掲載日 2021年12月16日

atama plus 株式会社

【提供目的】
  • コスト削減
  • 事業・業務プロセスの改善
  • 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
  • 収集情報を活用した新規事業の発掘

【活用対象】

  • 自社の複数部門あるいは全体で活用
  • パートナー企業含めたグループ内で活用
  • 企業顧客を対象に活用
  • 一般顧客を対象に活用

サービス提供のきっかけ、背景

 教育を新しくすること、それは、社会のまんなかを新しくすること。当社は、「教育に、人に、社会に、次の可能性を」をミッションに掲げ2017年に創立した会社である。

 当社が提供する「atama+(アタマプラス)」は、AIを活用し、小中高の生徒一人ひとりにカスタマイズされた学びを提供する学習システムである。「AI×人」という両者の強みを融合させた、新しい教育の在り方を目指している。

 今、先が見通せないほどの変化にさらされている社会で、人が、その人らしく活躍するために必要な力も変わっている。しかし、教育はその変化に対応できているだろうか。黒板を背に、先生が生徒全員に向かって同じことを伝える150年前の明治時代から連綿と続く教育スタイルだけで子どもたちは必要な力を身に着けられるのだろうか。

 子どもたちに必要な力には、数学、国語、英語などの「基礎学力」とディスカッションやコミュニケーション、プレゼンテーションなどこれからの社会で必要とされる「社会でいきる力」がある。どちらも重要であるにも関わらず、現在の日本では教育現場に求められることが多く、両方取り組むには生徒も先生方も時間が足りていない。

 実際、OECD加盟国・地域を対象とした国際教員指導環境調査(TALIS 2018)によると、日本の小中学校教員の仕事時間は、参加国中で最も長い。(図-1を参照)

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図-1 日本の教員の1週間あたりの仕事時間
(出所:文部科学省 国立教育政策研究所「OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)
2018報告書vol.2のポイント」)

 さらに、こうした教員の働く環境の厳しさ等を背景に、教員希望者が減少し、2020年度の公立学校教員採用試験の小学校教員の採用倍率は過去最低の2.7倍となった。教員のなり手不足は教員の質の低下につながる問題である。

 子どもの教育を取り巻く課題は、公教育だけではなく、学習塾・予備校にもある。学習塾・予備校では、大人数に同様の教材や指導を提供する集団指導方式から、生徒一人ひとりのニーズに対応する個別指導方式へ指導形態のシフトが進み(図-2を参照)、生徒の数に対して必要な先生の数が増え、理数系を中心に先生が不足している。優秀な先生をめぐる塾・予備校間での競争は給与水準の高騰につながり、塾・予備校の経営上の重荷になるとともに、高い授業費が払えない生徒は学外で質の高い教育を受けられないという教育格差の原因をつくってしまう。

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図-2 指導形態(集団/個別)の売上高シェア推移
(出所:経済産業省「特定サービス産業動態調査」を基に作成)

 当社が提供するatama+では、教育において、人でしか担えない部分「以外」をAIが担当する。さらに、人手では実現の難しかった一人ひとりに合った効果的な学習方法を追求する。これによって、人とAIがそれぞれの得意分野で生徒に向き合い、子どもの教育を取り巻く課題の解決に取り組んでいる。
 

サービスの概要

サービス名等、関連URL

・サービス名:atama+

・関連URL:
 ・サービスサイト:https://www.atama.plus/
 ・コーポレートサイト:https://corp.atama.plus/

・主な導入先:駿台、明光義塾等全国2600教室以上の塾・予備校(2021年9月末現在)
 ・対応学年・教科科目:
 ・高校生=数学、英語、物理、化学、生物
 ・中学生=数学、英語、理科、社会
 ・小学生=算数

導入事例の概要

■AI教材「atama+」

 atama+は一人ひとりの得意、苦手、伸び、つまずき、集中状態、忘却度などの情報を収集・分析して、一人ひとりにあったカリキュラムを作成する学習システムである。塾・予備校を通じて、全国の小中高生に提供している。(図-3を参照)

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図-3 atama+の概要
(出所:atama plus提供資料)
 

 例えば、中学数学で学習する2次方程式がわからない生徒に対し、従来の学習方法では次方程式の解き方や問題を繰り返すことが主流である。しかし、学習とは積み重ねであり、2次方程式を解くには、1次方程式や約分、素因数分解など過去に学習した単元の理解も必要となる。これらの単元を理解していない生徒が2次方程式を理解するには、過去のつまずきに遡って、例えば小学校5年生の算数の単元である約分から再度学習することが、最終的には最短かつ効果的な理解への道となる。しかしこの、つまずきの根本原因をみつけるのは、生徒本人にとっても先生にとっても容易でない。(図-4を参照)

