本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。今回は、工業計器・プロセス制御専業メーカーである横河電機(本社:東京都武蔵野市)の100%子会社であるアムニモ(本社:東京都武蔵野市)の取り組みについて紹介します。同社は、産業向けIoTの手軽な実現に向けて挑戦しています。
【ここに注目!IoT先進企業訪問記(37)】
サブスクリプション方式の導入で新規顧客を開拓-アムニモの産業向けIoTサービス-
1.狙いは中堅/中小企業のIoT化支援
アムニモは、産業向けIoTを簡単に使うためのサービスを提供する会社です。2018年5月に発足しました。社名の“amnimo”は、「流れ」を意味するラテン語の“amnis”と、「測る」を意味するラテン語の“modum”を組み合わせた造語で、業務プロセスの流れを測ることで変化をもたらし、顧客価値を共創したいとの思いを込めています。
IoTの導入には、通常、手間のかかる面倒な作業が必要です。センサーの選択と取り付け、センサー接続のためのソフト開発、モバイル回線やクラウドの設定、セキュリティや運用状態の監視などです。ところが、「施設栽培向けCO2濃度管理レシピ」「水産冷凍室内の温度監視レシピ」「設備稼働監視レシピ」といった同社のサンプルアプリケーションを活用すると、これが大幅に簡略化され、手軽にIoTを使えるようになるのです。
同社がターゲットとしている顧客は、中堅/中小企業です。これらの企業では、深刻化する人手不足や熟練工の退職などを背景に省力化や省人化の機運が高まっており、その実現ツールとしてIoTに期待を寄せています。しかし、これらの企業ではICT人材が大幅に不足しており、簡単に導入できるものでないとIoT活用は進みません。投資できる額も限られているため、各社ごとにカスタマイズして提供する大企業相手と同様のやり方はコスト的に困難です。
そこでアムニモでは、産業向けIoTの導入に必要な機能をパッケージ化し、さまざまなレシピとして提供しています。「レシピ」とは、多様な業務課題に応じて、同社が用意した手順書であり、センサーデバイスの選定から接続、設置、システムのセッティングまでが明快に記載されており、ユーザーが導入しやすいソリューションのメニューを実現しています。レシピを使用した業務の見える化によって自社の課題が明確になり、自社のプロセスに最適化した、もしくは特定の用途に特化した解決策が必要となった際は、同社または同社パートナーを介したカスタマイズの対応もできるようにしています。これで導入の容易化と低価格化を実現し、中堅/中小企業のIoT化を支援しようとしているのです。
2.親会社のビジネスと対極のアムニモのビジネス
アムニモの親会社の横河電機にとって、IoTは新しい概念ではありません。センサーを取り付け、データを収集し、活用することは、制御システムでは昔からやっていることです。しかし、アムニモのビジネスのやり方は、これまでとは全く違います。
横河電機の主力事業は、生産設備の制御・運転監視を行う制御システムです。主なユーザーは、石油、ガス、化学、電力、鉄鋼、紙パルプ、薬品、食品などの分野の大企業です。同社は、プラント制御分野でこれらの会社のビジネスパートナーとして、コンサルティングから、効率的で安全な操業を実現する機器やシステムの提供・設置、納入後の運用・保守サービス・更新まで充実したソリューションを提供しています。顧客ごとに異なるニーズに寄り添い、それぞれに最適なシステムを一から構築・提供することが同社のビジネスの基本なのです。
一方、アムニモは、先ほど述べたように、「レシピ」と名付けた汎用化されたサービスをパッケージとして提供することが基本になります。ビジネスのやり方は全く違いますが、技術やノウハウには共通部分が多々あります。アムニモ創業のきっかけは、「親会社に蓄積された技術やノウハウを、全く違った汎用サービスという形態で提供することで、新しいビジネスを創出できるかもしれない」という気付きです。これによって、安全に確実に「測る」ことをサービスにするという“Measurement as a Service (MaaS)”というコンセプトが生まれました。そして、親会社がこのコンセプトのビジネス化を後押し、アムニモがスタートしたのです。
3.課題起点のサービス(レシピ)開発
アムニモは、下図に示した基本サービスに加え、20個のIoTサービスをレシピ (アムニモの各種レシピの概要を参照)という形で提供しています。レシピの開発に当たってはさまざまな企業を取材し、現場が困っている、あるいは面倒だと感じている課題をひとつひとつ拾っています。その中で、必要な管理ができていないという多くの現場に共通する課題を解決するためのサービスをレシピという形にまとめて提供しているのです。
レシピの開発に当たっては、顧客がIoT導入に当たってつまずきそうな箇所、例えば通信回線やクラウドの設定作業などは自動で完了するように工夫しています。また、顧客のスマートフォンでQRコードを撮影するだけでエンドポイントデバイスやゲートウェイの登録を可能にする、あるいは、電子商取引サイト経由でサービス加入を可能にするなど、顧客が簡単にサービスを利用できるようにユーザーインタフェースやユーザー体験にもこだわっています。
アムニモの基本サービスには、センサーからのデータ取得、通信、運用、監視、セキュリティまで、IoTの導入から運用までに必要な機能が全て含まれています。そのため、専門的な知識がなくても、簡単な接続ですぐにIoT活用が始められます。
図:アムニモの基本サービスの概要
4.サービスの大きな特徴はサブスクリプション方式の導入
