【ここに注目!IoT先進企業訪問記(2)】
自社技術と最新ICTの融合~進化し続ける遠隔モニタリング~(いすゞ自動車)
いすゞ自動車の遠隔モニタリングには、10年を超える歴史があります。スタートは、それまで車両内に蓄積していたデータに基づく運行診断システムをオンライン化した2004年です。この時、GPSによる位置情報検索機能も追加しています。この「つながるトラック」を進化させ、最近では、機械学習を使った車両不調の即時把握と故障の予兆検知を実現しています。
いすゞ自動車は、車両の稼働データをリアルタイムで収集し、その結果を分かりやすい形でドライバーや運送事業者に伝えることが運輸業界にとってどんな意味を持つのかを理解し、実行したのです。
1.遠隔モニタリングの進化
いすゞ自動車は、遠隔モニタリングを「MIMAMORI」(みまもり)サービスというブランド名で提供しています。車両の情報中枢である車両制御コンピュータから運転操作や走行状況などの膨大なデータを収集・分析し、サービスに活用しているのです。燃料消費量、排気ガスの状態、ドライバーの運転操作、車両位置、運行状況などのデータを収集し、エコドライブ(燃費性)、安全運行レポートなどをドライバーや運送会社に提供しています。
2004年のサービス開始当初は大型トラックが対象でしたが、2005年には中・小型のトラックにも拡げています。2007年にはメモリカード等を使用しない通信式デジタコ(※注)を日本で初めて搭載、その他ドライバーへのメッセージ送信機能、車両メンテナンス時期のお知らせ機能、盗難警報通告機能を追加。さらに、2009年には運転日報作成の自動化を実現しています。
2015年からは、「MIMAMORI」によって収集したデータを機械学習の手法で分析し、車両状態の即時把握と故障の予兆検知を実現しています。この成果は、高度純正整備「PREISM」(プレイズム)に活かされています。また、2017年は「MIMAMORI」に運転のクセや改善点を分かりやすく伝えるエコドライブトレーニング機能などを追加。車両の運行軌跡などを管理する動態管理機能の標準サービス化を実施しています。
運輸業界は、稼働率向上とコスト削減、安全確保のための法令遵守の徹底、人材不足への対応などの大きな経営課題を抱えています。いすゞ自動車は自社技術×つながるトラック×AI(機械学習)の組み合わせで「遠隔モニタリングを」進化させ、運輸業界の課題解決に貢献しているのです。
※注:別名はデジタルタコグラフ。自動車の速度、走行時間、走行距離などの運行データを自動的に記録し、保管するシステム。
2.進化の基盤は自前のデータ活用力
いすゞ自動車のデータ活用が年を追うごとに進化しているのは、その重要性を全社で共有しているからです。データ活用にはこれが必須なのですが、実行できている会社は多くはありません。同社の場合、まずは顧客と接するディーラーにMIMAMORIサービスの価値を理解してもらうことが必須でした。その効果とメリットについて時間をかけ丁寧に説明し、同サービスの市場浸透につなげています。
また、同サービス開始の早い段階から、収集データの社内各部署での活用を推進しています。専門性の高い機械学習のアルゴリズムはICT企業のものを基本としたようですが、この活用による排気ガス浄化装置、トランスミッション、エンジンなどの不調の兆しの検知についても、比較的短期間で事業化レベルに仕上げ、予防整備につなげています。顧客サービスの重要な要素として、そして製品改良に必要な情報源として、長年のデータ収集と社内連携によるデータ活用力を高めていることが、これを可能としているのでしょう。
3.スピード感の向上で次の進化へ
順調に進化してきた同社の遠隔モニタリングですが、スピード感の一層の向上が今後の課題です。機械学習のアルゴリズムについては、さまざまな部品の故障予兆が検出できるよう適用範囲の拡大と予兆精度向上を早急に実現しなければなりません。これには、故障事例の詳細分析や事例の積み上げが必要です。
また、海外市場におけるトラック販売の厳しい競争に打ち勝つには、サービスの海外展開も不可欠です。車両の仕様、環境規制、車両保全に対する考え方やその体制、運送事業に対する規制などは、国ごとに異なります。遠隔モニタリングに対するニーズも当然に異なりカスタマイズが必要です。
顧客につながるサービスが、ビッグビジネスの起点になる時代です。顧客サイドの課題をいち早く察知し、自社技術と最新情報通信技術を上手く融合させ、「遠隔モニタリング」を「運送業務総合支援サービス」に進化させることが必要です。IoTとデータ活用のさらなる進化に期待します。
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