応用地質株式会社
- 事業・業務プロセスの改善
- 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
- 故障や異常の予兆の検知、予防
- 故障や異常への迅速な措置
- 故障や異常発生後の最適かつスムースな事業継続
【活用対象】
- 他企業とのアライアンス・コミュニティ内で活用
- 企業顧客
IoT導入のきっかけ、背景
当社は1957年の設立以来、大規模な土木構造物の地質調査に携わるトップ企業であり、地質調査用の各種探査装置、災害監視用の傾斜計、地震計及び水位計なども自社で開発している。近年はこの地質調査から発展し「インフラ・メンテナンス」「防災・減災」「環境」「資源・エネルギー」の4つのセグメントで、それぞれ調査、モニタリング及び分析並びにコンサルティング等幅広く事業展開している。
豪雨が発生した際に、崖崩れや土石流などの土砂災害によって住民の生命または身体に危害が生ずるおそれがあると認められる区域は、自治体によって土砂災害警戒区域(通称:イエローゾーン)および土砂災害特別警戒区域(通称:レッドゾーン)に指定されている(図-1を参照)。国内でイエローゾーンに指定されている区域は62万カ所強、レッドゾーンに指定されている区域は約49万カ所もある(令和2年3月末現在)。起伏が多い日本の国土では土砂災害の危険性は至るところに存在する。
豪雨による浸水や土砂災害が広域化、頻発化、激甚化している昨今、現場の状況を迅速かつ的確に把握することは非常に重要であり、信頼性の高い実データを取得できるセンサを可能な限り増やしていくことが必要である。そのためにはセンサ本体の機能強化及びコスト低減に加え、機器設置及び機器メンテナンス並びに収集したデータの情報化、他のデータや情報との統合による高度な判定処理及び可視化等、センサ運用に係るトータルのランニングコストをおさえた形で提供していくことが重要な課題である。
そこで、長年の地質調査、災害対応及び機器開発等で培った知見を、デバイス、データ、情報及びUX/UI等のレイヤで再整理し、IoT技術を積極的に取り入れ、様々なニーズに対応できる柔軟かつ拡張性の高いシステムを構築しご提供することに取り組んでいる。
図-1 土砂災害のイエローゾーンとレッドゾーン
(出所:応用地質提供資料)
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
・サービス名:ハザードマッピングセンサソリューション
・関連URL:
表層傾斜計(クリノポール)
https://www.oyo.co.jp/products_lists/clinopole/
https://www.oyo.co.jp/oyocms_hq/wp-content/uploads/2019/10/OYO_ClinoPole.pdf
冠水センサ(冠すいっち)
https://www.oyo.co.jp/products_lists/20642-2/
https://www.oyo.co.jp/oyocms_hq/wp-content/uploads/2021/06/OYO_Kanswitch.pdf
・主な導入先:自治体、高速道路管理会社、鉄道会社、研究機関 等
本ソリューションは、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)主催の、モバイルコンピューティングの導入により高度なシステムを構築し、顕著な成果を上げている企業や団体を表彰する「MCPC award 2020」サービス&ソリューション部門最優秀賞を受賞した。
サービスやビジネスモデルの概要
ハザードマッピングセンサソリューションは基本的に、センサ設置・保守、データ集約、危険度判定、アラート発信及び情報可視化のオールインワンサービスとなっており、センサから得られたデータをクラウド上で集約し、設置した箇所に応じた閾値設定で危険度を最大3段階で評価する。評価結果は、Webブラウザーによる一覧表示及び地図上の表示によって確認できる。加えて、危険度等が変化した際は予め登録されたメールアドレスに対するメールの自動配信が行われる。(図-2を参照)
センサには、0.001°の分解能で地面の傾斜の変化をキャッチする表層傾斜計(クリノポール)と、河川の氾濫を監視する冠水センサ(冠すいっち)がある。この2つのセンサデータに雨量などの気象データを加えることによって、斜面の崩落によって発生する土砂崩れ、増水によって発生する河川の氾濫、斜面と増水の複合的要因で発生する土石流(*1)の危険度を判定できる。
