IoT導入のきっかけ、背景
当社は、1976年に創業した出入管理システムなどの開発・製造・販売から施工保守までを一貫して行うアクセスコントロールの専門・専業メーカーで、日本全国のオフィスビル、病院、学校などへ数万以上の導入実績があり、この領域ではトップシェアを有している。
アクセスコントロールの初期の仕組みが物理的な鍵の使用である。すなわち、鍵を持つ人がその扉を開ける権限を持つ。ただ、この物理錠では特定の管理者のみが鍵を持つ場合(例えば倉庫の鍵)、管理者がいないと扉を開けることができないという課題があった。
次に、ICカードや生体認証を用いた電気錠が登場した。電子ロックでは、扉を開ける権限を持つ人のIDを建物内に設置する出入管理装置に格納することによって、権限の複数人への同時付与や建屋内に階層化したセキュリティ区画(例えばサーバー室)を設けるなどのフレキシビリティが得られた。その一方で、現状の電子ロックは、IDの照合を出入管理装置内で行うため、人事異動などで出入権限の移動や抹消が発生した際に個々の装置内の情報を更新する必要があり、この点が運用上の課題となっていた。
そこで、スマートフォンとIoT、クラウドを活用し、鍵の受け渡しをクラウド上で行うことによってこの課題を解決することを考えた。さらに世の中では、駐車場、自動ドア、エレベータ、会議室、金庫、ロッカー、パソコン、プリンタ、空調などさまざまな場所やモノへのアクセスコントロールが実施されるようになっており、これらへのアクセスの際に発生するアクセスログを一元管理することによって、さまざまなサービスと連携する次世代プラフォームの発展に重要性を感じた。
この構想を実現するために、アクセスコントロール専用のIoTプラットフォームALLIGATE(アリゲイト)を開発し、2017年11月にサービスを開始した。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名:アクセスコントロールプラットフォームALLIGATE(アリゲイト)
サービスやビジネスモデルの概要
ALLIGATEは入退室管理サービスを代表的なサービスとしているが、「扉の鍵」だけにとどまらない、さまざまなモノや場所をアクセスコントロールできる、次世代IoTプラフォームと位置付けている。
従来の電気錠は、設置工事を行った際に機器と工事代金を一括してお支払いいただく売り方であったが、ALLIGATEでは、高額だった初期導入費用なしで月額料金のみというサブスクリプション方式の価格体系にした。一部の製品では設置工事も不要としている。そのため、将来的にオフィス移転を検討している企業やすぐに導入を検討している企業でも手軽にアクセスコントロールを実現できる。
サービス開始から(本稿執筆時点で)1万を超える扉やロックにALLIGATEを導入いただいている。
ビジネスやサービスの内容詳細
ALLIGATEが提供する代表的なサービスを以下に示す。
(1) 簡単に取り付けができさまざまな運用ができるスマートロック
写真-1にALLIGATEに対応したロックを示す。CylinderLockは既存のシリンダーを交換する形で取り付ける(写真-2を参照)。そのため、配線工事が不要で簡単に導入できる。
写真-1 ALLIGATEに対応したロック
写真-2 ALLIGATE CylinderLockの取り付け
ALLIGATE CylinderLockではロック解除のためにユーザーのスマートフォンとICカードを使用する。ロック解除の手順は以下の通りである(併せて図-1を参照)。
- クラウドで権限を設定する。
- ユーザのスマートフォンに該当のCylinderLockを操作できる権限が付与される。
- スマートフォンアプリをタップするとロックが解除される。
- ICカードのデータは、スマホアプリからCylinderLockに流し込むことで使用できるようになる。
- ICカードを使用した履歴は、スマートフォンでロックを解除した際にまとめてクラウドへ送信される。
ALLIGATE CylinderLockでは電池の持ちをよくするために、あえてモータなどによる自動解錠は採用しておらず、ユーザーがノブを廻すことで最終的な解錠を行う。ノブを廻すことは扉を開ける動作の一部であるため、使い勝手を損なうことなく電池寿命を延ばしている。
貴重品を格納したロッカーなどに南京錠タイプのALLIGATE PadLockを取り付け、解錠が必要な際に、ユーザーのスマートフォンから管理者に承認を依頼することができる。承認もスマートフォンで行うため、管理者が離席中でも解錠の依頼と承認が可能である。