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図-4 2次方程式の理解に関連する単元の概念図
(出所:atama plus提供資料)
 

 atama+では、生徒が複数問解いた結果から、AIを用いて、関連する単元の理解度を診断し、その生徒の理解度に応じた教材を学習順序も含めて最適化してカリキュラムを作成する。そのため、「わからない理由がわからない」ためにやみくもに学習する従来の学習法と比較して、効率的に基礎学力が習得できるのである。(図-5を参照)

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図-5 atama+が作成する学習カリキュラム概念図
(出所:atama plus提供資料)
 

■先生向けサポート「atama+  COACH」

 atama+ COACHは先生向けのサポートシステムである。生徒の学習の進捗や学習姿勢をリアルタイムで解析し、一人ひとりの状況を可視化。いつ、どんな声がけをすると効果的かを通知し、生徒へのコーチングを提案する。

 先生にとっては、学習効果の高いコーチングを実現できる他、生徒一人ひとりにあった宿題や理解度を確認するテストの作成など、人手では実現に負担の大きかった校務を軽減する。(図-6を参照)

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図-6 atama+ COACHの概要
(出所:atama plus提供資料)
 

 ■オンライン模試「駿台atama+模試」 

 高校生・既卒生向けに、駿台予備学校と連携してオンライン模擬試験を提供している。従来型の模擬試験では、順位や偏差値、志望校判定等の実力判定が主目的で、結果判定には1か月程度の期間が必要となる。模擬試験を受けっぱなしにせず、試験で明らかになった弱点をその後の学習に役立てられれば、効率的な学習ができる。駿台atama+模試では、受験直後に結果を判定、弱点分析を通じた学習レコメンドやカスタマイズされたカリキュラムを作成、試験結果を活用した学習を実現している。

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図-7 駿台atama+模試の概要
(出所:atama plus提供資料)

内容詳細

 atama+を塾・予備校が導入する際の「AI×人」のベストミックスについて、もう少し掘り下げて説明する。当社では、効果的な学習の要素を大きく2つに分けて捉えている。

 1つ目はティーチング、教えることそのものである。生徒個々の状況を把握して、最適なカリキュラムを提供し、生徒が理解しやすいように教えることである。2つ目が、生徒の学習意欲を高めるために必要な声掛け等のコーチングである。 

 2つ目の要素「コーチング」、すなわち生徒とともに学習の目標を立て、学習の仕方をアドバイスし、時に励まし「生徒と伴走すること」は人にしかできない。特に、小中学生の頃は、共に机を並べて学ぶ生徒のいる「場」の存在が、学習のやる気に大きく影響する。これがatama+をBtoCとして生徒直接に提供せず、塾・予備校に導入いただくBtoBtoCの形を採用している理由である。

 対して1つ目の要素「ティーチング」のうち学習カリキュラムの作成は、AIが得意とする領域である。生徒一人ひとりにあった学習カリキュラムの作成は、一部の熟練の先生には可能であっても、多くの先生にとっては大きな負担であり、カリキュラムの質にばらつきが生じる。AIであれば膨大なデータから即時に作成が可能であり、質、効率の面で決定的に優位といえる。また、「ティーチング」のうち教えることそのものにおける現状のAI等のテクノロジーの役割は、人によってつくられた良質な講義や教材を、生徒のいる場所や学習する時間などの制約を超えて視聴または利用可能にする点にある。

 

効果的な学習に必要な要素
ティーチング コーチング
学習カリキュラムの作成 教材作成・授業の実施

AI

膨大なデータから即時に個々の生徒に合わせたカリキュラムを提案し、学習指導ができる。

時間や場所の制約無く、繰り返し講義動画を再生できる。

生徒の必要に応じて科目横断でのティーチングができる。

人の役割を代替できない。

学習進捗や学習姿勢の解析結果から効果的なコーチングを提案するにとどまる。

個々の生徒の理解度に合わせて学習指導は難易度が高い。

生徒の学習のための授業、問題等の教材が作成できる。

生徒とともに目標を立て、助言、励まし、動機付けをし、生徒を学習に向かわせることができる。

表-1 効果的な学習に必要な要素とAI、人の役割

 atama+はAIと人のそれぞれの強味を活かした新しい学習方法を提案している。導入に際しては教育現場での変革を少なからず伴う。例えば、生徒が解けない問題に出会った時、その場で先生が解法を指導するのは従来の学習現場では当たり前の風景である。しかし、生徒がatama+を使用している時に、先生の力を借りて正答に辿り着けたとすると、その回答情報はatama+には誤った入力となり、生徒の理解度を正しく計測できなくなる。生徒が解けないとatama+が判断した後に、先生は生徒と一緒に解法を見直す必要があるのである。