アムニモが提供するサービスの大きな特徴の一つは、毎月一定額の負担で利用できるサブスクリプション方式の導入です。制御システムのようなモノを売るのではなく、サービスというコトを売っているのです。
IoT導入ではハードウェアの購入やシステム構築など結構な額の初期投資が必要で、これが中堅/中小企業には大きなハードルとなっています。サブスクリプション方式は、これを下げる効果を持っています。同社の見積書を見ると、エンドポイントデバイス5個、ゲートウェイ1台、月使用データ容量100Mバイトで月額20,870円(税別)などとなっています(ただし、センサーやデータを表示するスマートフォンやパソコンは顧客側で用意)。さらに、1測定点からの小規模構成でスモールスタートし、効果を確認した後に規模を拡大することも可能となっています。
また、「一定期間導入し、その効果を見た上で本格導入したい」「試験的に導入し、現場の対応が可能かどうか問題点を洗い出したい」といった現場の要望に応え、一か月という短期間の契約も可能としています。手軽に導入でき、必要がなければ途中でやめることもできるという形でサービスを提供しているのです。
5.協業によるサービス拡大戦略
中堅/中小企業のIoTに対する期待は高まってはいるものの、そのニーズに応える製品やサービスの展開は遅れています。アムニモの産業向けIoTサービスの展開は始まったばかりですが、ユーザニーズに合致したサービスを急ピッチで展開すれば、それがマーケットシェア確保につながる状況です。
しかし、これは簡単ではありません。まずはレシピの数と接続可能なセンサーの種類を増やす必要があります。20種類のレシピを開発し公開すると、こんなサービスも欲しいとつぶやいてくれる顧客が増えたそうです。同社は、人が手作業でやっていた部分の自動化を基本に、今後、レシピを増やしていく予定です。またユーザーからの要件に合ったセンサーを活用したシステム提案も個別に実施しています。
しかしながら、産業用IoTの活用を進めるには、単独での展開には限界があります。このため、同社はパートナー企業との協業を推進しています。販売促進、事業開発、アプリ・ハードウェア開発などの分野でパートナーを募集し、彼らと協力しながら事業を展開しています。協業を促進するため、同社は、パートナーの役割に応じ、技術や基本サービス、アプリ作成に必要な開発ツール、作成したアプリの販売環境などを提供しています。
6. ビジネス拡大の鍵を握る開発サービスの汎用展開
我が国では、顧客との協業で開発したサービスは利用者が当該顧客にとどまってしまい、他の顧客には使われないことが一般的です。アムニモは、これをパッケージ化することで汎用展開しています。このさきがけとして、ケミカルポンプを中心とした流体制御機器メーカーである株式会社イワキ(本社:東京都千代田区)との協業で、渦巻きポンプ注と周辺設備を遠隔監視する「pump guard(ポンプガード)」というサービスを開発しています。これについては、イワキの競合メーカーにも展開する予定です。
IoTは囲い込みのツールとして使われています。このため、同業他社が同じIoTサービスを使うことは少ないのですが、これは顧客にとっては異なるメーカーのポンプの一元監視が困難となることを意味します。今までのビジネスの主流であった「囲い込み」の発想とIoTの本質である「コネクティビティ」の発想のどちらが主導権をとるのか、これが市場で問われることとなります。諸外国ではコネクティビティを優先する方向で動いていますが、アムニモの取り組みが、我が国でどのように評価されるのか注目されるところです。
注:化学工業、薬品製造、食品製造、飲料製造などの生産設備で幅広く使われているポンプ。流体の圧力を高めるために羽根車の回転による遠心力を用い、液体を低い場所から高い場所へ移送する。
7. 画像、映像の取り扱いが今後の課題
アムニモのサービスは、顧客ニーズを踏まえ開発されています。パートナー企業との協業でさまざまなニーズを汲み上げ、IoTサービスのレシピとデータ収集に必要なセンサーを増やすことがまずは必要です。そのレシピを増やす上でボトルネックとなる事項があります。それは画像や映像データへの対応です。
現在、同社のレシピで取り扱っているのはセンサーデータが中心で、画像や映像データへの対応はこれからです。これらに対応するには、各種データを取得するエンドポイントデバイス、ゲートウェア、通信回線、クラウド周りでの開発に加え、エッジでの画像信号処理デバイスの開発などさまざまな開発が必要になります。
また、データを全てクラウド上に保管すると、コスト増につながる可能性があります。IoT活用が本格化するとデータ量が急増する場合が多いので、このコストを抑えるソリューションも不可欠だと思われます。
いくつか課題があるアムニモの産業向けIoTサービスですが、中堅/中小企業におけるIoT導入の課題に向き合い、パッケージ化したサービス提供とサブスクリプション方式により導入におけるハードルを下げた点は注目されます。これらの企業が本格的にIoTを使いこなすには、コードを書けるICT人材の育成という大きな課題もありますが、アムニモのサービス提供がきっかけとなり、IoT活用の裾野がさらに拡がることを期待したいと思います。
今回紹介した事例
中堅・中小企業のIoTを活用した業務課題の解決を手軽に支援する- アムニモのMeasurement as a ServiceIoTを活用した効率化や自動化に期待が集まっているが、多くの中小企業にとってIoTの導入は、様々なハードルがあり容易ではない。当社が開発したIoTプラットフォームで動く基本サービスamnimo senseは、当社が紹介する「レシピ」を活用することで、様々な業務課題を解決するシステムを容易に実現できる。...続きを読む
|
|
IoT導入事例の募集について