れを計測しています。そして計測データとアルゴリズムに基づき住宅の被災度を割り出し、警報音とともに通知します。その内容は、地震の震度、建物の被災度(5段階評価)、それに地盤の被災度(3段階評価)です。
建物については、被災度5は「直ちに避難計画が必要」、4は「なんらかの損傷あり点検が必要なレベル」、3は「安全に問題がないが点検が必要なレベル」、2は「クロスの破れなどの軽微な被害」、1は「被害なし」という結果です。一方、地盤については、建物の傾斜によって土地が水平状態からどれくらい傾いたかで判断しています。判定度3は「点検が必要なレベル」、2は「安全に問題がないか点検が必要なレベル」、1は「被害なし」という結果です。
また、GAINETは地震の初期微動であるP波を感知し、主要動のS波を予測する機能も持っているので、直下型の地震ではいち早く警報を出すことができます。
2. GAINETの普及と揺れデータのオープン化に期待
地震の際の被災の程度は、2016年4月に起きた熊本地震の例でも分かるように、道一つ隔てるだけで大きく異なる場合があります。地盤の良し悪し、地震エネルギーの増幅の有無などの要因により、個々の建物が受ける地震波の強さが異なるからです。また、同じような強さの地震波を受けた場合でも、建物によって被災の程度が異なることがあります。地盤の状態や工法、間取りの違いなどによって、建物の揺れ方が異なるからです。
大地震の時は、思わぬ場所で被害が出ることもあります。数秒から十数秒周期でゆっくり揺れる長周期地震動の強さは、震源から遠く離れても弱まりにくいという特徴があります。遠くまで地震エネルギーが伝わり、高層ビルなどがこれに共振し、被害が発生することがあるのです。実際、東日本大震災の際には、震源から約770キロ離れた大阪府の「咲洲庁舎」が約10分間揺れ、最上階付近の揺れ幅は最大約2.7メートルに達し被害が出ました。
GAINETは建物一軒単位での活用も有効なのですが、さらにこれが面となって地域にある程度の密度で点在すれば、そのデータを集積することで新たな価値が生まれます。地震波データを集積することによって、地盤の良し悪しが細かく分かるようになるのです。大地震時における個々の建物の被災度をより正確に予測し、実態に即した防災計画や復旧計画を策定することが可能になります。また、何よりも住民の方々が被災を自分のものとして考え、主体的に動くきっかけを与えることができるのです。
地盤が良くないと分かると不動産価格に影響するので、データ公開は慎重にすべきと考える向きもあるようですが、今の時代の流れはエビデンス(根拠)の公開です。特に、人命にかかわる場合は、公開し人々の判断に委ねることが基本です。このような流れは、技術革新を促す可能性もあります。地盤の悪さを吸収し、建物を守る耐震技術や免振技術の発展などです。
GAINETは工事などの手間賃を含め10万円以上しますが、顧客からは家族や住まいの安全性が見え大変満足だという声を頂いているそうです。しかしながら、その普及には価格の一層の低廉化が不可欠です。また、行政機関、それから住宅メーカーや建設業者が、このような技術にもっともっと注目することが必要です。関係者の間での、そして世間での注目度があがり、普及が進むことを期待したいと思います。
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