本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は、ベンチャー企業のかもめや(本社:香川県高松市)の無人物流プラットフォームを取り上げます。

【ここに注目!IoT先進企業訪問記(17)】

先進技術の組み合せでビジネスを創る-「かもめや」のハイブリッド無人物流プラットフォーム構想

 かもめやの小野 正人代表取締役社長を取材して驚いたのは、一般の企業では数人のチームで実施することを一人で担当していることでした。ベンチャー企業には何でもできる人が結構いますが、ビジネス構想・資金調達・模型制作によるPoC(Proof of Concept:概念実証)・コードレビューと、マネジメントからハード・ソフトにまたがるエンジニアリングまで幅広く対応できるマルチタレントは多くはありません。そのような多才なリーダーが率いる同社の取り組みでとくに参考になったのは、社会課題の解決に向けて上手に先進技術を組み合わせると新しいビジネスが創出できるということ。その取り組みをご紹介しましょう。

1.  これからの社会に不可欠な無人物流システム

 かもめやは、2020年の実用化を目指し、離島向け次世代ハイブリッド無人物流プラットフォームの開発・実証を進めています(図参照)。ハイブリッドと称しているのは、陸海空にまたがるからです。当面のビジネスの対象である瀬戸内海には、727の島がありますが、そのうち145が有人島で、さらにその中の49は人口100人未満の小島です。高齢化・過疎化の進展に伴う定期船の減便などで、既存の物資輸送システムの維持が危ぶまれる島々が多くなっています。こうした状況は、離島だけでなく本土の多くの過疎地でも同じです。この課題を解決する手段として期待されているのが、コストが安く手軽に使える無人の物資輸送システムなのです。

図:かもめやのハイブリッド無人物流プラットフォーム構想の概要図
図:かもめやのハイブリッド無人物流プラットフォーム構想の概要図
【出所】かもめやホームページ(http://www.kamomeya-inc.com/
 

 このようなシステムは決して夢物語ではありません。現に道路インフラ整備が遅れているアフリカの開発途上国では、車で素早くモノを届けることができない場合が多々あります。このため、ドローンのようにモーターで動く無人航空機で輸血用血液やワクチン、医療機材などを病院に届けるビジネスが実用化され、多くの命を救うことが期待されているのです。病院からの要請に対応し、血液などが入った箱を無人航空機に搭載、時速100km以上の速度で運搬し、病院の上空から8m四方の敷地に箱をパラシュートで正確に投下し、自動で出発地に戻るのです。

 残念ながら、日本の離島にこのシステムを適用するのは困難です。日本では狭い場所に人家が密集しており、航空法が求めている「第三者又は第三者の建物、第三者の車両などの物件との間に距離(30m)を保って飛行させること」「無人航空機から物を投下しないこと」という要件を満たすことが難しいからです。このため、同社は民家直近まで無人航空機を誘導せず、島毎に定めた固有の離着陸地点に誘導します。そして離着陸地点から配送先までは無人輸送車を利用することとしています。

 同社の構想は、国内外で実現に向け着々と実証実験を重ねています。瀬戸内海の直島から小豆島の間の海域をカバーする臨時の試験基地局を設置し、国内データセンター大手のさくらインターネット(本社:大阪市北区)が提供する920MHz帯通信モジュールを使った無人機運行管理用の通信システムの実証実験を2017年9月23日から開始しています。同年12月23日には、高松港と男木島を結ぶ9kmの区間で無人物資輸送艇による海上輸送実験を行っています。

 そして無人物資輸送の核となる3kgの物資輸送が可能な次世代物資輸送無人航空機も完成し、2018年2月1日からはスロヴェニア共和国で飛行試験を開始しています。

2.課題解決につながる先進技術をグローバル視点で選択

 広い空き地がほとんどない離島で離着陸するには、滑走路不要の垂直離着陸機(VTOL:Vertical Take-Off and Landing)が最適です。同社は、ビジネスでの運用条件や技術的な実現可能性を考え、航続距離100km、飛行速度100km/時、飛行可能時間60分、搭載重量5kgなどの要件を設定し、国内のドローンメーカー全てにコンタクトしたそうですが、要件を満たす機体を開発できる会社はなかったそうです。それで、海外に目を向け、数十社とコンタクトした結果、スロヴェニア共和国のAirnamics社をパートナーに選び、共同開発にこぎつけています。

