本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。今回は、東京大学発ITベンチャーの株式会社リアルグローブ(本社:東京都千代田区)のドローンを使った広範囲の状況把握サービス「Hec-Eye(ヘックアイ)」を取り上げます。
【ここに注目!IoT先進企業訪問記(25)】
ドローンの眼で迅速に状況を把握し地図上に表示-リアルグローブのHec-Eye
1.リアルタイムの映像やデータと地図を組み合わせる
Hec-Eyeは、ドローンで取得する映像などの各種データやその位置情報、ドローンのパイロットや現地スタッフの位置情報などを地図上でリアルタイムに共有することを可能にするサービスです。しかもクラウドを利用して情報を共有するサービスなので、手軽に導入できます。
現場情報を収集するために、現場にいる人(例えば、パイロット)のスマートフォンにアプリをインストールします。これで、プロポ(ドローンを制御する装置)に送信される映像がスマートフォン経由で自動的にクラウド上にアップロードされるようになります。また、ドローンの位置、パイロットや現地スタッフの位置も自動的にクラウド上にアップロードされます。本部や各拠点では、クラウドにアクセスすればアップロードされた情報をリアルタイムに地図上で見ることができます(図1及び図2参照)。
ドローンの眼と地図情報を組み合わせるこの簡単な仕組みで、広範囲の状況が迅速かつ正確に把握可能になります。また、同じ情報を共有した上で判断や指示を行うので、本部と現場の業務コミュニケーションが円滑になるという大きな効用が生まれます。
ちなみにHec-Eyeのヘックは、ギリシア神話に登場する50の頭と100の腕を持つ巨人のヘカトンケイル(Hecatoncheir)から来ています。多数のデバイスの眼で広範な地域の状況をリアルタイムで把握することを可能にするHec-Eyeに、100の眼を持つヘカトンケイル並みの活躍を期待し、多くの眼でまちを見守るシステムというイメージで命名されました。
図1:Hec-Eyeにおける情報伝達
図2:Hec-Eye画面のイメージ
2.総務省事業に採択された大きなメリット
Hec-Eyeの開発が進んだきっかけは、2015年度補正予算で実施された総務省の「IoTサービス創出支援事業」に採択されたことです。同支援事業に採択されたのは、一般社団法人救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会(EDAC注)が主体となり取り組んだ「救急医療・災害対応におけるIoT利活用モデル実証事業」です。リアルグローブは九州大学、福岡市、ゼンリンなどと共にこの実証事業に参画し、Hec-Eyeの開発と有用性検証を行ったのです。
同社の大畑貴弘代表取締役社長は、総務省事業に採択されたメリットとして
① 自治体とのコンタクトが取りやすくなった
② 総務省の支援でベンチャー企業だけでは難しい実証成果の幅広いアピールが可能になった
とその効用を述べています。
注:Emergency medical and Disaster coping Automated drones support system utilization promotion Council
3.課題解決を重視するIoTサービス創出支援事業
IoTサービス創出支援事業は、地方公共団体、民間企業、大学、NPO法人などから構成される地域のコンソーシアムが、医療・福祉、農林水産、防災など生活に身近な分野で地域課題の解決に向けてIoTサービスの実証を行い、他の地域が参照できるリファレンスモデルを創出・展開し、かつ、サービスの実現に必要なルールの明確化を行う事業です。
IoTサービスを成功させるポイントの一つは、はじめに技術ありきではなく解決すべき課題をまず明確化することです。本事業では、申請の際に地域課題の明確化とその解決に向けたリファレンスモデルを提示することを求めています。また、IoTサービスの普及・展開に必要なルールの明確化も求めています。技術開発とその実証に際して地域課題の解決を重視するなどIoTサービスの特徴を踏まえ、より実現性が高い結果が得られるよう申請者への要求に工夫を凝らしているのです。
サービスに必要なルールを明確化する点もユニークです。ちなみに「救急医療・災害対応におけるIoT利活用モデル実証事業」では、
① 有人ヘリとの役割分担や事故防止に関するルール
② ドローンが飛行可能な状態にあるのかどうかの判断基準の策定と点検・整備に関するマニュアル整備
③ ドローンの運用に必要なパイロットの技能基準の策定と技能認定
