本メルマガは、IoT価値創造推進チームの稲田修一リーダーが取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。 

 今回は、綜合警備保障(ALSOK)の「道路モニタリングサービス」を取り上げます。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(12)】

警備をしながら道路の健全性調査-ALSOKの「道路モニタリングサービス」

 「道路モニタリングサービス」は道路インフラの健全性を判断するサービスですが、「警備会社が?」と感じられた方が多いと思います。私もそうでした。取材をして納得したのは「技術進化が新規ビジネスにつながった」こと。何故、同社がインフラ管理業務に進出したのか、その背景となった路面性状調査技術の進化と同社の取り組みを紹介します。

 同社のメイン業務は警備業務ですが、それに加え、道路トンネル、ダム、貯水場、メガソーラー設備などのインフラ監視サービスも提供しています。警備業務では、設備や施設を監視し、異常や異変を検知した場合はすぐに駆けつけ対応します。この仕事のやり方が、インフラ監視にも適用できるのです。また、同社は日本全国に約4,000台の車両を保有しています。技術進化によって、この車両を道路インフラの健全性を診断する路面性状調査に使えるようになったのです。

1.    スマホで可能となった道路の路面性状調査

 道路舗装の点検については、国土交通省が「舗装点検要領」を定めています。大型車の交通量が多いなど損傷の進行が早い道路等と、生活道路など損傷の進行が緩やかな道路等に分類し、点検方法や健全性の診断法を示しています。その点検手法については、損傷の進行が早い道路等では、「ひび割れ率」「わだち掘れ量」「IRI(International Roughness Index:国際ラフネス指標)(注)」の3指標の使用を基本とすること、損傷の進行が緩やかな道路等では、「車上からの目視による方法」「路面性状測定車による方法」「簡易な機器による方法」等が考えられるとしています。

注:「IRI」は、自動車で走行した際の「乗り心地」として舗装の平坦性を客観的に評価する指標。世界銀行によって提案され、多くの国で舗装の状態を示す指標として活用されている。

 道路管理業務では、現在、目視点検や専用の路面性状測定車によって劣化状況を調査し、健全性の診断を行っています。前者は低コストですが定量的で正確な調査は困難、後者は定量的で正確な調査が可能ですが高コストです。このため、定量的で正確、そして低コストな調査法が強く求められており、IoTやAIなどの先端技術を活用した技術開発が進められています。

 「ひび割れ率」「わだち掘れ量」については、走行車両から撮影した路面映像をAI(人工知能)技術を活用して解析し、算出する技術開発が進んでいます。一方、「IRI」については、1台1億円以上する専用の測定車を使わず、一般の車両に設置したスマートフォンを使って、走行時に得られる加速度情報から算出する技術の開発が進んでいます。

 同社は、JIPテクノサイエンスと東京大学が進めていた、スマートフォンを一般車両に設置して路面性状評価を行う実証実験に2014年から参画しています。10数台の車両を使った実証実験を繰り返すことで計測精度を高め、2016年12月から実際にサービスを開始したのです。

2.    調査は警備業務をしながら実施

 同社は、警備車両にスマートフォンと車載カメラを設置しています。そしてスマートフォンの加速度センサで走行中の路面の凸凹を計測し、100m区間毎にIRIを算出し、5段階に色分けして地図上に表示しています。また、ポットホール、段差などの局所的な異常箇所の検出を行い、これも地図上に表示しています。一方、車載カメラで路面の画像を1秒毎に撮影し、電子地図上に表示することでIRI数値の悪い区間や異常箇所の画像を確認できるようにしています。(下図参照)
 

【出所】ALSOKニュースリリース「路面状態の異常監視から舗装修繕計画策定まで一括でサポート「道路モニタリングサービス」の提供開始について」(2016年11月14日)
図 道路モニタリングサービスによる調査結果
 

 IRIを精度よく算出するには、荷重変動の少ない車両を一定範囲の速度で走行させることが必要ですが、警備車両はバスやトラックのように荷重変動がなく、また、夜間走行が多いので一定範囲の速度で走行することが比較的容易です。調査に必要な要件を容易にクリアすることができるのです。

 また、約4,000台の警備車両を保有しており、全国をカバーできることも同社の強みになっています。警備では巡回などの日常業務で車を走らせますが、その際に自動的に路面性状調査を行うのです。千葉県旭市で行った実証実験では、平時の警備業務で6割くらいの道路をカバーできたそうです。また、残りのかなりの部分は、警備業務を終えて事務所に戻る際のルート選択や警備業務の待ち時間に走行することでカバーできたそうです。技術進化が組織の持つリソースの有効活用を可能とし、新規ビジネスにつながったのです。

 価格についても大幅に低廉化しています。専用の路面性状測定車を使う場合は年間10万円/kmの費用が必要と言われていますが、同社の「道路モニタリングサービス」では、年額2万円/km(基本サービス、年間往復4回以上走行)です。技術進化が低価格化にもつながったのです。

 でも、残念ながらこの新しいサービスが急速に普及している訳ではありません。新技術の紹介・評価の場である国土交通省のNETIS(New Technology Information System:新技術情報提供システム)にサービスのベースとなる技術が登録されたのが2018年1月で、技術評価がこれからという事情があるのでしょうが、このサービスの主なユーザになると想定される市町村など自治体の道路管理担当者の反応は、「今後、考えなければならないもののひとつ」というものだそうです。新しい概念に慣れていないため、従来実施していた負担の多い道路パトロールや目視確認と同様な機能を要望する声も多いそうです。現状のやり方をまるごと取り替わるものでないと、新しい技術の受け入れに時間がかかることは良くあることです。これについては、実績を積み上げ評価を高めることが解決に向けた早道となります。

 もちろん、新しいサービスのさらなる進化も必要です。「ひび割れ率」「わだち掘れ量」などIRI以外の指標に対応し、3指標を一括して算出する技術への対応がまず求められます。AI(深層学習)技術を活用した画像認識による路面形状変化の検出精度の向上や、画像解析技術の高度化による指標算出精度の向上も不可欠です。また、道路管理では路面だけでなく、路面下の空洞探査なども求められます。レーダーによる探査で損傷が路面に現れる前に異常を発見する技術など、既に実用化されている技術の活用も視野に入れるべきです。

 これを自社単独で行うと時間がかかります。短時間でこれを実現するには、さまざまな技術を有する企業などとパートナー連携を行うことが必要です。サービス進化に必要な技術を組合せ、より便利な形でユーザにサービス提供を行うのです。結果として、これが新しい技術の早期普及につながります。

 また、行政サイドにおいて、このような新しい技術やサービスの活用を促進する制度的な枠組みを一層活用するとともに、場合によっては、新しい技術の有効性を検証・評価することで、実質的な「お墨付き」を与えることも必要です。同社が自社の強みである警備車両のさらなる有効利用、それからさまざまな企業との連携を進め、「道路モニタリングサービス」をさらに進化させることを期待したいと思います。

 

今回紹介した事例

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路面状態の異常監視から 舗装修繕計画までサポートする 「道路モニタリングサービス」

 当社では、オフィスや家庭だけでなく、トンネルなどで非常事態が発生した際に駆けつける社会インフラに関する警備も行ってきた。2014年より路面性状評価の実証実験に参画し、道路の維持管理に資するサービスの検討を進めてきた。...続きを読む

 

 
 
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