掲載日 2019年03月14日
西松建設株式会社

西松建設株式会社

【提供目的】
  • 生産性向上、業務改善
  • 事業の全体最適化

【活用対象】

  • 自社で活用

IoT導入のきっかけ、背景

 

 当社は、土木から建築までを幅広く手掛ける総合建設業であるが、中でもトンネル施工に強みを持つ。本記事では、岩盤を掘り進んで構築する山岳トンネルの施工におけるAI(人工知能)活用事例を紹介する。

 当社を含む建設業の業績は近年堅調に推移しているが、中長期的には人口減少社会における国内需要のシュリンクや労働力不足の対応に迫られている。今後の経営環境の変化に対し、施工の自動化による作業者の負担軽減及び施工効率の改善は、優秀な人材を確保し、当社の強みを維持するために避けては通れない課題である。

 そこで当社は、近年大きな進歩を遂げているAIに着目し、その活用によって、山岳トンネルの施工・品質、地山評価、作業員の安全・健康などの様々な課題解決や施工の自動化を実現するための「山岳トンネルAIソリューション」(図-1)を推進している。図-1に示す各要素技術を開発し統合することが、自動化に貢献すると考えているのである。

 今回はその第一歩として、切羽と呼ばれる山岳トンネルの掘削先端部分で行っている作業の内容を、AIによって自動判定するシステムを開発した。すなわち、現場で今行われている作業内容の判定を、人の目に代わりAIで実現するものである。

図-1 「山岳トンネルAIソリューション」の全体構想図

 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

名称:掘削サイクル判定システム

関連URL:https://www.nishimatsu.co.jp/news/news.php?no=Mjky

導入事例の概要

 山岳トンネルの掘削は、通常1.0~1.5m程度の距離毎に、図-2に示す、穿孔・装薬、発破、ずり(岩石)搬出などからなる一連の作業(工種と呼ぶ)を繰り返しながら進める。これを掘削サイクルと呼ぶ。

図-2 山岳トンネルの掘削サイクルの一例

 掘削サイクルにおいて現在どの工種を行っているか、また各工種にどれだけの時間を要しているかを把握することは、施工上の課題を抽出して改善を行い、生産性を向上させるために重要である。しかし、施工状況を常に人が観察・記録することは困難であるため、従来は情報が断片的にしか得られていなかった。

 本システムでは、トンネル内に設置したネットワークカメラで切羽を常時監視し(図-3)、映像を現場事務所や本社・支社などの支援部署に送り、学習済みのAIを使用して切羽で行われている工種をリアルタイムに判定する(図-4)。

図-3 ネットワークカメラの設置の様子

図-4 工種の判定結果の例

導入事例の内容詳細

(1)  本システムによって期待される効果

  • 集計したデータから現状の掘削サイクルを日々分析することによって、図-5, 6に示すように工種毎の所要時間を可視化することができる。この結果から、時間を要している工種を特定し、改善策を迅速に講じることができる。
  • 判定した作業内容に応じて機械の稼働を最適化し、電力使用量を削減することができる。例えば、粉塵が多く発生するずり搬出や吹付け作業の期間を特定し換気量を調整することなどが可能となる。
  • 現場では、穿孔・装薬に使用するドリルジャンボ、コンクリート吹付け機など、多くの施工機械が稼働している。狭い構内で作業を行うため、工種に応じて使用する機械を頻繁に入れ替える必要があるが、将来的に自動化を実現する際には、本システムの判定結果を重機等の稼動のタイミングの制御に利用することができる。

図-5 集計データの表示例(時間毎の切羽作業の判定結果)

図-6 集計データの表示例(一日の各工種の時間配分)

(2)  AIの学習に必要となる教師データの作成

 現場の映像から工種をAIで判定するためには、収集した映像データに対して、各工種の対応付け(ラベル付け)を行った教師データが必要となる。

 工種を判定するためには、動画から抽出した静止画フレーム単位に画像認識を行うだけでは不十分である。例えば、穿孔・装薬に使用するドリルジャンボが映っている場合、前進している場合は作業の開始、後退している場合は終了というように、機械の動きを含めて判定する必要がある。そのため図-7に示すように、GUI(Graphical User Interface)を用いて動画の時間範囲を指定し、対応する工種のラベル付けを効率的に実施可能な教師データ作成ツールを開発した。

図-7 教師データ作成ツール画面

概要図

 教師データとして収集した映像、およびAIの判定結果はクラウドに保存されており、支援部署では判定結果の閲覧や修正が可能である。

 今回の開発では、図-8に示すように、映像データの収集、教師データの作成、判定結果の分析・評価、学習モデルの更新(再学習)をライフサイクルとして回すシステムを構築した。教師データの蓄積を進めると同時に、修正結果を反映した再学習を繰り返すことによって、AIの判定精度向上を行っている。

図-8 今回構築したAI活用のライフサイクル

取り扱うデータの概要とその活用法

  • ネットワークカメラの映像。
  • カメラは基本的に1台のみ使用。カメラの搭載位置(図-3)は施工の進捗にあわせて前進する。

 

導入への道のり

導入に当たり苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

  • AIの判定基準を構築するための教師データとして大量の動画が必要であり、それらの収集やラベル付けに苦労した。
  • 最終的には、教師データ作成ツールを開発することによって効率化が図れた。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

  • 共同開発者である㈱sMedioの「sMedio AI Solutions」を活用している。(sMedio社は、画像処理関連技術に定評があり、共同開発のパートナーとした)

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

  • 切羽の施工は、トンネルの大きさや掘り方によって使用機械の種類や動き方が異なるなど一様ではない。土木・建設工事では、同じ現場は2つとして存在しないことが製造業と大きく異なる点である。今後は様々な条件下でデータを収集し、あらゆる現場で精度良く工種判定が行えるシステムにする必要がある。そのために、2019年度から本システムを適用する工事現場を増やす予定である。
  • 今回開発したシステムによって、当初の目標通りの工種判定を実現できた。最終的な目標である施工自動化に向けては、判定精度向上や多様な現場に対応するための汎化性能の向上を含む、AI学習モデルの継続的な開発が必要である。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

  • AIを活用した技術の蓄積を進め、過酷な工事現場に人を入れず、例えばエアコンが効いた快適な坑外施設から遠隔で施工が行える環境を実現したい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

  • 現時点は既存工法を最適化・自動化するアプローチで開発を進めている。自動化を行うために工法自体を変えた方がよいことが分かった場合は、建設業界全体で標準化に取り組むことも考えられる。
  • 施工機械の制御などの自動化を検討するためにメーカーとの連携を進めている。

 

本記事へのお問い合わせ先

西松建設株式会社

技術研究所 三井 善孝

e-mail : yoshitaka_mitsui@nishimatsu.co.jp

URL : https://www.nishimatsu.co.jp/​