IoT導入のきっかけ、背景
当社は、IoTやICTを活用した災害対応・救急医療の支援システムを開発・提供するベンチャー企業である。2018年は西日本豪雨、北海道胆振東部地震が日本列島を襲い、災害に対する「日ごろの備え」が改めて問われた。災害への対応には次に示す三つの取り組みが必要である。自身や家族の生命・財産を自らが守る「自助」、地域で協力して取り組む「共助」、行政が取り組む「公助」である。
災害発生から一定の期間は、その地域の警察・消防に加え、住民が協力して初期消火や負傷者の救援にあたる必要がある。これが「共助」の領域である。その後、全国の警察・消防などにより組織された、大規模な支援が「公助」として開始される。ここでポイントとなるのは、震災時の生死の境目は発生から72時間と言われており、災害発生直後の「共助」は、多くの命を救うために重要であるということである。そのため当社は、ICTを活用して「共助」の支援ができないかと考えた。
災害時の「共助」を担うのは、地域のコミュニティに加えて、市町村レベルの自治体である。そのため自治体は、災害時に対策本部を立ち上げ、被害状況をいち早く把握し、警察・消防・病院などとの情報共有を行う。ここで効率的な情報共有のためのシステムの整備が必要となるが、自治体にとっては、システムが安価に導入・維持できることに加えて、平常時も有効活用できることが望ましい。なぜならば、日常的にシステムを活用することによって、いざというときの練度が増すことに加えて、投資を有効に活用できるためである。
当社は上記の課題を解決する手段として、「ドローンとICT」に着目した。ドローンはヘリコプターと比較して、空中からの俯瞰映像を格段に安価に、より機動性高く収集することができる情報収集のキラーツールである。当社は、ICTを活用して関係者がドローンの映像をリアルタイムに共有できるシステム「Hec-Eye(ヘックアイ)」を総務省の平成27年度補正予算「IoTサービス創出支援事業」の採択案件を通じて開発した。その後も改良を重ね、災害時だけでなく、地域のスポーツイベントや観光事業でも日常的に活用できるように機能を拡張し、自治体向けのサービスとして提供している。
IoT事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
サービス名:Hec-Eye(ヘックアイ)
Eec-Eyeの主な活用事例を以下に示す。
▼ICT地域活性化事例 100選(地方自治体のドローン活用事例とその未来像について)
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/local_support/ict/jirei/2017_012.html
▼防災用途(災害発生時におけるドローンの活用)
https://www.atpress.ne.jp/news/162106
▼救護支援(いびがわマラソン2017参加者の安全管理)
https://www.atpress.ne.jp/news/143366
▼観光用途(ドローン飛ばし放題サービス「南小国ドローン手形」)
https://www.atpress.ne.jp/news/168439
サービスやビジネスモデルの概要
ドローンは比較的安価に導入ができ、操作が容易、低空から俯瞰した高精細画像を撮影できるといった特徴がある。そのため、共助で必要となる地域単位の情報を得るためにはドローンが適している。
図-1に示す通りHec-Eyeでは、ドローンで撮影した映像をスマートフォン経由でクラウドにアップロードし、クラウドを介して複数の関係者がリアルタイムに共有することができる。
図-1 Hec-Eyeの概要
画像に加えて、Hec-Eyeは、ドローンの位置(航跡)とパイロットの位置、現地スタッフの位置などを収集し、地図上に表示することが可能である(図-2を参照)。これによって、対策本部が迅速かつ正確な状況把握を行い、関係部署や現場とのコミュニケーションを円滑に行うことができる。従来は、災害時に現場から無線や電話などで時々刻々と報告される情報を対策本部の担当者が整理して関係部署に伝達する必要があった。しかし、Hec-Eyeを活用すれば地図画面上にドローンからの映像、ドローンの位置、パイロットや現地スタッフの位置など必要な情報がリアルタイム、かつ、自動的に集約され、この情報を対策本部と関係部署などで見ることができるため、情報共有が効率的に行えるのである。
図-2 Hec-Eyeによる画像と位置情報の共有
ビジネスやサービスの内容詳細
Hec-Eyeの活用事例を、災害などの緊急時と、平常時に分けて紹介する。
緊急時の活用事例(実証実験)
以下に示すように、様々な災害シーンを想定した実証実験を行っている。
(1) Hec-EyeをUTMと連携し、ドローンを活用した災害対応の実証
2017年10月に、一般社団法人救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会(EDAC *1)と共同で、一般財団法人総合研究奨励会日本無人機運行管理コンソーシアム(JUTM *2)が主催する、南相馬市と浪江町での、ドローンを複数台運用した物流運搬、災害時の行方不明者の捜索などの一連の実証実験を実施した。
本実証では、楽天AirMapが提供するUTM(Unmanned Traffic Management:無人航空機管制)と連携して複数台のドローンを同時に運用し、飛行空域での安全を確保しながら津波などの災害発生直後を想定して要救助者を捜索する実証に成功した。
*1 EDAC: Emergency medical and Disaster coping Automated drones support system utilization promotion Council