 共同開発は成功し、先に述べたように現在は試験飛行段階ですが、この成功のベースとなったのはPoCです。小野社長は技術の目利きでもあるのですが、小型の無人航空機模型の製作を自社内でも繰り返し行う中で、ビジネスに使うことができ、かつ、技術的に実現可能な要件を割り出したのです(写真参照)。

写真:小野社長自身がPoCのために製作した無人航空機などの模型
 写真:小野社長自身がPoCのために製作した無人航空機などの模型
 

 自分で実際に製作してみると、例えば、エンジンやモーターなどの改善点や技術的な可能性が見えるのだそうです。また、無人航空機の機体を見ると、その値段も分かるようになったとのこと。ソフトウェアの分野では、オープンソースを活用することでPoCを容易に実現する環境が整っていますが、ハードウェアの分野でもモジュール化が進んでおり、モジュールの組み合わせで簡単に小型模型を製作し、性能把握することが可能なのです。小野社長はこの環境をフルに活用し、適切な開発目標を設定すると同時に目利きの能力を高めたのです。

 グローバル化を意識しているのは、無人航空機の開発だけではありません。無人航空機などの物資輸送手段の運航状況やその運航に大きな影響を与える気象状況を把握するための運行管理システムの開発もそうです。コア技術の一つとなるのは通信モジュールですが、この要件は海外利用が前提です。インドネシアやフィリピンなど、同社の技術を適用できる国はいくつかあります。開発当初から海外展開を想定し、グローバル視点でこれを進めているのです。

3.大きな構想を実現するための意外に堅実なビジネスプラン

 ハイブリッド無人物流プラットフォーム構想は壮大ですが、その道のりは一歩ずつ、とても堅実なものです。小野社長は2014年に起業していますが、実績がなかったため資金確保に苦労しています。創業資金となったのは、クラウドファンディングで集めた100万円。その後、顧客が想定できるビジネスである、海外にも持って行ける技術であるとの評価を得、民間のファンド資金の獲得に成功し開発を進めています。また、開発パートナーについては、直談判でプロジェクトに巻き込んでいます。海外企業に対してはスカイプを使ってプレゼンしたそうです。ファンドや開発パートナーを説得するために、プレゼンを重ねる内に魅力的ではあるが、堅実なビジネスプランができたような気がします。

 実際にビジネスを立ち上げるには、ビジネスプランの精密化と詳細化が必要です。かもめやは、実証実験のサポート、輸送コストや物資輸送システムの現状分析、無人航空機の離着率場所の候補地選定といった多岐にわたる詰めの作業を行うプロジェクトサポータチーム「かもめーず」を発足させています。中心となっているのは、小野社長が一緒に活動した瀬戸内国際芸術祭の仲間たちだそうです。このチームの活動の成否もビジネス成功に大きく関わってきます。

 ビジネスは、「無人航空機の運航には目視範囲内で無人航空機とその周囲を常時監視して飛行させること」という航空法の規制を考慮し、目視可能な島から始める予定です。また、当初の輸送対象は、重量が軽く必要度が高い医薬品を計画しています。それも複数者からの注文が一定数集まった時点で、一括配送するなどコスト面にも配慮したビジネスプランとなっています。箱のサイズについても、ネットショッピングでの注文の7割のものを運べるAmazonの箱のサイズを採用するなど極めて現実的です。

 小野社長は自分の勘を信じ、7割くらい実現可能だと感じたら実行するのだそうです。模型の製作などで磨かれた技術力と決断力が大きな構想の着実な成功に向けた鍵になりそうです。小野社長とかもめやの挑戦が成功し、物資輸送インフラにイノベーションが起こることを期待したいと思います。

今回紹介した事例

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陸・海・空の無人輸送で離島の物流を変える-
かもめや「ハイブリッド無人物流プラットフォーム」

 瀬戸内海の小島の多くは、日用品等の確保が困難な上、高齢化・過疎化が急速に進み、物流インフラを維持できるかどうか危惧されている。そのため当社では、離島向け次世代ハイブリッド無人物流プラットフォームの開発・実証を進めている。 ...続きを読む

 

 
 
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