本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。
今回は2023年度のIoT導入事例の概要紹介の2回目です。
【ここに注目!IoT先進企業訪問記 第84回】
ローカル5Gを活用した業務スマート化-2023年度のIoT導入事例の概要(その2)
1. はじめに
2023年度のIoT等導入事例17件の概要紹介の2回目は、ローカル5Gを活用した6事例を紹介します。これらは、いずれも総務省の「令和4年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に採択された案件です。
いずれの事例も課題の明確化やその解決策について、しっかりと検討した上で実証しているのが特徴です。
2.鉄道業務のスマート化に挑戦した住友商事と東急電鉄
鉄道事業では、担当者が定期的に線路や沿線設備を巡視し、点検しています。レールに異常はないか、周辺の樹木が成長して線路敷地内にかかっていないか、レールを支えている砂利が崩れていないかなど、確認する項目は多岐にわたります。しかも、異常の判断には、高度なスキルと経験値が求められます。
住友商事と東急電鉄を中心とするコンソーシアムは、この業務をスマート化するために日々運行する営業車両にカメラやセンサーを取り付けて画像などのデータを集め、AIによる異常の自動検知に挑戦しています。また、線路敷地内の更なる安全性向上を図るために、沿線カメラとAIを活用し踏切渡り残りや線路内進入の自動検知にも挑戦しています。(図1参照)ローカル5Gに注目したのは、映像伝送に必要な高速伝送性、安定した品質、それから高いセキュリティ性などが必要と考えたからです。
異常の自動検知の実証項目の選択に関しては、現場保守員からのヒアリング結果を基に、数ある線路関係設備の中から優先順位付けを行い、かつ、リアルタイムに異常検知が必要なものを選択しています。実証項目の中には実用化が見えてきたものもありますが、AIモデルの改善による更なる検知率向上、事業者ごとに異なる環境に対応可能な汎用的なAIモデルの構築など、引き続き実用化に向けた取り組みを実施しています。踏切渡り残りや線路内進入の自動検知についても同様です。
図1:車載モニタリングカメラや沿線カメラを活用した鉄道業務のスマート化の概要
(出所:住友商事提供資料)
このコンソーシアムの取り組みで参考になるのは、イシューツリー注1の活用です(図2参照)。現場と議論した内容をイシューツリーで可視化することで、整理できていないところが明確になり議論が深まるなど、課題の明確化とその解決策の検討に有効でした。
注1:イシュー(解決すべき問題)の全体像を可視化するために、イシューをツリー状に整理したもの。問題解決方法を検討するとき、ある仮説が正しいかどうかを分析・検証したいときに使うフレームワーク。「どうすれば〜できるか?」など、問いを用いて表現することで、考えるべき要素を明確化し、共有しやすくすることができる。
図2:課題解決の検討のために作成したイシューツリーの例
(出所:令和4年度ローカル5G開発実証等成果報告書「複数鉄道駅および沿線におけるローカル5Gを活用した鉄道事業者共有型ソリューションの実現」,令和5年3月,住友商事株式会社)
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3. 港湾・コンテナターミナルのDXに挑戦したNTT西日本
港湾事業はサプライチェーンのグローバル化により重要性が増しています。しかしながら、大型コンテナ船の寄港増加による荷役時間の長期化、コンテナターミナルのゲート前や周辺道路における混雑の深刻化、現場作業員の高齢化が進んでおり、人手不足も懸念されています。
NTT西日本を中心とするコンソーシアムでは、国交省が進めているAIターミナル、清水港で実施されているRTGオペレーション注2の効率化事例を事前に調査し、①各種システムにより異なっていた通信手段のローカル5Gへの一本化とコンテナターミナル内業務ネットワークの高品質化、②コンテナプランニングデータのリアルタイム伝送による保管工程業務の効率化、③トレーラー待機場の混雑状況の可視化の実証に挑戦し、成果を上げています(図3参照)。
この取り組みの中で参考になったのは、RTGのオペレータやそれを管理する人達を集めた検討会を開催し、匠の技であった部分を形式知化してアプリの中に織り込んだことです。また、マニュアル整備による理解促進、パソコンの使い方の指導など丁寧な対応を徹底して、現場の方々に納得してもらいながら実証を進めたことです。なお、このコンソーシアムもイシューツリーを活用しています。
注2:RTGとは、“Rubber Tired Gantry crane”の略であり、タイヤ式門型クレーンを表す。RTGはコンテナターミナルにおける荷役機械の一つである。
図3:港湾・コンテナターミナルのDX推進のイメージ
(出所:NTT西日本提供資料)
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4. 火力発電所のスマート保安に挑戦した九州電力
九州電力は、九電グループ経営ビジョン2030において、「保守・運用業務の効率化・高度化」によって「安定供給とコスト低減の両立」を図るという目標を掲げています。この一環として、火力発電所ではスマート保安の実現に向けたDXを推進しています。
このような状況の中、注目したのはローカル5Gです。少ない基地局で広範なエリアをカバーでき、かつ、大容量で高品質なネットワーク整備を手軽に行うことが可能だからです。実証では、同社を中心としたコンソーシアムにより熊本県天草地区にある苓北火力発電所をフィールドとして、ローカル5Gを活用した①AI画像認証による車両の入退管理、②自動走行ロボットによる車両誘導、③ドローンによる巡視点検、④高精細カメラによる不審船の監視の4つの課題解決に挑戦し、目標を達成しています(図4参照)。
