掲載日 2024年08月20日

 

株式会社ブログウォッチャー

【事例区分】
  • IoT等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • IoT等を活用した社会課題解決の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • ビッグデータ
  • DX

【利活用分野】

  • 公共
  • その他(観光)

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • ​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • ​​​​​​​​​​​​​​事業継続性向上
  • ​​​​​​​事業の全体最適化
  • ​​​​​​​​​​​​​​新規事業開拓・経営判断の迅速化・精緻化

 

 

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 ブログウォッチャー社(以下、当社)は、スマートフォンから収集し、ユーザ許諾(オプトイン)を得た位置情報データを活用したサービスを提供する企業である。当社は、「位置情報データによる社会課題解決」というコンセプトを掲げ、観光統計や人流分析の分野でサービスを展開している。

 近年、自治体におけるEBPM(Evidence-based Policy Making:証拠に基づく政策立案)推進の必要性が高まる中、正確かつタイムリーな観光データの不足が大きな課題となっている。また、多くの自治体が時間・人手・予算の不足に直面しており、従来の観光統計手法では十分な対応ができない状況であった。

 こうした中、当社は国内居住の旅行者の位置情報データをもとに「おでかけウォッチャー(国内版)」サービスを提供している。このサービスは、スマートフォンから収集した位置情報データを活用し、導入都道府県では管内約2,000カ所の観光地を同時にモニタリングすることができる。従来の統計手法では3ヶ月程度かかっていた分析を、1週間程度で提供可能にしている。位置情報データについては、140以上の提携アプリから位置情報の取得を許可したユーザのデータを取得している。

 さらに、自治体の限られたリソースに対応するため、全国地方自治体向けに設計し、契約した都道府県内の市区町村は無料で利用できるモデルを採用している。これにより、予算や人員の限られた小規模自治体でも、高度な観光統計を活用できるようになっている。

 「おでかけウォッチャー」サービスは2021年10月にβ版がリリースされ、2024年4月時点で累計32都道府県に導入されている。

 

利活用の経緯(課題解決の鍵となる技術・アイディアの発想やビジネスパートナーとの出会い等活用に至った経緯)

 本サービス開発のきっかけとなったのは、広島観光連盟の「10万人が集まる1か所の観光地に代えて、1万人が熱狂する100か所の観光地を作る」という考え方であった。同連盟は、コロナ禍によって特定の観光地(厳島神社、原爆ドームなど)に人が集中するという課題に直面していた。この課題に対し、同連盟は「ロングテールなプロダクト造成」という新しい観光戦略を打ち立てられた。当社はこの戦略に触発され、大規模な観光地モニタリングの必要性を認識し、これを実現するため、常時、都道府県ごとに管内約2,000カ所の観光地をモニタリングできるシステムの構想を着想した。

 

実証事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

『おでかけウォッチャー』
 関連URL:https://odekake-watcher.info/

『デジタル統計オープンデータ』
 関連URL:https://www.nihon-kankou.or.jp/home/jigyou/research/d-toukei/

サービスやビジネスモデルの概要

 本サービスでは、スマートフォンアプリ提供者に対して、位置情報のデータ収集と特定の検知に合わせた挙動を可能にするプログラム(SDK:Software Development Kit)を提供し、その対価としてあらかじめ個別許諾を得た位置情報データの利用権を頂き、マーケティングデータとして加工・販売するビジネスを推進している。約140種類のアプリから、あらかじめ個別許諾を得て取得した月間3,000万アクティブ利用者のデータを活用している。取得データ数が多いので、実際の観光客の増減を数百人単位で分析できる。また、データ精度に大きな影響を与える観光スポットの正確な形状把握にもこだわり、建物・敷地形状など各観光スポットを10m四方メッシュという精緻さで登録している。

 本サービスでは、来訪地分析(どこを訪問しているのか)、発地分析(どこから来ているのか)、属性分析(どんな人が来ているのか)、周遊分析(どことどこを周遊しているのか)が可能である。さらに旅工程分析、時間分析の機能も2024年2月にリリースされている。