表層傾斜計の設置場所を決めるためには地形を読み解く高度なスキルが必要となる。例えば、傾斜が急激にきつくなる遷急点とそれを結んだ遷急線、水系や崖の存在などの様々な要素から判断する必要がある。当社には、こうした作業の熟練技術者が多数在籍しており、この知見をAI化することによってセンサ設置場所のスクリーニングを自動化している。表層傾斜計は山奥や急斜面に設置することが多いため、センサのファームウェア更新のために設置場所を訪れることは、コストに加えて危険を伴う。そのためセンサ情報を収集する低電力無線(LTE Cat.M1)のダウンリンクを利用したファームウェアの遠隔更新(FOTA)機能を実装している。
このように、AIやIoTの最新機能をフル活用することによって、設置や保守の省力化を行い、ソリューションに組み込んでいる。
本ソリューションはこれらにより、災害発生危険箇所を持つ自治体及び道路等の施設管理者に対し「危険箇所或いは災害現場二次被害監視」、「アラートによる初動迅速化」及び「危険度レベルを活用した総合リスク判断/避難判断/BCP」を提供する。また、研究機関に対しては「災害メカニズム等の研究」等に活用いただけるデータ及び情報を提供する。
図-2 サービスの概要
(出所:応用地質提供資料)
(*1) 土石流: 大雨がきっかけとなり、谷や斜面にたまった土砂が、雨による水と一緒に一気に流れ出して起こる災害で、流れの急な河川や、扇状地などで発生することが多い。そのため、土石流の発生を監視するためには、斜面に加えて周辺の河川水量の監視が必要となる。
内容詳細
(1)収集データ及び出力情報
表層傾斜計(クリノポール)及び冠水センサ(冠すいっち)にて収集されるデータから生成・提供される情報は以下の通りである。
■表層傾斜計(クリノポール)
- 収集データ:X、Y方向傾斜角度・温度
- 生成情報:斜面崩壊危険度(注意・警戒・警告等)
- 提供情報:メール自動発報、ダッシュボードによる状態一覧表示、地図による状態可視化、計測数値データ
■冠水センサ(冠すいっち)
- 収集データ:各接点(最大3)の検知状態
- 生成情報:冠水有無、水位危険度(注意・警戒・警告等)
- 提供情報:メール自動発報、ダッシュボードによる状態一覧表示、地図による状態可視化、計測数値データ
(2)センサにおけるエッジ処理
センサは可能な限り通信回数を少なくすることでバッテリー消費を抑制する仕組みとしている。ここでは表層傾斜計(クリノポール)の例を紹介する。
通常モードでは一定間隔(t1)で傾斜角度を測定するが、前回の測定値と比較してその差(時間当たりの変位量)がリスクを伴わない軽微な差である場合はセンサ内にデータを蓄積し、死活監視を兼ねた1回/1日の定期送信時にまとめてクラウド側にデータ送信する。
ここで、この変位量が予め設定されているデータ送信閾値(α1)を超えた場合は、その時点で蓄積されているデータも含めて即座にクラウド側へ送信される。更にその変位量がモード変更閾値(α2)を超えた場合は、リスクの上昇とみなし、計測間隔を上述“t1”より短い周期(t2)で実行し、かつ計測した時点で変位量にかかわらず全てクラウド側に送信する有事モードに自動変更される。これによりクラウド側ではよりリアルタイムに危険度の判定とアラートの発報は可能となる。
これらの設定パラメータ(α1、α2、t1,t2)は設置個所の特性や運用ポリシーなどによりセンサ個々に設定され、クラウドよりリモートで変更することが可能である。この運用により年間数回の高リスク状態が発生した場合でもバッテリーのみで5年程度の稼働が可能となっている。
(3)デバイス管理処理
クラウド側では上述のエッジ処理用パラメータのリモート変更機能に加え、デバイスの死活監視や、FOTAによるソフトウェア更新の管理機能を有している。
(4)データ管理処理
クラウド側では収集されたデータをエラークレンジングした上で様々な目的別アプリケーションでのデータ活用を可能とすべくDB蓄積とAPI整備を実施している。
(5)情報生成処理
収集されエラークレンジングされたデータをもとに当社のノウハウを活用し危険度判定を行っている。この危険度判定も設置個所の特性や運用ポリシーなどによりセンサ個々に設定することが可能である。
このレイヤにおいては当社の提供する危険度判定のみならず、顧客のニーズや基準に合った情報生成をユニットとして組み込むことが可能で、様々なカスタマイズや拡張が可能である。
(6)情報可視化処理
