朝日エティック株式会社
- IoT等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
- IoT等を活用した社会課題解決の取り組み
- IoT等を活用した実証実験等の取り組み
【関連する技術、仕組み、概念】
- IoT
- ビッグデータ
- AI
- DX
- LPWA
【IoT等の利活用分野】
- 流通・小売
- 建設・設備
- その他(ロードサイドの看板を使用するすべての業種)
【IoT等の利活用の主な目的・効果】
- 生産性向上、業務改善
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
朝日エティック株式会社(以下、当社)は大阪府大阪市に本社があり、「暮らしと社会の架け橋を担う総合建設企業」を謳っている。創業から69年に渡り守り続けてきた「ものづくり」の精神を活かしながら、時代ニーズに合わせた変革を実行し、現在では多彩な分野に事業を展開している。そのような中、多発する屋外広告物(看板)落下事故に対応し、全国の自治体が屋外広告物の点検の強化や義務化を進めている。さらに、屋外広告物の設置者や、設計、製造、施工、メンテナンスを生業とする業者においても、「CO2削減」、「人手不足の解消」、「安心・安全な街づくり」等の社会的課題を解決する必要性が高まっている。
これらの背景を踏まえて、2022年2月にIoTを用いた屋外広告物安全管理サービス “Signit(サイニット) ” をリリースした。リリースに当たっては、大規模な概念実証(PoC) *1を実施している。2020年4月より287台のセンサボックスを、全国40ヶ所のサービスステーション内にある様々な屋外広告物に設置し、現在もPoCを継続中している。これまでに、振動回数、傾斜、倒壊判定、特定波長の照度比や地磁気などの2,200,000個以上のデータを取得し、屋外広告物劣化の判定基準を導き出すことに成功している。
なお、当社のこの取り組みは、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)の「MCPC award 2022」のサービス&ソリューション部門で最優秀賞を受賞している。
*1:PoC(読み:ピーオーシー/ポック)とは、Proof of Concept(プルーフ・オブ・コンセプト)の略で、日本語では「概念実証」と訳される。新しい手法などの実現可能性を見出すために、試作開発に入る前の検証を指す。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名:IoTによる屋外広告物安全管理サービス“Signit(サイニット)”
関連URL:https://www.etic.co.jp/business/sign_it/
サービスやビジネスモデルの概要
“Signit ”は、センサとIoTネットワークを用いて屋外広告物の状態を遠隔から常時監視し、災害による破損や故障が生じた場合は速やかに事後保全することで、屋外広告物を “常に安全・安心で誘目性や広告効果の高い最適な状態”に保つソリューションである。まず、電池駆動の小型無線センサボックスを屋外広告物に設置する。そして、センサボックスに搭載された複数の専用センサが屋外広告物の状態を監視し、さまざまな構造劣化や破損の兆候を検知し、低電力ワイドエリア(LPWA)無線通信であるsigfox経由でデータをクラウド上に集約する。集約データは、当社独自のアルゴリズムで解析し屋外広告物の状態を定量評価し、その劣化状況に応じて現場確認した後に点検や修理・交換の提案を行う。(図1参照)
具体的には、電池交換なしで10年間、屋外広告物の傾斜や劣化・破損、照明機器の不点灯、内部鉄骨部の錆、面板の破損/色褪せ、意匠面の回転の状態を常時、遠隔監視する。また、台風などで屋外広告物が倒壊や破損した場合は、センシングデータが設定値を超過した(安全性が低下した可能性がある)ことをメールで顧客や関係者に自動配信する機能を有している。
図1:Signitのシステム構成(出所:朝日エティック提供資料)
ビジネスやサービスの内容詳細
サービス内容は、センシングデータが設定値を超過し安全性が低下した可能性があることをメールでお客様や関係者に知らせる [PLAN.1] 、これに加え、集約したデータを当社独自のアルゴリズムで解析し、その結果に応じて現場状況を確認した後に、適切な補修対応を提案する [PLAN.2] 、の2種類を展開している。(図2参照)
図2:Signitのサービス内容(出所:朝日エティック提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
取得しているデータとそれによって監視している項目は次のとおりである
取得データ
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監視項目
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傾斜・振動データ
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屋外広告物の傾き(倒壊)・構造劣化・破損
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照度データ
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内照照明の劣化・不点灯