 来訪地分析では、行政区・観光スポット単位で日別で表示化可能となっている。ジャンル別や平日、休日別などの詳細設定も可能であり、どこに来ているのか、いつ来ているのかをランキング形式で把握することも可能となっている(図1参照)。どこを周遊しているのかの分析、各分析を組み合わせたクロス集計も可能となっており、全体像の把握やエクスポートデータとして独自分析を行う際に活用することも可能である。

 なお、「おでかけウォッチャー」のベースとなる「デジタル観光統計注1」の一部はオープンデータ化されており、日本観光振興協会が「デジタル観光統計オープンデータ」という名称で提供している。

注1:「デジタル観光統計」はブログウォッチャー社の登録商標となっている

図1 おでかけウォッチャーの分析機能イメージ(来訪地分析)
(出所:ブログウォッチャー提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

 -  スマートフォンアプリから取得するGPSデータ

 -  主にハッシュ化注2ユーザID(タイムスタンプ緯度経度情報が含まれ、デジタル観光統計においては統計処理 したものを活用)

注2:ハッシュ化とは、ハッシュ関数と呼ばれる特殊な計算方法によって、一見ランダムに見える別の値(ハッシュ値)にデータを変換する方法

 

事例の特徴・工夫点

価値創造

 2,000箇所の観光スポットを同時にモニタリングすることで、データマーケティングの高度化を実現している。また、観光統計のデジタル化により、信頼性と速報性が向上し、かつ、公的統計とほぼ同等の精度で観光客数の推計が可能となっている。さらに、データの簡易的な処理方法を採用することでより精度の高いリアルタイムデータの提供を実現している。

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 都道府県では市町村別の観光客数、市区町村では観光スポット別の観光客数という異なる定義を使っていたが、事業化にあたってはこれを観光スポット数の大幅増加で一本化した。全国で合計すると10万か所の観光スポットを網羅した観光スポットマスターを整備し、約3分の2の都道府県からその確認を得ることに成功している。また、観光スポットの正確な形状にこだわり、地下街など細かい調整を実施することで、精度の高いデータ収集を実現している。さらに、処理負荷を抑えるため、日をまたぐ処理を避け、簡易的な滞在判定を採用するなど、技術面でも工夫も行っている。

重要成功要因

 都道府県が事業費を負担し、市区町村が観光スポット情報を登録するという明確な役割分担を実現したことが成功要因である。また、親会社であるリクルートの地域観光営業組織(じゃらんリサーチセンター)を活用した拡販体制の構築も成功要因となっている。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

NICT研究委託事業の成果を利活用している。
 関連URL:https://www.nict.go.jp/collabo/commission/k_22005.html

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 観光客の動きから消費額を正確に推計する手法の開発が挙げられる。単に人の流れを把握するだけでなく、それが地域経済にどう影響するかを数字で示すことを目指している。将来的には、AIを使って観光政策の提案を自動化することも考えている。データ分析結果から、AIが「こんな施策が効果的かもしれません」といった提言を行う構想である。

 また、全国の観光施策の成功例を集めたデータベースの作成も考えている。これにより、各地域が他の地域の経験から学び、より効果的な観光戦略を立てられるようサポートしたい。

技術革新や環境整備への期待

 今後、訪日外国人の日本以外での行動パターンの解析ができればありがたいと期待している。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 全国47都道府県がデータ基盤を活用していただくことを目指している。これにより、日本全国で統一された観光データの収集と分析が可能となり、より包括的な観光戦略の立案や地域間の比較分析が可能となる。また、当社が提供する基本的なデータを補完するサービス事業者との共創の仕組み作りにも注力していきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 旅行者向けメディアへのコンテンツ提供、観光事業者向けソリューション提供ベンダーとの連携も模索していきたい。さらに、交通やまちづくり分野へビジネスモデルを横展開したい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社ブログウォッチャー 担当:奥井涼子

e-mail : s_okui@blogwatcher.co.jp

URL :  https://www.blogwatcher.co.jp/

TEL:080-4629-1316​​​​​​​