本メルマガは、IoT価値創造推進チームの稲田修一リーダーが取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。 

 今回は、ダイキンの空調機器の稼働管理を取り上げます。IoT活用の典型的事例ですが、取材時に感じたのは「年季が入っている」こと。製造業のサービス化を推進したマネジメントのリーダーシップ、それに応えて展開された顧客志向のデータ活用、さらに、将来の価値創造に向けた新たな取り組みなどは、まさにIoT活用のお手本だと感じました。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(7)】

他社に先駆け、顧客ファーストで空気と環境の新たな価値を創造(ダイキン工業)

  ダイキンは、1993年からビル空調機の稼働管理による保守メンテナンスサービスを提供しています。エアコンのガス圧力や室外機の温度などをセンサーで収集し、異常を検知したらサービスエンジニアが2時間以内に急行し対応するサービスです。「他社に先駆けてサービスを行う」という当時の担当役員の強烈なリーダーシップにより、25年前に現在のIoT的な取り組みを開始したのです。当時は現在のようにインターネットが発達しておらず、電話回線を利用してのサービスでした。

1. 保守メンテナンスサービスの高度化

 保守メンテナンスからスタートしたサービスですが、その内容は進化を続けています。まず、故障の検知から故障の予知に進化し、現在では空調機故障の70%以上の予知が可能になっています。また、予知できる時期も、例えばエアコンの心臓部を形成する圧縮機では、故障の1年前に予知できるようになっています。データ活用では活用できるデータの「量」が重要ですが、長年にわたりデータを蓄積したことでこれが可能になったのです。

 保守メンテナンスサービスの高度化には、データ収集項目を増やし、これらを十分な精度・粒度で集めることも重要です。同社は、圧力、温度、膨張弁開度、運転保護制御信号、インバータ周波数・電流など、空調機の調子を細部にわたり診断するために必要なデータを収集しています。データ収集はノウハウの塊ですが、公開資料からも同社がさまざまな価値創出に挑戦していることが分かります。例えば、エアコンのランニングコストに直結する圧縮機の動作などを詳しく見ています。エアコンの省エネ性能の8割は圧縮機の消費電力量で決まるので、顧客が使っている状態での動作データを収集・分析し、保守メンテナンスの高度化に活用すると同時に製品の設計・開発にフィードバックしているのでしょう。

2. 省エネ支援サービスの提供

 データ活用の目的も拡がっています。2008年からは保守メンテナンスサービスに加え、省エネ支援サービスを開始しています。主に中小規模のビルを対象に、空調機のエネルギー消費実態を把握し、問題箇所の特定と改善計画の提示、改善後の効果測定を実施するサービスを提供しています。

 最近、力を入れているのは、省エネ運転の代行。顧客に代わって、遠隔で空調機を最適制御するのです。データ分析により、病院や老人ホームなどでは空調機の無駄な使い方が多いことが以前から分かっていました。でも、顧客の多くは、データや各種レポートを見ても、具体的な省エネ方法が分かりません。このため、顧客と話し合って空調機器の運転スケジュールや温度を設定し、さらに現場の声を聞いて微調整するのです。これによって、16~35%程度の電気使用量削減に成功しています。忙しくて省エネにかまっていられない顧客に、空調のプロが改善提案を行い、運転代行で効果をあげる。まさに細やかで痒いところにまで手が届く顧客ファーストのサービスを提供しているのです。

 顧客志向の徹底は、取材時の受け答えでも感じました。データ分析で顧客事業所に必要な空調容量が分かります。それで「取り替え時に、空調機の容量が負荷に対して余裕がある場合はどうするのですか」と少し意地悪な質問をしました。空調機の売り上げを増やすために、営業現場は必要以上に大きな容量の空調機を勧めがちだからです。すると即座に「実データを提示し、お客様の容量はこれくらいで大丈夫だと説明します。これを営業に徹底しています」という答えが返ってきたのです。「データを活用し顧客ファーストで考える」という当たり前のことができる会社はまだ多くはありません。データ活用できる人材が限られているからです。現場が自然体で顧客価値創造のためにデータ活用する同社のデータ戦略は、一朝一夕にできたものではないと感じます。

3. 顧客企業の生産性向上を支援

 同社はさらに先を行くデータ活用にも挑戦しています。その一つはNECとの協創です。「ヒトの集中力」や「ヒトのリラックス」に影響する要因を発見するために、実際のオフィスや実験室でデータを収集し、機械学習技術を活用した分析を繰り返しています。現在、省エネ支援サービスは、設定温度制限などをプログラミングし自動化していますが、そのための作業の大半は人手に頼っています。クールビズ対応の服装と長袖では設定温度が異なりますし、気象状況や利用状況によって快適環境を損ねる事もあり、現場の状況に応じてその都度人手で改良を行っているのが実態なのです。

 しかし、世界各国の顧客を相手にこのようなきめ細かい対応をするのは困難ですし、コストもかかります。この課題解決に向けてセンシング対象を人に拡げ、快適環境を実現するための設定や運用を自動化したいと考えているのです。最近は、稼働管理の一歩先を行くIoT活用に踏み込む企業が現れ始めています。その一つが、顧客課題解決型のビジネス価値創造なのです。同社も下図に示すように、モノの稼働管理だけでなく、顧客企業の生産性向上という環境価値を創造することを目指しています。

新しい価値創造に向けたダイキンの戦略

新しい価値創造に向けたダイキンの戦略

 同社はAI人材の育成にも力を入れています。2017年12月時点で同社が抱えるAI人材は約100名。これを2020年までに700名に増強する計画で、AI人材の社内育成プログラム「ダイキン情報技術大学」を2017年12月に開講しています。ITに精通した技術者に限らず、機械系や電気系、化学系の技術者、さらには空調事業や化学事業、コーポレート部門の企画担当も対象になっています。ダイキン本社の従業員数は約6,900名、国内外の子会社を入れると約67,000名になります。まずAI活用のコア人材を育成し、蓄積したデータを活用し、新サービスの開発や業務の効率化に全社をあげて取り組むとの決意表明なのです。

 空気と環境を最適化することは、考えていた以上に奥が深い取り組みだと感じます。会社ごとに、また、国ごとに快適さの基準が異なります。同じ会社の中でも人ごとに異なります。アイデアを創出するために必要なリラックスできる環境と、仕事を効率的に進めるために集中できる環境でも、基準が違うのかもしれません。同社がIoT活用をさらに進化させ、顧客ファーストの精神で“only one”の価値を創造することを期待したいと思います。

 

今回紹介した事例

ダイキン工業

IOT活用により空調省エネや故障予知を実現する
「エアネットサービス」

 サービス提供のそもそものきっかけは、上からの強力なリーダーシップ。当社では、空調設備の提供だけでなくお客様により快適な空調環境を実現するサービス提供や省エネ提案などを重視しており、これが他社に先んじてのサービス提供につながった。...続きを読む

 
 
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