IoT導入のきっかけ、背景
2025年には国民の総人口に占める高齢者率(65歳以上)が30%に達する超高齢化社会が到来すると予測されている。そのため、介護施設の需要増が見込まれ、民間企業が運営する有料老人ホームの施設数は、2013年の8,502施設に対して、2016年には12,570施設と、約1.4倍に増加している(*1)。
一方で、2025年には37.7万人もの介護人材が不足すると言われおり、介護の人手不足は深刻である。そのような中で、入居者の家族からは、徘徊等がおきないように24時間の見守りを求める要望もあり、介護事業者は介護職員の負担を軽減しながら手厚いケアを実現するという課題を抱えている。
当社は、大阪市立大学医学部疲労医学講座発のベンチャー企業として、「疲労医学」という医学的根拠とIT技術を融合することによってこの課題を解決する「ライフリズムナビ+Dr.」を提供している。ライフリズムナビ+Dr.では、各種センサーからの情報を大阪市立大学と共同開発した独自のアルゴリズムで解析することによって、見守り対象者の睡眠度や疲労回復度を定量化し、脱水症や認知症等の予兆の見える化を実現した。加えて、活動量のモニターによって、徘徊等の危険につながる行動の検知も可能である。
本サービスは、2016年11月の商用提供開始以来、有料老人ホーム等に約1,000床導入され、睡眠に関する貴重なビッグデータを蓄積している。高齢者の睡眠に関する大規模なデータ蓄積は他に類例が少ないと考えており、個人向けサービスへの横展開や健康分野の企業との連携を進めたいと考えている。
(*1) 厚生労働省「平成28年社会福祉施設等調査の概況」より
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名:ライフリズムナビ+Dr.
URL: http://info.liferhythmnavi.com
サービスやビジネスモデルの概要
ライフリズムナビ+Dr.では、センサーマット、人感センサー、温湿度センサーからの情報をクラウドで分析し、その結果をPCやタブレットに表示することによって、見守り対象者の状態を見える化している(図-1を参照)。そして、異常を検知した際には施設スタッフ・家族・警備会社に通知する(図-2を参照)。加えて、専門の医療機関と連携し、医師からの健康アドバイス付きレポートを毎月発行する。
図-1 見守り対象者の状態表示
図-2 異常発生時のアラート
本サービスの費用は、センサー類の購入費用(契約時に発生)、および月額のサービス費用となっている。
ビジネスやサービスの内容詳細
ライフリズムナビ+Dr.を導入した際には、図-3に示すセンサー類を入居者の居室に設置する。
図-3 ライフリズムナビ+Dr.で使用するセンサー類
ライフリズムナビ+Dr.では、従来は感覚的にしか表現ができなかった疲労を客観的な指標で定量化するという、2003年から2006年にかけて大阪市立大学医学部疲労医学講座の梶本修身教授が中心となって推進した「疲労定量化及び抗疲労食品開発プロジェクト」の研究成果等を活用している。本研究では、運動や身体的労働、身体を使わないオフィスでの労働等に関わらず、疲れているのは体ではなく脳、なかでも呼吸や体温の調整などを司る「自律神経」であることが分かった。
自律神経機能と睡眠の構造や状態とは相関性があると考えられている。そのため大阪市立大学と当社は、睡眠パターンや睡眠の構造や状態を分析することによって、疲労回復の度合いを指数化するアルゴリズムの開発に成功した。ライフリズムナビ+Dr.では、このアルゴリズムを使用することによって、医学的根拠に基づく各種の分析を実現している。
ライフリズムナビ+Dr.の提供サービスと特徴を以下に示す。
(1) 健康状態の見守り
本サービスでは、センサーマットから得られる睡眠の状態に加えて、呼吸、心拍、室内の温湿度、見守り対象者の活動状況やトイレの使用回数等、各種センサーからの情報を組み合わせて見守り対象者の体調変化を発見する。例えば、睡眠状態の変化から認知症の予兆、トイレの回数と温湿度から脱水症・熱中症の予兆を見つけることができる。
(2) 徘徊・転倒の見守り
居室内に設置した人感センサーと扉の開閉センサーの情報から、徘徊の可能性(夜間に居室の扉を開いた)、転倒の可能性(トイレから長時間出てこない)等を検知すると、介護スタッフのタブレット端末やスマートフォンにアラートを送信する。アラートの発生閾値は、見守り対象者毎にスタッフがカスタマイズすることが可能である。これによって、見守り対象者の要介護レベル等に合わせて、最適な見守り条件を設定できる。
(3) 医師からの健康アドバイス付きレポート
専門の医療機関と連携し、毎月健康アドバイスを送付する(図-4を参照)。近年は介護を必要としない高齢者向けの施設も増えている。このような施設の入居者は自身の健康への関心が高く、健康管理や介護予防のために本レポートを活用することができる。また、入居者がかかりつけ医師の診察を受けた際に、医師が本レポートの睡眠状態を確認して入眠剤を処方する等、診断の参考材料とすることも可能である。このようにして、入居者のクオリティ・オブ・ライフ(QoL)の向上にも寄与している。
(4) プライバシーや使用感への配慮
本サービスでは、カメラを使わないことによって、見守り対象者のプライバシーに配慮している。加えて、非接触センサーのみを使用することによって、身体にセンサーを装着することによって生じる不快感をなくしている。また、本サービスで使用しているセンサーは、無線にてデータを送信するが、無線にEnOcean規格を採用することによって低消費電力化を行い、バッテリー交換に伴うスタッフの管理稼働を軽減している。
概要図
本サービスの構成を図-5に示す。収集したデータは居室毎に設置したゲートウェイを経由してクラウドに送信され、クラウドにて各種の分析と異常の検知・アラートの生成を行う。ここで、徘徊や転倒の検知につながる扉の開閉や動体検出は、リアルタイム性を重視しており、状態変化を瞬時に通知することができる。
取り扱うデータの概要とその活用法
ライフリズムナビ+Dr.では、以下のデータを収集している。
< 睡眠データ(センサーマットで収集)>
- 在床、離床
- 入眠時刻
- 覚醒時刻、睡眠深度
- 途中覚醒
- 心拍数、呼吸数
- 無呼吸回数・時間
< 温湿度データ >
- 温度、湿度
< 活動量データ >
- 動体検知、活動時間
- ドアの開閉
事業化への道のり
事業化に当たり苦労した点、解決したハードル、開発・提供までにかかった期間
- 最初に導入したお客様より、介護業務のフローに合わせるために多くの要望をいただき、機能追加や使い勝手の改善を行なった。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
- 扉の開閉等、入居者の危険につながる行動をいち早く検出したいとの要望をいただき、検出時間の短縮や画面表示の見易さの向上を行なった。
- 通知のリアルタイム性を高めるためにデータの送信間隔を短縮するとセンサーのバッテリー消費量が増加するため、このトレードオフを最適化する必要があった。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- 開発当初は毎月のレポート機能を重視していたが、お客様のフィードバックから、介護の現場では入居者の危険につながる行動をいち早く検出することが重要であることが分かった。介護施設は、このような手厚い見守りを実現することによって、入居者や家族の安心感を高め、ひいては施設の価値を高めることができる。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
- ライフリズムナビ+Dr.のユーザ接点を増やすために、介護や見守りを必要としない、一般個人に販売することを計画している。そのために、東京ガス株式会社と共同で実証実験を行っている。
- 個人向け市場の開拓に必要なマーケティングや販売パートナーを必要としており、現在対応を行なっている。
将来的に展開を検討したい分野、業種
- 蓄積したデータを活用するために、健康分野の企業等、他社との連携を進めたい。