本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は、IoT機器設置工事の分野で抜本的業務改革を実現したベイシス株式会社(本社:東京都品川区)の取り組みを紹介します。

ここに注目!IoT先進企業訪問記(42)

IoT機器設置工事の抜本的業務改革を実現したベイシス

1.  はじめに

 現在、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation:DX)の重要性とその推進の必要性が、各所で叫ばれています。DXとは、進化したデジタル技術を活用することで、人々の生活や社会をより良いものに変えることを意味します。Digital Transformationの略称がDTではなくDXなのは、交差するという意味を持つ「trans」を「X」と略することから来ています。

このDXを実現するには、次の条件を整えることが不可欠です。
① 経営層がDXの必要性を理解し、実現に向けてリーダーシップを発揮すること
② DXの目的を明確化し、DXが効果的な業務を選定すること
③ 業務を実施している現場に的確なICTソリューションを提示すること
④ 現場の説得と現場要望を速やかに開発サイドにフィードバックすること
⑤ ICTソリューションの深掘りと横展開を実施すること

 これらを整えるのは一見簡単そうですが、実際にはそうではありません。DXの失敗例で多いのは、経営者が良く分からないままにDXの実施を指示する、指示された者が既存業務を単にICTで置き換え現場ニーズと乖離したソリューションを提示する、現場がソリューションの活用に積極的ではない、などです。
 

2.  ベイシスのDXの概要

 ベイシスの創業は2000年。比較的若い会社です。携帯電話基地局などの工事や運用保守、スマートメーターなどのIoT機器の設置や運用保守などを行っている会社です。この会社が開発したのが、BLAS(Basis Listing Application System)と呼ばれているプロジェクト管理ツールです。IoT機器の設置工事を行う作業者の出発前登録、工事の実績登録と進捗管理、機器の写真登録と管理、作業報告の自動作成などの工程をリアルタイムに把握・管理するツールです(BLASの利用イメージは図1参照)。作業者はスマートフォンから情報を入力し、その情報はクラウド上で管理しています。

 このごく一般的なプロジェクト管理ツールに見えるBLASを活用し、抜本的な業務改革を実現したのは、スマートメーターの取替工事です。電話やメールで実施していた連絡をウェブ参照に一元化、工事をしながら写真を撮ることで報告書を自動作成、手間のかかる機器の確認や数値の事後確認を基本的にAIが行い、人が写真を見ながら確認する工程の抜本的改革を実現しています。これによって、一日当たり300~400分を要していたスケジュール管理、進捗管理、報告書作成の作業を20~30分に短縮し、効率の大幅アップに成功しています。現在、スマートメーターの交換作業は一件あたり10~15分に短縮され、一人の作業員が一日で30~40か所の作業を実施しているそうです。(詳細については、「IoT導入事例紹介」の同社の事例を参照
 

図1:BLASの利用イメージ

図1:BLASの利用イメージ
【出所】ベイシス提供資料
 

3. ベイシスがDXに成功した理由

 では、ベイシスが何故DXに成功したのか、説明しましょう。
 

3.1  トップの理解とリーダーシップ

 ベイシスの吉村 公孝代表取締役社長は、新しいことを始める、やり方を新しくすることが好きで、最新技術が会社の業務にどう活用できるかをいつも考えています。しかも現場を良く把握し、大事にしています。AIやRPA(Robotic Process Automation)の普及もありICTを活用した業務の自動化にはかなり以前から注目していたそうで、自社現場の生産性を確実に上げることができる手段として、社内でもいくつかのトライアルを行なっていました。

 吉村社長からは、今後の電気通信工事の効率化・自動化に関するビジョンも伺いましたが、改革を現場に丸投げせず、必要に応じ判断・コミットする姿勢、それに加えて、現場を抱えている業務ではソフトウェア開発だけでは改革は難しく、ドローンやRPAの導入も必要と考えておられることが印象的でした。
 

3.2  目的の明確化と的確な業務の選定

 BLAS導入の目的は、IoT普及のボトルネックである工事コストの低減という明確なものでした。IoTを導入したいが工事費が高い、機器のメンテナンス費用が高いなどの課題を指摘される顧客が多数いることに着目し、フィールド作業の管理工数や作業工数を減らすことを考えたのです。当初は、同社の管理工数削減のために開発を開始したのですが、途中で同社に加え顧客、施工会社にも対象を拡大することでより大きなメリットが生まれることに気付き、この3者のwin-win-winの関係構築も目的に追加しています。自社に閉じた価値創出ではなく、他社も巻き込んだ価値創出に舵を切ったのです。

 また、数が多く比較的単純な業務であるスマートメーターの交換工事から着手しました。一日におよそ千件の工事を行なっているこの業務では、毎日夕方に全ての工事結果が現場から作業報告書として上がってきていました。この千件を全部人手でチェックし、翌日、顧客に報告するのは多くの要員確保が必要で採算面から厳しく、まさにICT活用による自動化が求められる業務だったのです(図2参照)。
 

図2:BLASの作業報告書自動作成機能の導入前後のイメージ

図2:図2:BLASの作業報告書自動作成機能の導入前後のイメージ
【出所】ベイシス提供資料
 

3.3  現場に対する的確なICTソリューションの提示

 BLASの開発は、現場管理をしている部署と開発を行うシステムエンジニア(SE)とが密に連絡をとりながら行っています。現場管理の人たちが課題を提示し、それを解決するICTソリューションをSEが開発したのです。また、SEが現場作業者の仕事を観察し、自動化ソリューションを提示したこともあるそうです。このように、現場の要望を取り入れながら開発を行っています。