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地磁気データ
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意匠面の回転
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色合い(RGB強度比)データ*2
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内部鉄骨の錆、面板の破損・色褪せ
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*2:内部鉄骨の錆は、LED反射光をデジタルカラーセンサで測定し、色成分から検知。一方、面板の破損・色褪せは、面板透過光をデジタルカラーセンサで測定し、色成分から検知
事例の特徴・工夫点
IoT等による価値創造
これまで実施できていなかった屋外広告物の予知保全が可能となる。この予知保全と定期点検を組み合わせることで、保守のタイミングを最適化し、安全性を高めるとともに事故発生リスクを低減することができる。また、屋外広告物を最適な状態を維持することで、広告効果の低下を防ぐだけでなく、企業イメージの維持・向上にも貢献する。
さらに、これまでに全国展開で実施してきた概念実証(PoC)や自社敷地内での検証実験を継続すると共に、サービスインによって得たデータも有効活用することで、検知精度向上等の性能向上を継続していく。
IoT導入や事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間
面板の破損・色褪せの検知に当たって、天気の違い、季節の違いを克服するために実証実験を繰り返しました。さらに、PoCでセンシングデータを積み重ねているが、重大な不具合はなかなか発生せずデータ取得の難しさを感じた。
重要成功要因
重要成功要因としては以下があげられる。
① 検討を開始した2017年頃は、IoTありきで何をやるかを考えていた。その後、社外有識者の御指導やデザイン
思考に啓発され、社会的課題を解決する方向に舵を切ろうと考えていた。そのような折に看板の落下による人
身事故のことに思いが至り、このような悲惨な事故を繰り返さないことを課題とした。
② 2019年度に「IoTを用いた屋外広告物メンテナンスソリューションの開発」が地方独立行政法人東京都立産業
技術研究センター(以下、「都産技研」)の公募型共同研究に採択された。プロジェクトを進めていくうえ
で、都産技研のサポートが大きな後押しとなった。また、新しい取り組みであったが、都産技研との共同研究
であったことから短期間で社内の関係部署の協力を得ることができ、本サービスの短期間でのリリースにつなが
っている。
③ 当社は内照式屋外広告物を製造しており、それに搭載する光源も製造している。その中で顧客からの厳しい色
合いや明るさの要求に対応してきた。そのような経験、技術を“Signit ”の開発にも生かすことがで
きた。また、当社は屋外広告物の設計、施工、メンテナンスを実施しており、屋外広告物の状態を把握する要
素技術を持っていたことも成功要因の一つである。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
ソリューションを10年間電池交換なしに動かすことにこだわったことで、データ量の削減が必要となった。これを実現するために、カメラ画像ではなくデジタルカラーセンサで錆を検出する新たな技術開発を行った。また、劣化を検知する振動に関しても、振動の生データを収集・送信するのではなく、振動の大きさと回数の傾向から劣化を判断するアルゴリズムを開発した。なお、錆の判定については、AIを用いた画像解析について、大学と共同研究を進めてきた経緯がある。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦
“Signit (サイニット) ”は屋外広告物を対象としているが、基本となる技術は屋外構造物全般に適用が可能と考えている。今後、屋外広告物以外の構造物への適用を検討していきたい。
技術革新や環境整備への期待
屋外広告物の点検については、全国の地方自治体において条例の制定や改定により義務化が進んでいるが、作業員の目視による点検となっている。IoTを使うことで人に頼らずに収集したデータによる点検も可能となると考えられる。また、目視点検では確認できない構造物の劣化を振動で監視できるようになるため、常時監視を含めた新しい技術を活用した点検が受け入れられることを期待している。
屋外広告物製造業者、屋外広告物管理業者、コーディネーターのような企業も含め仲間を増やし、実証例を増やし、実績を作った上で行政に働きかけることを考えていきたい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
上で述べたことと関係するが、当社の技術は老朽化した屋外構造物を交換する際の優先順位付けに展開できるのではないかと考えている。展開可能な屋外構造物を見つけ、当社技術の展開を考えていきたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
屋外構造物は多種多様である為、協業出来る専門企業と連携していきたい。