ALLIGATEでは許可リストをクラウドで一元管理する。そのため、人事異動などに伴う許可リストの更新を人事マスターと連携して行うことが可能となり、冒頭に示した既存の電気錠の運用課題を解決した。
このように、スマートフォンを出入管理装置に代るエッジおよび通信デバイスとし、サイバー空間上でアクセスコントロール権限や鍵を管理することによって、従来にない低コストでフレキシブルなサービスを実現した。
図-1 ALLIGATEを使用したロック解除手順
(2) 勤怠管理との連携
働き方改革プラットフォーム「TeamSpirit」と連携したサービスを2018年11月より提供開始した。更に2019年12月「ジョブカン」とも連携を開始し、更に他の勤怠管理サービスとの連携を予定している
本サービスでは、ALLIGATE LockとALLIGATE Loggerを利用いただくことでALLIGATEの入退室ログを、TeamSpiritの勤怠打刻データとして活用できる。これによって、煩雑になりがちな勤怠管理をスマートかつ正確に管理し、働き方改革を支援している。(図-2を参照)。
図-2 TeamSpiritとの連携
(3) 交通系ICカードを使用した旅費精算との連携
JR東日本が提供する交通系ICカードに対応した交通費精算クラウドサービス「transit manager」と連携したサービスを検討している。
このサービスでは、図-3に示すように、ALLIGATEのカードリーダーで読み取った交通系ICカードの情報とユーザーのIDを使用して、transit managerとの連携が可能となる。
図-3 transit managerとの連携
概要図
ALLIGATEの概要を図-4に示す。
図-4 ALLIGATEの概要
取り扱うデータの概要とその活用法
ALLIGATEが扱うデータは以下の操作ログである。
- 個人のID
- 操作の対象(扉など)のID
- 操作の内容、時刻
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
従来の高額な初期導入費用を売上げに計上できるモノ売りビジネスは残しながら、スマートフォンやIoT、クラウドを活用した月額費用のみのコト売りの新規ビジネスを構築した。その際に、既存ビジネスを奪ってしまうカニバリゼーションへの懸念などを解消し社内の賛同を得る必要があった。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
当社はアクセスコントロールに関する多くのノウハウを保持しており、ALLIGATEのコンセプトを自社で作っていたが、スマートフォンアプリやクラウドシステムの開発ノウハウがなかった。こうした中、2016年12月にソフトウェア開発のノウハウを持つ株式会社アイ・エス・ビーが当社の株式を取得するM&Aが行われた。
それにより、アイ・エス・ビーのソフトウェアエンジニアがチームに加わったことで開発スピードが加速し、2017年11月にサービスのリリースとなった。M&Aによって、両社の強みを生かした理想的な開発チームを作ることができた。さらに2014年に出願したクラウド・スマホを利用した技術特許技術が2018年3月に取得できた。その内容は世の中で普及し始めているスマートロックの基本的な技術特許であり、ユーザーが安心してサービスを利用できることにもつながっている。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
アイ・エス・ビーのチームが合流してから1年弱でサービスをリリースするなど、ALLIGATEの展開はスピードを重視してきた。ALLIGATEはICTサービスであり、この領域はベンチャー企業の参入など動きが早いため、さらにスピードを上げる必要がある。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
ALLIGATEは扉の開閉にとどまらず、照明のオン・オフや複合機の利用など、さまざまなアクセスコントロールに適用できる。その際のログ情報を元に連携サービスの範囲を広げたい。また、高額だったアクセスコントロールの導入コストを月額費用に置き換えることで、アクセスコントロールのさらなる拡大を牽引していきたい。
将来的に展開を(他企業との連携を含め)検討したい分野、業種
通常は無人で、メンテナンスの際に人の出入りが発生するインフラ施設が多く存在する。こうした施設の出入管理や扉の開閉管理にALLIGATEを展開したい。