【ここに注目!IoT先進企業訪問記(3)】
金鉱脈を効率的に見つけ出すために~迅速なAI活用を実現する「ABEJA Platform(アベジャ プラットフォーム)
金鉱脈を見つける近道の一つは、砂金の出ている川をさかのぼることです。そこで金が含まれる可能性がある石英鉱脈を見つけ、何カ所かでボーリング調査を行って金の含有量を確認し、採掘が経済的に見合うかどうかを判断します。
データを収集・分析し、新しい価値を創出する場合にも同じような手順が必要です。価値創出につながりそうなデータを収集・分析し、実際に使えるかどうか確認します。データの粒度を変える、掛け合わせるデータを変える、データの分析法を変えるなどの作業を繰り返し、価値創出に挑戦します。
AIはこの分析のためのツールです。しかし、いくら最新のテクノロジーを使っても、砂金の出ない川の上流では金鉱脈を発見する確率は低くなります。これと同じで、やみくもにデータを収集し、AIで分析しても無駄打ちに終わることが殆どです。AI活用の前に価値創出が可能な領域を予測することが重要なのです。
1.ブーム前からAIビジネスに挑戦、成功は小売り・流通ソリューションから
ABEJAは、2012年の創業時よりAIプラットフォーム「ABEJA Platform」を開発・提供しています。まだ、AI活用が世に広く知られていない時代に、ユーザがAI活用システムを効率的に開発するためのツールと環境をクラウドベースで構築したのです。ところが、AIに対する認知の不足から、当初すぐには売れなかったそうです。そこで自社のAIプラットフォームを使い、具体的な活用方法を開発、販売したのです。
それは、小売・流通の店舗でカメラを活用し、来客数とその年齢・性別を把握する手法、さらに人の通行量や滞在時間を可視化する手法です。画像認識にAI(ディープ・ラーニング)を活用することにより、従来の手法より圧倒的に精度を高めることに成功し、広告やセール実施効果の測定、スタッフ配置の最適化、客層に沿った店舗のカスタマイズなどに成功しました。このような価値を実現する「ABEJA Platform for Retail」は、2017年9月時点で420を超える国内の店舗に導入されているそうです。
2.AI活用システム開発を支援するプラットフォームの提供へ
AIブームが始まり、あらゆる業種(製造、エネルギー、モビリティ、不動産など)でAI活用が進み始めています。意外なことに、これには泥臭い作業が必要です。データの処理、セキュアな保存、教師データの作成、学習モデルの設計・検証、解析結果のビジュアル化などの作業です。収集したデータをAI活用によって解析し、ビジネスに役立てる以前に、このような地道でぼう大な作業が立ちはだかるのです。
このハードルを下げるのがABEJA Platform。プラットフォームにはAI活用に必要なツールや環境が揃っており、これを使えば、多くの開発作業を効率化でき、ビジネス価値の創出という本来の目的に集中することが可能になります。
ただし、データから価値を創出するには、個々の案件ごとに価値を予測し、データを収集し、さらにAIを活用して価値を創出するためのシステム開発が必要になります。この開発に当たっているのは、ABEJAのパートナー企業です。ABEJAの役割は、このパートナー企業にAIプラットフォーム(AI活用システム開発支援環境)を提供することなのです。
現在、ABEJAのビジネスの主体は、このAIプラットフォームの高度化に移っています。プラットフォームは、使われれば使われるほどこなれてきます。また、活用コストの低減や機能の高度化を急ピッチで進めることが可能になります。ABEJAは、AIプラットフォームで先行することにより、これを実現しようとしているのです。
なお、AI活用時の一般的な工程と開発・運用時の課題、その課題を解決するためにABEJA Platformが提供するソリューションを対比すると次の図のようになります。
【出所】2017年9月19日付けABEJA News『オープンプラットフォーム「ABEJA Platform」のベータ版を提供開始 ~ AI、ディープラーニング活用をしたオープンイノベーションを促進 ~』より
3.経営者向けトレーニングコースにも注力
ABEJAは、開発者向け、経営層向けのトレーニングコースを設けており、AIをビジネスに活用する上で必要な開発工程の体験学習や経営判断に必要な実用知識の伝達を行っています。ユニークなのは、経営者向けのトレーニングコースです。経営者がAI、特にディープラーニングで何ができるのか、どのようなメカニズムでそれが可能になるのかを理解すると、企業内でのAI活用が一気に進むと言われています。実際にコースを受講し、なるほどと納得し、すっきりした表情で帰途につくVIPも結構おられるとか。これからの時代、経営者にはマネジメントやゴルフの素養だけではなく、最先端のICT技術に対する理解も必須なのです。
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