*2 JUTM: Japan Unmanned System Traffic & Radio Management Consortium
(2) 「災害発生時におけるドローンの活用」をテーマとしたドローン産業研修
2018年8月に、大分県ドローン協議会、EDAC、株式会社オーイーシー(OEC)と共同で、大地震による津波の被害を想定した、Hec-Eye多地点中継による捜索・指揮活動の研修を実施した。
図-2に示すように、ドローン2機とスマートフォン1台で撮影した、河川の氾濫、洪水被害、土砂崩れの状況を一つの地図に集約し、市役所と消防本部などの7拠点が同時に情報を共有した(写真-3を参照)。
写真-3 複数拠点での情報共有のイメージ
(3) Hec-Eyeを用いて酪農学園大学が林野火災対応訓練に参加
2018年5月に、北海道立自然公園 野幌森林公園(2053ha)を森林火災から守るため、公園に隣接する三市が合同で実施している「三市合同林野火災対応訓練」に、酪農学園大学が参加。その際Hec-Heyを用いて、ドローンによる活動状況の監視、要救助者の探索、指揮車内のPCから救助隊員の位置情報を確認する訓練を実施した(写真-4を参照)。
写真-4 救助の演習(左)と指揮車に設置したPC(右)
平常時の活用事例
Hec-Eyeは災害時のみならず、以下に示すような平常時にも有効に活用することができる。
(1)ドローンと救護チームの連携により、いびがわマラソン2017参加者の安全管理を実施
2017年11月に行われた第30回いびがわマラソンにおいて、EDACと共同、いびがわマラソン救護チーム(岐阜大学医学部附属病院)と協力し、ドローンによる空撮映像を用いた安全管理システムを提供・運用した。本事例では、ドローンからの映像に加えて、救護班の配置状況をリアルタイムに監視した。
マラソンは競技区間が長く、救護班の配置がランナーの移動に伴い時々刻々と変わる。救護班がどこにいるのかをリアルタイムに把握するのは手間暇のかかる作業であった。Hec-Eyeを使用すると、この作業が自動化され、しかも救護班の位置を地図上で把握することができるので、体調不良者が出た際に最も近い場所にいる救護班に指示を出すことができる。(このような情報収集に基づく判断は、災害時の救護活動にも通じるため、日ごろの練度向上手法として有効である。
(2) 熊本県南小国町と「ドローンを活用したまちづくりに関する協定書」に合意
2017年8月に、EDAC、熊本県阿蘇郡南小国町と「ドローンを活用したまちづくりに関する協定書」について合意した。本協定では、高齢化や過疎化、社会インフラの老朽化といった課題を見据え、ドローンの災害等の有事への活用はもちろん、日常の様々な産業へ活用及び実証実験等を行う。
その一環として、ドローンを使用した南小国町の紹介ビデオを作成している。このように、観光面での活用も可能である。
(3) 日常的な見回りの軽減
農地の鳥獣害の発生状況など、日常的に圃場や山林に出向いての見回りが必要なケースにもHec-Eyeが活用できる。Hec-Eyeはドローンからの空撮映像に加えて、固定点に設置した監視カメラの画像にも対応している。監視カメラや各種センサーの情報をHec-Heyで集約・遠隔監視することによって、肉体的な負荷が大きい見回り作業を軽減できるのである。
取り扱うデータの概要とその活用法
Hec-Eyeでは、以下の情報を取得して地図上に表示する。
- ドローンの空撮映像、位置情報、高度、経路
- 現地スタッフが所持するスマートフォンで取得した画像や位置情報
- 監視カメラの映像等
事業化への道のり
事業化に当たり苦労した点、解決したハードル、開発・提供までにかかった期間
市販のドローンは、ドローンとパイロットが持つプロポ(コントローラ)間でしか通信ができない。加えて、現状は電波法によりドローンから直接4Gの電波を飛ばせないため、カメラ映像などはプロポ経由で情報を取り出し、パイロットのスマートフォンなどを経由してクラウドに送信できるようにする必要があった。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
ドローンから画像データなどを、効率的に取り出す技術開発が必要だった。さらに、ドローンメーカー毎に異なる情報取得インタフェースに対応する必要があった。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題
- 現状は航空法により、災害時にヘリコプターが出動している空域はドローンの飛行が規制されている。災害時のドローンの飛行を柔軟に行うために、飛行禁止時間帯をより細かく管理するなどの規制緩和が望まれる。
- 現在はコントローラから取り出した情報を、モバイル通信を使用してクラウドに送信している。今後は、モバイル通信がないエリアへの対応を行いたい。
- 鳥獣害対応などで、ドローン以外のIoTデバイスとの連携を進めたい。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
- Hec-Eyeがサポートするドローンとセンサーデバイスをさらに増やしたい。
- 収集したデータを目的別に、クラウドとエッジにおいてAIを使用して処理できるようにしたい。AIを活用することによって、使い勝手の向上や新たな価値を提供したいと考えている。また、AIのエンジン部分に関しては他社との協業も考慮したい。
将来的に展開を(他企業との連携を含め)検討したい分野、業種
- 今後、屋外作業のIT化が進む領域、例えば、土木・建築、農業、林業との連携を進めたい。
- 自治体とのパイプをさらに強化していきたい。
- 緊急医療の領域でも医療機関との連携をさらに進めたい。