株式会社アルカディア
- AI等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
- AI等を活用した一般消費者向け製品・サービス等の提供
【関連する技術、仕組み、概念】
- AI
- ビッグデータ
- 4G
- 5G
【利活用分野】
- 公共
- その他(学校、病院、金融機関等)
【利活用の主な目的・効果】
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
- その他(災害関連情報の伝達)
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
株式会社アルカディア(以下、当社)は、大阪府箕面市に本社を構えている1993年に設立された会社である。創業以来、音声認識や音声合成などのヒューマンインターフェースの研究開発を独自に行っている。
近年、多くの災害が発生しているが、防災関係の情報通信システムは非常に高価である。このため、それを圧倒的低価格で提供することで防災・減災に貢献したいと考えた。これは当社の企業理念でもある。
そうした中、当社の音声合成エンジン「SpeeCAN(スピーキャン)」を搭載し、災害情報などをメール/電話 /FAX/SNS/緊急速報メール /防災アプリ /防災行政無線 /TVなどのメディアに一斉配信できるクラウド型一斉情報配信サービス「SpeeCAN RAIDEN(スピーキャン・ライデン)」をリリースし、2006年11月からサービスを開始した。SpeeCANは、当社の天白代表取締役社長が国際電気通信基礎技術研究所(ATR)で培った音声に関する技術研究・開発の経験をもとに開発したエンジンである。
サービス実績としては、利用者ライセンス実ユーザ数が1,873件(内訳は、官公庁: 594件 / 企業等事業者 : 244件 / 学校等教育機関 : 1035件)となっている(2023年3月現在)。当社では、クラウドサービス事業者のサービスを使用せず、自前でこのサービスを提供している。
なお、当社のSpeeCAN RAIDENは、一般社団法人日本クラウド産業協会のASPICクラウドアワード2023の最優秀サービスとして、総務大臣賞を受賞している。
関連URL:https://www.aspicjapan.org/event/award/17/index.html
実証事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
『SpeeCAN RAIDEN(スピーキャン・ライデン)』
関連URL:https://www.arcadia.co.jp/products/speecan_raiden
サービスやビジネスモデルの概要
SpeeCAN RAIDENは、図1のシステム構成にあるように一斉情報配信を実現するクラウド型サービスであり、さまざまな外部情報(J-ALERT/気象情報/消防指令/水位情報など)と自動連携が可能である。もちろん、配信情報の手動入力も行うこともできる。そして、これらの情報を様々なメディア(メール/電話/FAX/各種SNS/防災アプリ/FM告知/TV/防災行政無線放送など)を通じて一斉配信できる。
自社開発の音声合成技術を活用した音声による伝達は、その聴き取り易さから、全国の消防・防災危機管理現場で圧倒的な高評価を受けている。音声制御の画面イメージは図2のようになっており、誰でも簡単に利用することができる。多言語翻訳機能は、14言語以上に対応している。
また、高い信頼性と安定性を実現するために、データセンターを国内三拠点に分散して運用している。
図1:システム構成イメージ
(出所:アルカディア提供資料)
図2:音声放送制御画面イメージ
(出所:アルカディア提供資料)
本サービスはクラウド型のサービスなので、初期投資を抑えた導入が可能となっている。また、常に最新の機能を利用することができる。価格については図3のとおりである。
図4 サービス価格表
(出所:アルカディア提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
SpeeCAN RAIDENでは、次のデータを取り扱っている。
・テキストベースのデータ(音声合成のもととなる情報)
・気象庁が発表しているデータやJ-ALERTの緊急情報+市町村長が発令する避難に関連する情報
事例の特徴・工夫点
AI活用等による価値創造
本サービスは、災害時に問題となっている携帯電話を持っていない高齢者などの要配慮者に対しても、電話で避難情報を伝えることができる。サービス開始時は発信用の電話回線は100回線程度(光回線1本分)であったが、現在は、1,200回線程度(光回線12本分)に増やしている。同時に最大1,200件の電話を一斉に掛けることができる。メールやテレビからの情報だけでは避難しない人が少なくないが、電話で直接自治体から連絡すると避難する人が増えるということが分かっている。これが本サービスの得難い価値となっている。
AI活用や事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間
サービスを開発・運用するにあたって、さまざまな苦労やハードルに直面してきた。その中で、特に大きかったのは、以下の二つである。一つ目は、多言語配信である。外国人居住者の増加に伴って、自治体などから多言語配信の要望が高まってきた。しかし、通常の場合、翻訳できるのは定型的なメッセージに限られていた。そこで、当社は、自由文でメールを出せるように、特有の地名などにも対応できる言語翻訳のエンジンを開発した。これにより、外国人にも適切な情報を届けることができるようになった。
二つ目は、サーバのメンテナンスである。防災関係のサービスはサーバの安定稼働が不可欠で、24時間365日ノンストップで動かさなければならない。当初はトラブルや停止が多発していたので、VM(バーチャルマシン)注1やハートビート注2などの新しい技術を導入し、タンデム型のコンピューティングを実現してこれに対処した。現在では、サーバが停止することはほとんどなくなっており、安定稼働が実現できている。
注1:仮想マシン (VM、Virtual Machine、バーチャルマシン) とは、仮想コンピュータシステムとして機能する仮想環境のこと
注2:ITの分野では、通信ネットワーク上で機器が外部に一定間隔で発する、自らが正常に動作していることを知らせる信号やデータを指す
重要成功要因
災害が身近になってきたことが、普及の大きな要因になっていると感じている。例えば、2018年の広島の豪雨をはじめ西日本で多くの土砂災害が発生した後に、中国・四国地域での導入数が増えている。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
電話の部分ではIP-PBX注3を自社開発している。新しい技術が出てきたら早めに学習し、自社開発につなげている。
注3:IP-PBXとは、「Intenet Protocol Private Branch eXchange」の略で、従来のオフィス・事務所内で利用されてきたビジネスフォンで内線・外線通話を実現するPBX(電話回線の交換機)のIP電話機版のこと。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦
当社は、課題解決型の会社である。様々な課題を見つけ、解決していきたい。この観点から、現在、当社が最も注目しているのは、多言語対応に関することである。現在の対応言語数は限られているので、今後、さらに多くの言語に対応していきたい。
技術革新や環境整備への期待
防災行政無線のように専用システムを構築するのは、古い考え方ではないかと思っている。それよりも携帯電話の通信規格を災害に対応できるようにした方が良いのではないか。このため、バッテリーの長時間化やキャリア間のローミング等を可能とはできないのだろうか。
もし、防災情報の伝送に携帯電話の電波を利用することができるのであれば、SpeeCAN RAIDENのサービスの信頼性がさらに上がるのではと期待している。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
現在は国内のみでサービスを提供しているが、多言語対応に注力しており、今後は、災害情報や防災に関するノウハウを諸外国に提供したい。インドネシアをターゲットの一つとしている。
将来的に展開を検討したい分野、業種
海外に展開する際には、海外企業との連携が必要だと考えている。具体的にどのように連携していくのか、今後、具体的に検討していきたい。