 ポイントは3か月~半年というスピード感がある開発です。開発当初は外注で開発していたそうですが、外注では開発スピードやカスタマイズの点で問題があるため、途中から内製化を決断し、社内にシステムチームを設けて開発しています。

 効果が大きかったのは、手入力のため事後確認が必須となっていたメーター情報の確認作業の自動化です。電力メーターの検針には独自のルールがあります。末尾の数字が回りきっていない場合は、回りきる前の数字を読み取り数値にします。例えば、“49618”と一見読める数値でも、末尾の数字の8が回りきっていなければ“49617”と読み取らなければいけないのです。このような独自ルールもAIに学習させ、メーター情報の事後確認を自動化しています。

 このAIによる画像認識と汎用のRPAを組み合わせることにより、現場作業員がアップロードした写真データを人が目で見て確認していた作業の自動化を実現しました。これにより、今まで作業員当たり一日240分を費やしていた作業を12分に短縮しています。
 

3.4 現場の説得と現場要望のフィードバック

 同社は現場作業を行っている施工会社に協力を求めています。しかし、現場の説得は大変だったそうです。作業員の中にはガラケーしか持っていない人もいて、今までのやり方をなぜ変える必要があるのか、本当に効率が上がるのか、と言う声が現場作業員だけでなく、施工会社の管理者からも出たのです。

 これらの反発やスマートフォンへのアレルギーを解消するために、これをやることで絶対に効率が上がるし、結果として作業員の負担も下がりプラスにもなるということを情熱的に伝え、そして説明や使い方指導などを丁寧、かつ、きめ細かく行ったのです。

 現場からの要望で使い勝手を改善し、現場管理の人たちが何回も現場に足を運んで一つ一つ丁寧に教えて理解を得ましたが、この努力は報われています。現在では、現場の作業員から「このシステムがないと、仕事量の増加に対応できなかったよ」と大いに感謝されているそうです。

 また、使い勝手の改善に関しては、アジャイル的な柔軟さを取り込んだ社内開発への切り替えが功を奏しています。現場からの要望に対応し、自社内で迅速な対応が可能だったからです。

注:アジャイルは「すばやい」「俊敏な」という意味。「アジャイル開発」は、システムやソフトウェア開発手法の一つで、「要件定義→設計→開発→実装→テスト→運用」といった工程を機能単位の小さいサイクルで繰り返しながら開発を進める。開発途中で顧客要望などを取り入れ、仕様を追加・変更することが予想される開発案件に向いている。
 

3.5  BLASの深掘りと横展開による事業の拡大

 DXで重要なのは、それを他の業務や新しいビジネスの領域に適用し、事業の拡大につなげていくことです。このため、同社はBLASの深掘りと横展開を積極的に実施しています。

 深掘りでは、例えばQRコードをスマートフォンで読み取り、機器在庫や設置状況を管理する機能を追加しています(図3参照)。これは現在案件が増えているガス会社からの要望でした。ガス会社は、ガスメーターや電力メーターなど膨大な機器を保有しています。これらの機器を取り換える際には、機器を現場の作業員に渡し、現地で間違えなく取付けを行う必要がありますが、この管理を行うツールとしてBLASに注目したのです。

 同社は製造業やホームIoTの分野にも進出しています。製造業向けでは予防保全のためにセンサーの設置、それから飲食業界向けの温度管理(HACCP:ハサップ)のためのセンサー設置などに進出しています。在宅介護に必要なホームIoTのための小型機器設置なども手掛けています。これが可能になったのもBLASがあったからです。IoT普及のボトルネックである工事コスト低減に成功したことが、同業他社にないセールスポイントと競争力につながり、さらにはビジネス領域の拡大にまでつながっているのです。

 IoTが多くの人々の身近なものになるまでには、さまざまな取り組みが必要です。その大きな課題の一つはコスト低減です。同社のDXがさらに進化し、それが工事コストのさらなる低減を可能とし、それが機器設置工事のビジネスモデル変革とIoTの一層の普及・発展につながることを期待したいと思います。
 

図3:現地機器のQRコード注読み取り・管理機能の導入前後のイメージ

図3:現地機器のQRコード注読み取り・管理機能の導入前後のイメージ
【出所】ベイシス提供資料

注:自動車部品メーカーであるデンソーが発明した二次元コード。QRはQuick Responseの頭文字で高速読み取りを目的としています。現在「QRコード」は、デンソーから分離したデンソーウェーブの登録商標となっています。
 

今回紹介した事例

電気通信工事のDXによりIoT機器の設置を飛躍的に効率化
− ベイシス株式会社の取り組み

 IoT普及のボトルネックの一つとして、現地作業のコストがかかる点がある。当社が受注しているスマートメーター交換工事では、アナログメーターの指針値の記録、報告書作成、チェックなど作業者に多大な負担がかかっていた。 そこで、ICTを活用したプロジェクト管理ツールBLASを開発し、IoT機器設置工事の飛躍的な効率化に成功した。…続きを読む

 
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