 atama+の導入によって、先生に求められるスキルはティーチングから、コーチングや動機付け、マネジメントに力点が移る。atama+は勉強をせずに学力を向上させる魔法のツールではない。先生が、生徒一人ひとりを理解し、生徒をatama+での学習に向かわせるための働きかけを惜しまない、そんな教育現場ほど高い成果を上げている。

 

取り扱うデータの概要とその活用法

  • 学習対象の単元情報および各単元のつながり情報
  • 生徒の学習取り組み情報
  • 生徒の問題回答に基づく理解度情報
     

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 atama+は高校生向けサービスから構想を始め、atama+に必要な教材、アルゴリズム、アプリケーションの全てを当社で開発している。創業時にサービスコンセプトを定め、約4か月をかけて、高校数学の単元ごとの関係性情報の基礎部分を構築した。以来、各単元のつながりの強さや、理解度を正しく計測するための単元の分割単位のチューニング等の改善を重ねてきている。

 例えば、特定の単元の理解度が生徒に依存せずに低いという事実が確認できた場合、生徒の理解の問題ではなく、単元のつながりや分割等の設計が最適化されていない可能性を疑い、チューニングするといった地道な作業である。

 当社では、教育の「現場」を見ることを重視しており、この改善のプロセスを、塾・予備校の教室の協力を得ながら毎週続けている。現在のatama+は、生徒・先生方とともに作り上げてきたサービスである。
 

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 atama+では、生徒への教材提案やカスタマイズされたカリキュラムが真にその生徒の学力向上に役立つものであることが鍵となる。ECサイト等では、顧客への商品レコメンデーションの適正性は、実際の購買行動で判断できる。一方、学力の向上には一般に期間を要し、教材やカリキュラムの適正性を、生徒自身がその場で判断できないという難しさがある。

 atama+はすでに多くの塾・予備校で利用いただいているため、変更したアルゴリズムや機能が生徒の学力向上に寄与しているか、実際の学習成果情報から見極め、これらの課題に対し着実な改善サイクルを回しながら開発を進めている。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 生徒のすべての学習機会、すなわち学校、塾・予備校、家庭での学習データをシームレスに扱えると、生徒の学習状況を正しく把握でき、より効率的・効果的な学習につながる。しかし、現状、これらのデータについては、データの取り扱いルールやフォーマットの標準化等が未整備のため、一緒に扱うことが容易ではない。そのため、当社では、経済産業省の「未来の教室」実証事業等を通じて課題抽出に取り組んでいる。
 

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 より多くの生徒に効率的・効果的な学習を提供したい。今後は、塾・予備校以外への 展開の可能性は、今後実証などを通じて、どのような価値提供が可能かを検証・判断していくことになる。海外は、これまでの国内の塾・予備校とは異なる特性を持ち、課題とその解決策も異なるため、単純な事業拡大という考え方では取り組めない。新しい挑戦になるが、「教育を通じて社会を新しくする」というミッションから目を逸らさずに、今後も取り組んでいきたい。

 また、これまでは塾・予備校での要望にあわせて理数系の開発を先行して進めてきたが、今後は、科目・対象学年の拡大といった改善を進め、より多くの生徒にatama+を使ってもらいたいと考えている。そして将来的には、「基礎学力」だけでなく「社会でいきる力」を養う分野でも取組みを進めていきたい。
 

将来的に展開を検討したい分野、業種

 AI等のテクノロジーの活用は、教育格差等の社会課題に対しても強力な解決策となり得る。2021年6月には、NPO「カタリバ」のオンライン学習支援事業へのatama+の無償提供を開始した。今後も新たなパートナーとともに、教育における様々な課題解決に取り組んでいく。

 

関係省庁、スマートIoT推進フォーラムへの意見、要望等

 人とAIは双方の得意分野で能力を発揮することで教育をより良くできる。教育のどの領域にどのようにAIを役立てていくべきか、その全体像と前向きなロードマップを社会全体で築き上げていくことが、未来を明るくすると信じている。

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本記事へのお問い合わせ先

atama plus 株式会社 高木 悠希

e-mail :  pr@atama.plus