掲載日 2019年12月04日

JAめむろ

【提供目的】
  • 生産性向上、業務改善

【活用対象】

  • その他

IoT導入のきっかけ、背景

 JAめむろが事業を行っている北海道芽室町は、十勝平野の西側に位置し平均耕作面積が34ha/戸(東京ドーム7.2個分)という、道内でも有数の欧米型大規模農業が行われている。芽室の農業は畑作が主体で、作付け面積の約3割を占める小麦が主要作物である。

 広大な圃場(作物を栽培する田畑)を耕作するためには、大型の農業機械を導入した生産性の向上が欠かせない。例えば、小麦の収穫では刈り取り幅4.5mのコンバインが稼働している(写真-1を参照)。JAめむろは、こうした大型機械を保有して組合員(農家)に貸し出している。

 小麦の収穫は、7月末からの7日間程度という非常に短い期間内に行う必要がある。そのため、当初は管内の圃場を9つの地区集団に分け、地区集団毎にコンバインを割り当てていた。一方で標高差や土壌の違いから収穫時期に差が生じるため、最繁期のグループとそうでないグループが発生するなど、機械の稼働効率と運用コストの改善を要していた。

 生産性向上に加え、組合員の収益を向上するためには、作物の品質を確保する必要がある。小麦の品質の一つであるアミロ値は、収穫期の降雨によって、小麦が刈り取り前に発芽してしまう穂発芽(ほはつが)と呼ばれる現象がおきると、でん粉の変性によってアミロ値が下がり市場価値が低下してしまう。そのため、収穫時期が近付くと、こうしたデータを注意深くモニタリングする必要がある。

 上記の課題を解決し、生産効率と品質を向上するために、ICTやセンシングの技術を活用して大規模農業におけるオペレーションの効率化を実現した。

 

写真-1 小麦収穫用の普通型コンバイン

 

IoT事例の概要

サービス名、関連URL

 事例の名称:農産物適期収穫支援システム「Good Timing」

 

概要

 本システムでは、衛星画像の解析による収穫適期の予測と最適な収穫順位の決定支援、給油や作物の運搬の効率化を実現している。

 加えて、定点圃場のモニタリングによって、水分やアミロ値などの推移を把握し、品質の安定化を図っている。

 

内容詳細

(1)  衛星画像の解析による収穫順位の決定

 圃場の衛星写真を解析することによって、作物の発育状況を知ることができる。JAめむろの圃場管理システムでは、写真-2に示す通り地図上で各圃場の位置と作付け情報を管理しており、このデータと衛星画像を重ね合わせることによって、写真-3に示すように小麦の作付けを行っている圃場の衛星画像が得られる。

 写真-3の画像を解析してNDVI値(*1)を求めることによって小麦の生育状況を可視化できる(写真-4を参照)。写真-4上で赤色の部分が生育が進んでいる箇所である。この情報を元に、収穫適期に達した圃場から収穫を行うための収穫順位を決定する。

(*1) NDVI: Normalized Difference Vegetation Index(正規化植生指標)は、マルチスペトラムカメラで撮影した、近赤外線(NIR)の反射率IRと、可視光赤色域の反射率Rを用いて、(IR – R) / (IR + R)の値を計算することによって得られる。

 

写真-2 圃場管理システムの画面

写真-3 小麦の作付けを行っている圃場の衛星画像

写真-4 衛星画像解析による生育早晩ランクマップ

 

 衛星画像は収穫前の7月上旬に加えて、5月中旬にも取得している。7月の画像を解析すると、冬枯れ・生育不良の部分が赤く表示され、生育が進んでいるように見えることがある。そのため、5月の衛星画像および現場の目視確認によって、冬枯れ・生育不良箇所を事前に特定し、予測精度の向上を行っている。

 

(2)  コンバイン割り当ての最適化

 収穫順位の決定によって、地区集団間の繁閑による機械のやりくりが可能となり、従来は9地区集団単位に行っていたコンバインの配備と割り当てを、本部集中体制にすることができた。結果としてコンバインの稼働率を向上することができ、コンバインの保有台数を10台削減(*2)することができた。

(*2): 平成12年と平成23年実績の比較による。

 