収集されたデータ及び危険度等の情報生成処理出力等は全てGIS(Geographic Information System:地理情報システム)データとして地図に表示するとともに各種グラフ・表などの形式でWEBブラウザーを通じで利用者に提供される。加えて、EUC(End-User Computing)用にCSV等の形式で出力することが可能である。
また、危険度等の状態変化の発生時は予め登録されたアドレスへメールの自動送信が行われるとともに、必要に応じてパトライト等の制御も可能である。図-3は当社内に設置されている運用監視モニタで、ご導入頂いている全ユーザの設置機器を一元的に管理している。
図-3 応用地質社内の運用監視モニタ
(出所:応用地質提供資料)
概要図
前述の通り、本ソリューションは基本的には一気通貫のオールインワンサービスではあるが、これを実現する仕組みとしては図-4に示す通りのレイヤ構造をとっており、各レイヤから他のシステムとの連携接続が可能なアーキテクチャとなっている。そのため、「別のシステムへデータを集約させる」或いは「既存の保有センサのデータを取り込む」等のニーズにも柔軟に対応が可能である。
図-4 システムのレイヤ構造
(出所:応用地質提供資料)
一例として、KDDI株式会社及びトヨタ自動車株式会社との3者協業で取り組んだ「自治体向け災害対策情報提供システム」では「情報活用レイヤ」をKDDI株式会社のシステムで実現することとし当社は「情報生成レイヤ」から直接KDDI株式会社のシステムに接続するPF間連携を行った。(図-5)
図-5 自治体向け災害対策情報提供システムの全体像
(出所:応用地質提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
■表層傾斜計(クリノポール)
- X、Y角度:バイナリデータ(分解能1/1000°)
- 斜面の変位状況の把握
- 温度 :バイナリデータ(分解能1/10°)
- 温度変化による地表面及びセンサ本体の膨張・収縮による誤差除去
■冠水センサ(冠すいっち)
- 接点状態 :バイナリデータ(ON/OFF)
- 冠水状態検知、水位変化検知
事業化への道のり
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
初期の企画段階から1年強でユーザ導入まで達成しているが、センサの精度及び機能とコストのバランス、マスプロ効果を出すための企画台数と需要見込み等、センサコストの低減は非常に苦労しており、現在も更なるコスト低減の対策を講じている。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
特段「最新技術」と呼べるようなものを導入したわけではなく、前述のとおりそれぞれのレイヤにおける課題に最適と考えられる一般的に十分な実績のある技術を活用している。その中で、システムアーキテクチャのレイヤ化によって既存資産を有効活用し、開発期間を短縮することができた。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
前述の通り、デバイスそのもののコスト低減は重要課題であるが、それに加えて、ソリューションの幅出しの為にはデータ管理レイヤでの取り扱うデータの拡充と自社ノウハウ・技術のデジタル化による情報生成レイヤのユニット充実が大きな課題である。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
前述の課題は自社単独の取り組みだけではQCD (*2)の全てにおいてアドバンテージが得られないことは明確である。よって既に推進中であるトヨタ及びKDDIとの協業、日立製作所との協業などの異業種企業とのアライアンスを通じたデータスケールの拡大と生成情報の高度化による新たな価値・サービスの創出を推進する。
(*2) QCD:Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)という製造業における重要な三要素のこと。
将来的に展開を検討したい分野、業種
当面は当社の強みを最大限に発揮でき、かつ「安心・安全」より1ランク上の価値を創造できるスマートシティー分野をターゲットとして異業種連携を模索中である。
関連記事
【ここに注目!IOT先進企業訪問記】第55回 センサを活用した予知防災・減災の実現をめざす応用地質
本記事へのお問い合わせ先
応用地質株式会社 情報企画本部 ITソリューション企画部 松井
e-mail : matsui-kyo@oyonet.oyo.co.jp