IoT導入のきっかけ、背景
あらゆるモノがネットワークにつながるIoT(Internet of Things)が、産業のみならず、社会や我々の生活を大きく変えようとしている。しかしながら当社は、現在のIoTは、まだインターネット的なIoTになっていないと考える。現状は、同一企業やグループ内で、特定の目的ごとにセンサーとクラウドを縦につなぐイントラネット的なIoTになっているためである。
例えば、カーナビにおいて、急加速による燃費悪化をドライバーに警告するサービスは車からのデータ収集のみで実現できる。つまり、カーナビと車をイントラネット的に接続すれば実現できるサービスである。一方、体調不良のドライバーに運転を控えるよう警告を出すためには、車から取得できないヘルスケアデータを別途取得し、これを車の方に通知することが必要となる。
上記の車とヘルスケアデータのように、データが当初の目的を超えて流通することにより新たな価値を生む。当社は、このように目的や業種をまたがるビックデータの活用が、インターネット的なIoTの使い方であると考える。これを実現するためには、価値創造に必要なデータを他の企業やグループから効率的に集める仕組みが必要になる。
そのため、今のIoTに不足しているものは、データを効率的に集めるための流通市場であると考えた。データを、産業分野をまたいでエンドツーエンドに交換できる市場が必要だと考えたのである。EverySenseはそのためのIoTデータ流通プラットフォームである。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名: IoTプラットフォームサービス「EverySense」
関連URL: https://every-sense.com/services/everysense/
サービスやビジネスモデルの概要
EverySenseは、世界中のあらゆるデバイスのデータ売買を仲介する、IoTデータ流通のための市場である。EverySenseは、図-1に示す通り、データ提供者(ファームオーナーと呼ぶ)とデータ収集者(レストランオーナーと呼ぶ)間を仲介し、データを安全に取引するためのサービスを提供する「データにおける証券取引所」である。
本サービスでは、データを提供したファームオーナーに対して、データの質や量が収集者の要件を満足した場合に、本サービス独自のポイントを報酬として付与することができる。このことによって、ファームオーナーのデータ提供意欲を喚起する。本サービスで貯まったポイントは、当社が提携しているポイント交換サイト 「RealPay」を利用し、ギフト券や現金、他社のポイントに交換することが可能である。
図-1 EverySenseが提供するデータ取引市場
ビジネスやサービスの内容詳細
EverySenseでは以下に示す仕組みによって、スケーラブルかつ安心・安全なデータ流通サービスを実現している。
(1) メタデータ化によるデータ流通性の確保
- 世の中には既に多くのIoTデバイスが動いており、同じ種別のデバイスでもメーカー毎に単位や生成する数字の羅列として出力されると、何番目のデータが体重なのかが識別できない。この課題を解決するために、データが持つ意味を付与するメタデータ化(*1)を行う。
- EverySenseでデータを流通する際は、データ本体ではなくメタデータ(データの索引(Index)に相当する)を登録する。EverySenseにて規定しているメタデータの例を図-2, 3に示す。
- 既存のIoTデバイスで収集したデータもメタデータの付加やマッピングを行うことによって、デバイスの設計を変更することなく、市場での流通が可能である。
(*1): 例えば、40.7という数字が、温度・湿度などの何を測定した値なのかの意味を付与する。さらに、温度の場合、単位は摂氏・華氏のどちらであるかを付与する。加えて、デバイスの設置場所、データの送信間隔、センサー精度などの付加情報も付与する。
図-2 メタデータの例(1)
図-3 メタデータの例(2)
(2) ファームオーナー(提供者)、レストランオーナー(収集者)間のマッチング
- ファームオーナーは、データを提供するデバイスをリストから選択する。
- レストランオーナーは、必要とするデータの種別、利用目的、報酬支払いの有無などをレシピとして登録する。
- レストランオーナーはデバイスリスト、またはセンサーリストの中から、自身が必要とするセンサーを持つデバイスやセンサーを見つけることができる。条件がマッチするファームオーナー数を確認しレシピを確定する。ファームオーナーはオーダー内容を確認し、データ提供に合意する場合はオーダーを承認する。条件により自動承認とすることもできる。
(3) 安心・安全な取引所であるための中立性とセキュリティ
- EverySenseのプラットフォーム内にはデータを蓄積しない(カタログのみを登録する)。取引が成立したデータはEverySenseのプラットフォームを介して、提供者・収集者間で送受する。
- データの報酬は、提供者・収集者間の合意によって決定し、EverySenseは決定に一切関与しない。EverySenseは(2)に示すマッチングに特化する。
- ファームオーナーは、デバイスが収集できるデータの内、第三者に提供したくないデータを選択できる。例えば、プライバシー性が高い情報の提供可否は提供者が取引毎に決定でき、提供を行う時間帯を設定することもできる。
(4) 取引相手の信頼性評価
- ファームオーナーは提供したデータの量(協力度)によって、レストランオーナーからの評価を受ける。虚偽と思われるデータ提供を行った場合やオーダーを承認してもデータをまったく提供してくれないことが続くなど、評価が下がる仕組みによってデータの品質を確保している。
- レストランオーナーには、発行できるポイント額の上限を設けることによって確実な支払いが行われるようにしている。
概要図
図-4に示す通り、EverySenseは水平(産業分野間)・垂直(デバイスの接続)の双方向においてスケーラブルかつ相互運用可能な、データ流通プラットフォームである。
図-4 EverySenseの概念図
取り扱うデータの概要とその活用法
以下に示す、あらゆるデータを流通することが可能である。
(1) ストリーム型データ
- IoTデバイスによって周期的に生成されるデータ。
(2) ファイル型データ
- 提供者が収集蓄積したデータをファイルの形で一括提供する。
- この形態においても、EverySenseは取引が合意しデータが納品された場合に一定期間のみファイルをサーバ内に保存する。
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、開発・提供までにかかった期間
- 今までにない全く新しい市場を立ち上げるため、社会的な認知を得ることろからスタートすることが必要である。この点ついては、現在も苦労している。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
- プラットフォームで使用している、API(Application Program Interface)やGUI(Graphical User Interface)などは全て自社で開発した。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- 本サービスの社会的な認知を高めるため、大規模な実証を行いたい。
- データ取引市場は証券取引所と同様に公的な側面があるため、プライベートビジネスではあるが、出資者に偏りがないなどの資本のバランスが必要である。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
- 証券取引所が新規株式の上場基準を設けていることと同様に、データ提供者の審査基準整備を進めたい。
- 個人情報を預託管理する情報銀行やパーソナルデータストア(PDS)が、情報を直接収集することに加え、当市場を経由して集めることも考えられる。このようなエコシステムの形成を進めたい。
将来的に展開を(他企業との連携を含め)検討したい分野、業種
- Linked open dataなどの公共データをもっと扱いたい。
- 国や自治体が集めたデータは膨大な量があり、かつ、有用なデータが多くあるため、本プラットフォームで流通できるようにしたい。