(3)  コンバインへの給油や収穫物の運搬の効率化

 従来は収穫作業中にコンバインへの給油が必要となった際は、コンバインを近くで待機している給油車まで移動して給油を行ったため移動に時間を要し、その間は機械が有効稼働していなかった。また移動のために無駄な燃料消費も発生した。そのため、GPS位置情報を活用した給油支援システムを開発し、給油車が給油を要するコンバインの場所まで駆けつけて給油を行えるようにした。(図-5を参照)

図-5 給油管理システム

 収穫した小麦は、JA本部の受け入れ施設に運搬し乾燥と調製を行う。また、その際の運搬には輸送業者のトラックを使う。従来は、農家がハンディターミナルで印刷した紙のレシートをドライバーに渡し、受け入れ施設に持ち込むことで確認を行っていた。その際、レシートが汚れて読みづらい、受け入れ後の品質確認結果が刈り取り現場で分からないという課題があった。そのため、刈り取り現場でタブレット端末から情報をサーバーに格納すると共に、現場でNFCカードを発行しペーパーレスで受け入れ確認ができるようにした。(図-6を参照)

 受け入れ施設に運ばれた小麦は、トラック毎にサンプルを採取し、外観形質の確認と子実水分、タンパク、アミロ値の測定を行う。この作業の多くは自動化しており、結果をすぐに知ることができる。

図-6 収穫支援システムによるペーパーレス化

 

(4)  品質データのモニタリング

 冒頭に示したように、小麦の重要な品質にアミロ値がある(高い方が高品質)。衛星画像の解析に加え、JAめむろ管内に複数のモニタリング圃場を設置し、採取したサンプルからアミロ値と水分を測定し、収穫タイミングの判断材料としている。もし収穫前の降雨などでアミロ値の低下傾向が見られた場合は、情報提供により刈り取りを早める等の対応に努めている。

 

概要図

 農産物適期収穫支援システムの全体像を図-7に示す。

図-7 農産物適期収穫支援システムの全体像

 

取り扱うデータの概要とその活用法

本システムで活用している代表的なデータを以下に示す。

  • 各圃場の位置情報、品種などの作付け情報
  • 圃場の衛星画像
  • コンバインの位置情報(GPSデータ)
  • 小麦のアミロ値、子実水分

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 本システム導入前の収穫順位は地区集団毎に関係者が集まって決めていたが、判断基準が経験に依存し、かつ人によって異なる場合もあり、コンバインの取り合いと言える状況も発生していた。適切な収穫順位決定方法の開発とコンバインの割り当て最適化、さらに台数の削減は当時の最優先課題であった。そこで、より公平かつ合理的な判断を行うために衛星の目を利用したのである。

 このように、JAめむろは、スマート農業という言葉が使われるようになる前の、2000年台初頭から先頭を切って農業のIT化を進めてきた。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 衛星画像を使った収穫時期の判定は当時稲作での実用例があった。この技術を小麦に応用するための北海道農業技術センターを中核とした研究プロジェクトと、JAめむろや組合員の課題が合致しシステム化を行うことができた。JAめむろに、ITに理解がある経営幹部がいたことも最新技術の導入にチャレンジできた要因の一つであった。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

  • 収穫時期に曇天が続くと衛星画像が取得できない。そのため、現在使用している衛星(地球観測衛星SPOT)以外の衛星データ取得手段が必要である。
  • 小麦はおよそ十年単位で品種の切り替えが行われる。品種が変わると衛星画像の解析結果に影響が出ることが、近年一部で導入を行っている品種で分かってきた。そのため、研究機関とも連携し、品種切り替え時の対応を行う体制が必要である。
  • 豆類など小麦以外の作物にも本システムを適用可能とする必要がある。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 十勝の農業は、大型機械がないと成り立たない。そのため、機械メーカーや付随した作業機(*3)メーカーとの連携を図りたい。

(*3): 作業に応じてトラクター後部に取り付ける器具などを作業機と呼ぶ。トラクターの速度にわせて作業機の速度も変えるなどの連携を制御信号のやり取りによって行う。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 北海道の農業試験場などの研究機関と、現場のニーズを的確に伝えながら連携していきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

JAめむろ 営農部農業振興センター

e-mail : nagahama@ja-memuro.or.jp

URL :  http://www.ja-memuro.or.jp/