IoT導入のきっかけ、背景
IoTを活用したスマート農業が注目されている。当社代表取締役の勝俣喜一朗は、前職であるIT企業勤務時代の1998年頃からITによって農業の生産性を上げかつ農業労働を軽減することなどができると考え、農業の知見を得るために、社内の有志を募り農家の訪問を繰り返していた。2014年になると、ドローンとAI・ビックデータ関連の技術が大きく進展し、移動するセンサーであるドローンによって広範囲に収集したビックデータを効率的に分析できるようになってきた。そのため、ITによる農業の革新がいよいよ実現できると確信し、2015年にドローン・ジャパンを起業した。
農業は長年の経験と勘が作物の収量や品質に大きく影響する分野である。その中で、篤農家と呼ばれる熟練農家は、経験と農法の探求を通じて作物の状態や天候などから、その時々に作物に対してどのような対応を行うべきかの知見を蓄積している。これらは言葉に表出することが難しい、農の匠に関する暗黙知である。従来、若手の後継者や新規就農者は、この暗黙知を10余年の歳月をかけ、先人の背中を見ながら経験的に学ぶしかなかった。
そこで、ドローンで撮影した映像を分析し作物の生育状況を見える化することにより、より少ない労力で収量と品質を上げることに加え、篤農家と若手後継者が情報を共有することによって暗黙知を見える化し伝承できると考えた。当社は、ドローンを使用したスマート農業に特化したサービスを提供し、篤農家の意思を受け継ぐ若手の農業従事者が農に夢を持てる社会作りに貢献したいと考えている。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
ドローン農業として以下に示す2つの事業を行っている
① DJアグリサービス : https://www.drone-j.com/agriculture
② ドローン米プロジェクト : https://drone-rice.jp
サービスやビジネスモデルの概要
(1) DJアグリサービス
ドローンで撮影した画像をクラウド上で解析し、農作物の状態を把握可能とする植生指数に変換し農地の地図上に表示する。この地図を解析することによって、生育ムラや病害虫発生の検知や、収穫適期を判断することなどができる。加えて、耕起時の基肥設計、生育ムラへの追肥により、肥料の量を押さえながら収量と品質を上げることができる。また、農地全体の見回りが不要となるため効率化と労働力軽減につながる。本サービスは、大規模農家に加えて、農家への農業指導を行う農業普及員・営農指導員、作物を仕入れる商社・加工流通事業者を主要なユーザーとしている。
(2) ドローン米プロジェクト
DJアグリサービスを用いて、農薬や化学肥料を極力使用しない自然調和を第一に考えたお米を生産する農家の生産を支援するとともに、収穫したお米を「ドローン米」として、生産者から消費者(海外含め)に届ける取り組みを行なっている。
内容詳細
1.DJアグリサービスの詳細
(1) ドローンを使用した画像の撮影
ドローンにはカラー画像(RGB)と近赤外線(NIR:Near InfraRed)画像を同時に撮影できるマルチスペクトラムカメラを搭載している。ドローンは撮影する目的、解析する作物、その生育ステージにあわせParrot(仏)社、DJI(中国)社、3DR(米)社、DJ独自ローバードローンなどを使い分け、圃場地面から上空120mまでを自動・自律航行し撮影することが可能である。
圃場のセンシングには衛星画像を利用することもできるが、衛星画像の解像度が数m程度に対して、低空を飛行するドローンでは、mm単位の解像度(飛行高度とカメラによる)で画像情報を取得できる。そのため、圃場内の一部でスポット的に発生している生育異常を、衛星に比べてより精密に検出することができる。
(2) 撮影した画像の解析
ドローンで撮影した画像をクラウドで解析することによって生育状況などを可視化する。可視化指標の一つとして、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指標)を使用している。NDVIは、マルチスペトラムカメラで撮影した、近赤外線(NIR)の反射率IRと、可視光赤色域の反射率Rを用いて、(IR – R) / (IR + R)の値を計算することによって得られる。
NDVIデータを圃場の地図に表示した画像のサンプルを図-1に示す。左側の写真がNDVIを使用した画像である。NDVI値が大きい箇所は青色で表示され、青色が濃いほど作物が茂っていることを示す。作物が茂っていない箇所は茶色く表示される。右側のRGB画像に比べると生育状況の違いが一目で分かる。