④ 救急医療・災害対策におけるドローン運用のための飛行マニュアル整備
などの必要性を確認しています。
4.事業化に向けた挑戦はこれからが本番
同実証事業は2016年4月に起きた熊本地震直後に九州で実施されたこともあり、当初から大きな注目を集めました。また、ドローンが救急医療・災害対応の現場で活用可能だということも、実証事業やその成果発表を兼ねたシンポジウムを通じて次第に理解されるようになりました。しかしながら、事業化に向けた挑戦はこれからが本番です。
ドローンのメリットは、
① ヘリコプターに比べて運用費用が2桁以上やすいこと(4,000~5,000万円する小型ヘリコプターに対し、業務用ドローンの価格は100万円以下からある)
② 現場に近寄って見ることができること
③ 現場の人に使いやすい手段であること
などです。このため、ヘリコプターを独自に持つことが難しい市町村を中心に関心が高まっています。
5.期待されるのは見回りの効率化
リアルグローブの事業化戦略は堅実です。同社は、救急医療・災害対策などのように発生頻度が低い事象をメインに据えるのではなく、地域が日常の生活の中で抱えている課題解決をテーマに事業化戦略を考えています。「普段から使っていないと、いざという時には使えない」という当たり前ではありますが、現実にはなかなか実行できないことを事業化に向けて実践しているのです。
着目したのは見回りの効率化です。例えば、鳥獣害対策のために地域では捕獲用のわなを設置していますが、わなにイノシシやシカなどが入っているかどうかを見回る作業が高齢化の進行で負担になっています。この見回り作業をドローンで効率化できるのです。この他、田んぼの状況確認、農作物の盗難防止、森林管理、道路点検、公共工事の進捗確認など、手間暇がかかり体力も要する見回り作業を効率化したいというニーズはいろいろな領域で顕在化しています。同社の事業化戦略は、まさに高齢化と人手不足という現実に深刻化している地域課題を踏まえた上で立てられているのです。
6.事業化にはある程度の体力が不可欠
Hec-Eyeを事業化する道筋は容易なものではありませんが、一歩一歩着実に進んでいます。まずは、マラソン大会での活用が始まっています。2017年4月23日に開催された「高橋尚子杯ぎふ清流ハーフマラソン2017」や2017年11月12日に開催された「第30回いびがわマラソン」において、上空からのリアルタイム映像を活用した救護者の早期発見と救護チームのオペレーション効率化にHec-Eyeが活用されたのです。
地域課題の解決に向けての活用に関しては、2017年8月22日に熊本県の南小国町と「ドローンを活用したまちづりに関する協定書」に合意しています。また、2018年8月24日には大分県ドローン協議会の「災害発生時におけるドローンの活用」をテーマとしたドローン産業研修の開催に協力しています。
地方自治体相手のビジネスは、実証により有用性を確認してから予算化までに2年くらいかかります。時間がかかるので、ベンチャーには体力的に厳しい領域です。したがって、ベンチャーファンドが競って出資するような領域のビジネスではありません。でも、地域の生き残りには必須の取り組みなのです。
7.期待される人工知能の活用
現在、リアルグローブはドローン等を活用した各種データ収集プラットフォームの開発・構築を実現した段階です。今後は、このプラットフォームを活用した各種見守りの自動化が求められるようになります。この「見守りの自動化」は、人工知能の活用が有望視される領域で、かつ、大きな価値創造が見込める部分です。同社の今後の発展は、まさにこの部分の開発にかかっているといっても過言ではありません。
人工知能の活用に必要な情報を集めるHec-Eyeというプラットフォーム機能を既に有している優位性をフルに活用し、「見守り機能の自動化」をすすめることでリアルグローブの事業が花開くこと、それから同社の事業が地域の安全・安心やまちづくりに貢献することを期待したいと思います。
今回紹介した事例ドローン映像などのリアルタイム共有によって災害対応の迅速化を実現する -リアルグローブ「Hec-Eye(ヘックアイ)」ドローンは、空中からの俯瞰映像を格段に安価に、情報収集することができるキラーツールである。当社は、災害時に自治体が抱える様々な課題の解決手段として、ドローンの映像をリアルタイムに共有できるシステム「Hec-Eye(ヘックアイ)」を開発した。…続きを読む |
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