旭化成ホームズ株式会社
- 事業・業務の見える化
- 事業・業務プロセスの改善
- 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
- 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
- 故障や異常の予兆の検知、予防
- 故障や異常への迅速な措置
- 故障や異常発生後の最適かつスムースな事業継続
- その他(収集把握した情報を基に、顧客の困りごとに実効的なサービスを提供
【活用対象】
- 自社の複数部門あるいは全体
- 他企業とのアライアンス・コミュニティ
- 企業顧客
- 一般顧客
IoT導入のきっかけ、背景
旭化成ホームズは、強度・耐火性・断熱性・遮音性に優れたヘーベルと呼ばれるALCコンクリート(軽量気泡コンクリート)を建築材として用いた戸建て住宅をヘーベルハウス、賃貸住宅をヘーベルメゾンのブランドで展開している。
当社は2019年に、人びとの「いのち・くらし・人生」全般を支え続ける「LONGLIFE」な商品・サービスの提供に努めていくことを宣言した。LONGLIFEを実現するためには、耐震性の高い住宅を提供し続けることに加えて、震災からの復旧を迅速に行うレジリエンス(回復力、復元力)を実現する必要がある。震災から逃れることができない日本においては、耐震性という事前の対策に加えて、住宅メーカーである当社においてもレジリエンスという事後の対策を重視している。
震災によって被害を受けたお客様の暮らしを一日でも早く建て直すための支援(事後対応)は当社の重要な使命である。同時に、大きな課題でもある。震災発生時、当社にはお客様の被災状況を調査し、被害が発生している際には修復の見積もりや必要な部材・人員の確保、修復工事の実施などを行う体制がある。しかし、大規模な震災ではこの作業は容易ではない。
震災発生直後は気象庁が発表する地区ごとの震度情報しかなく、お客様個々の被災状況が把握できない。そのため、全ての当社住宅のオーナー様に電話などで個別に連絡を取り、最終的には現地に赴いて状況を調査する必要がある。当社は東京都23区内に約4万棟の住宅を供給しており、もし首都圏で大規模な震災が発生した場合は、交通・通信網などインフラの混乱が続く中で万単位の調査を行う必要がある。
この課題を解決するために、約2km間隔に設置した地震計で計測したデータから、地震発生後10分~2時間程度で、そのエリアに建つ全てのヘーベルハウス・メゾンの邸別の建物被害レベルや液状化発生状況を推定する防災情報システム LONGLIFE AEDGiS(ロングライフイージス)を開発した。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL
名称:IoT防災情報システム LONGLIFE AEDGiS (*1)(ロングライフイージス)
URL(ニュースリリース):https://www.asahi-kasei.co.jp/j-koho/press/20210305/index/
(*1) AEDGiS: Asahikasei Earthquake and other disaster Damages Grasp information Systemの略
サービスやビジネスモデルの概要
LONGLIFE AEDGiSでは、邸別の被災度を地震計で計測したデータからリアルタイムに推定する。しかしながら、全戸に地震計を設置するのはコストの点で現実的ではない。そのため、地震計は全戸ではなく約2km間隔に設置する。加えて、エリアを50m四方のメッシュ(網の目)に分割し、メッシュ単位に地盤情報を整備する。2km間隔の地震計が捉えた地震動と50mメッシュの地盤情報を利用して、地震計を設置していない任意のメッシュの揺れを計算によって復元する技術を共同研究者の国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)の協力を得て開発した。50mメッシュ単位で任意の区画の揺れを計算できれば、そこに建つ邸別の被災度推定が可能になる。
具体的には、東京都23区内のヘーベルハウス約4万棟から2km間隔になるようにカ所を選んで地震計を設置し、それと同時に50mメッシュの地盤データベースを整備した(図-1を参照)。4万棟の中から被害の大きい邸宅を10分~2時間程度で判別することが可能なことから、震災発生時のお客様対応を大幅に効率化することができる。
図-1 LONGLIFE AEDGiSの高密度地震観測網
(出所:旭化成ホームズWebページ)
内容詳細
防災科研との共同研究によって開発した、地震計を設置していない邸別の被災度を推定する方法は以下の通りである(図-2を参照)。
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一定の割合(東京都23区では約2km間隔)でヘーベルハウスの基礎に設置した地震計で地震動を計測する。
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地震計で計測したデータは地表面の揺れになるが、これに50mメッシュの地盤データベース(*2)を組みわせ、地震計設置個所の直下深部に位置する基盤面(固い岩盤面)の地震動情報に変換する(図-2の青の矢印)。
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図-2の赤丸で示す地震計を設置していない対象建物を取り囲む2項のデータから対象建物直下基盤面の地震動を算出する伝搬計算を行う(緑の矢印)。
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3項と地盤データベースを組み合わせ、対象建物の地表(基礎)部における地震動を推定(赤の矢印)。それをヘーベルハウスの建物構造情報と組み合わせることで、邸別の被害状態を即時に推定する。
図-2 LONGLIFE AEDGiSにおける被災度推定の方法
(出所:旭化成ホームズWebページ)