ドローンの撮影データにはGPS位置情報を含むため、画像から育成ムラや病虫害が発生している箇所を特定、座標を取得し、圃場を訪れた際にスマートフォン上の地図を使用して問題のある箇所を容易に見つけることができる。
図-1 NDVI値を圃場地図上に表示した例(写真左)
(3) QUICK見回り
ドローンで撮影したデータの取得後すぐに全体の農地画像を示す。
(4) QUICK合成・解析
同一圃場内の別日時や離れた別の圃場との比較を行う。多くの圃場で複数品種の耕作を行う大規模農家が、全ての圃場データを比較することによって、品種ごとの生育状況の違いを把握し、収穫の順番を決めることなどが可能となる。QUICK見回りとあわせて、日々の圃場見回りの労力と時間を大きく軽減することができる。
2.ドローン米プロジェクトの詳細
化学肥料や農薬を極力使用しないオーガニック米は、生育にムラが生じやすくかつ病虫害にも細心の注意が必要である。そこで、DJアグリサービスを使用して、圃場の状態をセンシングすることによって、適切な施肥などを実現している。
農家の生産を支援することに加えて、持続可能な農業を実現するために、篤農家と消費者が直接つながる流通の仕組みを提供している。作る技術と作ったものが売れる技術の両方が重要だと考えたのである。ドローン米プロジェクトではWeb上で購入者を直接募集しており、購入者には自分が食べるお米が育っている圃場の空撮映像や篤農家からのメッセージを見ていただく。こうして、安心安全なお米を作るという篤農家の思いに共感していただき、お米に正当な価値をつけることを行っている。
概要図
DJアグリサービスの全体像を図-2に示す。
図-2 DJアグリサービスの全体像
取り扱うデータの概要とその活用法
DJアグリサービスでは以下のデータを使用する。
・マルチスペクトラムカメラで撮影した、可視光・近赤外画像データ
・ドローンの位置情報
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
- ノウハウや作業内容の形式知化(マニュアル化)を重視するIT業界と、暗黙知を中心として感覚知を大切にする農業では技術に関する考え方が大きく異なる。そのため、解析エンジン、センサーやドローンなどを提供いただいているパートナー企業と農家の間に入り、農家が何を求めているのかを引き出してベストなソリューションに組み立てることに注力してきた。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
- 事業化にあたり、日本の大学が行っている最先端の研究や海外の事例を調査した。
- 農業のリモートセンシングに必要なプロダクトや技術は北米を中心に動いている。そのため、北米のセンサーベンダー、解析ツールベンダー、解析結果に対するアプリケーションを作るベンダー、それぞれのレイヤーのベンダーにドアノックして良いものを取り入れた。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- まだ市場ができておらず、さらにビジネスを開拓する必要がある。
- リモートセンシングのデータがどのように役立つかを、より多くの顧客に理解していただく必要がある。そのためには、付加価値をさらに高めるための投資が必要と考えている。
- 流通事業者は、作物が市場に流通する時期を逃さないために、収穫時期を知りたいと考えている。そのために流通事業者へのより効果的なサービスを検討している。
- ドローンやリモートセンシングへの期待がどんどん高まっているのを肌で感じている。その中で、大手IT企業ができないドローン・ジャパン独自のポジションを確立したい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
- ドローン農業を行うためには、大量のセンシングデータを格納し、迅速な解析を行う必要がある。そのためには、主要クラウドプラットフォーマーである、Amazon, Microsoft, Googleの動向やサービスは無視できない。農業プラットフォーム領域での彼らの動きを注視したい。
将来的に展開を(他企業との連携を含め)検討したい分野、業種
- 前項に示した海外プラットフォーマーの動きを踏まえて、戦略的な連携を行いたい。
- センサーベンダーに関しても、グローバル標準となりうる技術を見極めて連携を進めたい。
- 上記のプラットフォームやセンサーを活用して、当社は農業ICTのインテグレーターになりたいと考えている。