この取り組みの中で参考になったのは、イシューツリーなどを利用して課題とその解決策、実証内容を明確化していることです。特に、火力発電所を担当している火力発電本部の業務基盤グループと繰り返しディスカッションを行い、課題を抽出しています。
また、現場である火力発電所においても、抽出された課題や解決策を現場に持ち込んで議論し、実証内容を改善しています。現場からは「夜間も監視できるようにしてほしい」などの提案が出され、それらに対応できる実証を心がけています。
図4:ローカル5Gを活用した火力発電所のスマート保安のイメージ
(出所:九州電力 2022年11月7日付けプレスリリース「総務省の「令和4年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に採択されました -地方公共団体と連携したローカル5Gの活用による火力発電所のスマート保安の実現-」)
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5. 離島プラント工場の業務効率化に挑戦したハートネットワーク
ハートネットワークは、愛媛県の新居浜市、西条市をエリアとするケーブルテレビ事業を営んでいます。また、街づくり事業に取り組むため、他社と積極的に情報交流を行っています。離島プラント工場の課題解決については、交流の場に参加していた他社からの情報で挑戦しています。
調べてみると、その工場では業務に活用できる通信ネットワークが整っておらず、業務の多くで目視、紙を使うなどしていました。このため、ハートネットを中心とするコンソーシアムは、工場内のDXには、大容量で高品質のネットワーク整備を手軽に行うことが必須であると考え、プラント工場内の通信ネットワークをローカル5Gで構築し、①大容量データの共有による機械点検業務の効率化、②ドローン搭載4Kカメラ画像による原材料の体積推定、③4Kカメラ映像による不法侵入者の検知、④AIによる精製物の自動粒度判定の4つの実証に挑戦し、成果をあげています(図5参照)。
図5:離島プラント工場の業務効率化の概要
(出所:令和4年度ローカル5G開発実証等報告書「ローカル5Gを活用した精製物のAI粒度判定等による離島プラント工場の業務効率化の実現(概要版)」,令和5年3月,ハートネットワーク)
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6. 河川災害のリアルタイム状況把握と無人化施工による復旧工事に挑戦した国際航業等
河川堤防決壊などの大規模災害時に必要なのは、現場情報をいち早く収集し、関係者で共有することです。これによって迅速な対応が可能となり、二次的な災害を低減することができます。
被災現場の状況を安全かつリアルタイムに把握するには、カメラを取り付けたドローンで河川氾濫や堤防決壊などの状況を撮影し、映像をリアルタイムに関係者で共有することが効果的です。また、水位低下後に迅速で効率的な応急復旧工事を実施するには、被災箇所の地形変化計測データをもとに復旧工事を設計し、その設計に基づき無人化施工の建機で工事を実施することが有効です。(図6参照)
これらの実現には河川エリアで大容量データを遅延なく扱えるネットワーク環境が不可欠です。国際航業を中心とするコンソーシアムは、荒川下流域(東京都北区岩淵地区、足立区新田地区)で可搬型ローカル5G基地局を活用した実証を行い、成果をあげています。
図6:ローカル5Gを活用した被害状況把握と無人化施工による応急復旧の概要
(出所:国際航業提供資料)
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7.洋上風力発電の運用保守効率化に挑戦した秋田ケーブルテレビ
秋田ケーブルテレビは、「つながる楽しさ 広がる暮らし 秋田とともに未来を創造」という企業理念のもとケーブルテレビを中心とする事業を展開しています。同社は、地域の課題をICTで解決することにも注力しており、その一環として、国内初の商用運転を開始した洋上風力発電の運用保守効率化に挑戦しています。
洋上風力発電では、ライフサイクルコストの 35 %以上を占めるとされる運転保守のコスト削減や売電収入に直結する設備利用率のさらなる向上が課題となっています。この課題解決のために秋田ケーブルテレビを中心とするコンソーシアムが実証したのは、洋上風力発電のブレードのメンテナンスの効率化のためにドローンで撮影した高精細画像をローカル5Gの活用によりリアルタイムで伝送し、飛行しながら損傷箇所の点検を行うことです(図7参照)。船で施設にアクセスした上で人手によるメンテナンスやドローン帰還後に撮影した高精細画像を保存したSDカードの回収による確認という従来方式の非効率改善を狙ったのです。
図7:ローカル 5 G を活用したドローンによる風車ブレード・メンテナンスのイメージ
(出所:令和4年度ローカル5G開発実証等報告書「ローカル5Gを活用した風力発電の設備利用率向上によるカーボンニュートラル社会の実現(概要版)」,令和5年3月,秋田ケーブルテレビ)
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8. おわりに
ローカル5Gは「広いエリアを効率的にカバーできる」という優位性を持っています。また、映像伝送に必要な高速伝送性、安定した品質、それから高いセキュリティ性などの特徴も有しています。ここに取り上げた6事例はインフラや大規模な工場を実証場所とするものですが、それぞれの事例が抱えている課題解決のためにこれらの優位性や特徴を活かすことができるユースケースであったと思います。このようなユースケースを突破口に、ローカル5Gの活用がさらに進むことを期待したいと思います。
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