(*2)地盤データベース: 深さ方向にどういう種類の土の層が、どのような硬さと厚さで分布しているかを示すデータ。このデータが50mメッシュで格納されている。
図-3にLONGLIFE AEDGiSの画面表示例を示す。図中の丸い点がヘーベルハウスの所在地を示し、点の色で被災度を示している(赤は被災度が高い)。こうした可視化によってお客様対応の優先度が地震の発生直後に判断できる。例えば、図-3の青色で囲った区が震度6強と発表された場合でも、実際の被害は南側に集中するケースが想定される。このような場合、従来は震度6強と発表された区全体で調査を開始する必要があったのに対して、被害が大きい箇所に優先してリソースを配分することで迅速な対応が可能となる。
図-3 LONGLIFE AEDGiSの画面表示例
(出所:旭化成ホームズWebページ)
LONGLIFE AEDGiSのフェーズ展開
当社は、東日本大震災から10年の節目にあたる、2021年3月に東京都23区内の166カ所の地震計からなる観測網を構築した。この観測網を用いて、2021年7月より東京都23区内でLONGLIFE AEDGiS第1フェーズの試験運用を開始する予定である。引き続き対象を拡張し、2022年4月より第2フェーズとして旭化成グループがヘーベルハウスを展開する全エリアでの運用開始を目指している。(図-4を参照)
第2フェーズで対象を全国に広げる際は、協力関係にある防災科研が構築したJ-RISQ (*3)の観測網とデータを用いて被災度推定を行う予定である。
図-4 LONGLIFE AEDGiSのフェーズ展開
(出所:旭化成ホームズWebページ)
(*3) J-RISQ: 防災科研が構築した全国を網羅する強震観測網(K-NET,KiK-net)に加えて、地方公共団体や気象庁の計測震度データから、地震災害が発生した場合に、建物の被害情報などを全国250mメッシュでリアルタイムに推定するシステム。
さらなる段階として、LONGLIFE AEDGiSによるトータルレジリエンスの実現を考えている。当社は、トータルレジリエンスには災害への対応のみならず、犯罪への対応や体調急変への対応も含まれると考えている(図-5を参照)。そのため、トータルレジリエンスを実現するためには、お客様の今を幅広く知り、今のニーズ・困りごとにジャストフィットしたサービスを提供する必要がある。
震災発生後に家の被害を修復していち早く生活を立て直すというニーズに対して、邸別の被災度という「今」を知り、修復の見積もりや作業手配などの「機動力(サービス)」を効率的に発揮するためのシステムがLONGLIFE AEDGiS フェーズ1・2である。
この考え方を防犯や健康という領域に拡大するためには、地震とは異なるセンシングと異常を検知した際の駆け付けなどの機動力が必要となる。そのため、当社は様々な業種との連携を行いながらトータルレジリエンスの実現に取り組んでいきたいと考えている。
図-5 旭化成ホームズのロングライフ戦略
(出所:旭化成ホームズ提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
- 地震計が検知した加速度
- 地盤データベース
- 建物の位置データと推定した地震動、それに対する建物応答データ
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
本システムの企画当初は、全戸に地震計を設置する防災サービスとして会社に提案したが、お客様から対価をいただけるかという議論の結果、この提案は採用されなかった。
より少ない地震計で高精度な被害度推定を行うシステムとすることで経営陣の理解が得られ、そのための研究開発と並行して提供価値や費用回収方法などの出口戦略を模索した。この過程では、当社内で技術開発を担当する研究所、商品企画・サービス企画部門、加えて旭化成グループ内の研究開発を支援する部門という、社内・グループ横断のチームで議論を重ねた。
その結果、災害発生後に混乱ししがちな現場の業務プロセスを大幅に効率化できることから、BCP(事業継続計画)の課題解決という位置付けにつながり事業化ができた。ここを出発点として、さらに社会的価値を高めていきたい。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
地表面の地震計が検知した揺れを基盤に戻して、基盤内の伝搬計算によって任意メッシュの地震動を復元する計算を高速に行うアルゴリズムを開発した。東京都23区の面積は約600平方kmあるため、50mメッシュで分割すると、24万(600×20×20)個のメッシュができる。仮に首都圏であれば百数十万メッシュとなる。この膨大なメッシュ数における計算を高速に行うアルゴリズムを開発した。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- LONGLIFE AEDGiSをお客様の日々の困りごとを解決するサービスに発展させてより社会に貢献したい。
- 国や自治体は地域全体に広く公平なサービスを行う努力をしている。こうした公のサービスだけではカバーしきれない領域、お客様個々が持つ困りごとにピンポイントに対応できるサービスを提供したい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
お客様にとって役立つサービスとするためには、情報の提供にとどまらず、困りごとを解決するための機動力をあわせ持つ必要がある。トータルレジリエンスの実現に向けて、お客様の今を知り、その情報に基づいてお客様に実効的なサービスを届けることができる機動力を持っている企業・団体との連携を行いたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
地震による被災度情報を活用できる企業・団体との連携を検討している。例えば、地震保険を扱う損害保険会社、地震が発生した際に店舗の損害をいち早く確認したいコンビニチェーンなどが考えられる。
本記事へのお問い合わせ先
旭化成ホームズ 広報室/上代
e-mail : Kajiro.tb@om.asahi-kasei.co.jp