掲載日 2020年08月04日

株式会社 Ridge-i

【提供目的】
  • 事業・業務の見える化
  • 事業・業務プロセスの改善
  • 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
  • 故障や異常の予兆の検知、予防
  • 故障や異常への迅速な措置
  • 経営判断の迅速化・精密化

【活用対象】

  • 企業顧客
  • その他(自治体)

IoT導入のきっかけ、背景

 当社は「社会課題・顧客課題を先端技術を活用して解決し、新しい社会・ビジネスを創造する」ことをミッションとして、2016年の創業以来ビジネスニーズに最適なAIソリューションを提供するベンチャー企業である。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行は本稿執筆時点でも依然として続いており、あらゆる社会活動に大きな影響を及ぼしている。そのため、人が集まるオフィス・飲食店・宿泊施設・イベント施設などを抱える事業者や自治体などでは、感染予防と事業を両立するための模索が続いている。

 こうした中、緊急事態宣言下の2020年4月に、この状況下でこそ、社会課題を解決するという当社のミッションに従いアクションを起こすべきと考えた。そこで、先ずは創業者社長の柳原尚史とCRO (最高研究責任者)の牛久祥孝の2名が4月16日に打ち合わせを行い、当社の技術をCOVID-19対策に活用すべく以下のソリューション案を固めた。

  1. 街角の混雑具合や自粛・解放の効果測定向けの「群衆カウンティング」
  2. オフィス、商業施設向けの「超高精度距離推定・密接度推定(密接アラート機能)」
  3. 自宅でAIに関する基礎知識を学べる「無料のAI基礎講座」の配信

 その翌日にリサーチエンジニアを加えてアーキテクチャーを固め、社内の有志を募って一気に開発を進めた結果、5月1日に、1と2を「COVID-19対策 映像解析AIソリューション」としてリリース、3はAI基礎学習講座(10講座)として当社のYouTubeチャンネルで無料配信を開始するという超短期開発を実現した。「COVID-19対策 映像解析AIソリューション」については柔軟なカスタマイズも可能となっており、多くの現場での活用とフィードバックをいただきたいと考えている。
 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

名称:COVID-19対策 映像解析AIソリューション

URL:https://ridge-i.com/project/covid/

 

サービスやビジネスモデルの概要

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策として、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保と密集・密接の回避が有効である。

 本ソリューションでは、ネットワークカメラ画像を、AIを活用し解析することによって、駅前やイベント施設などの人流や人数をリアルタイム解析(群衆カウンティング)、オフィス・商業施設などの屋内で人と人との間の距離を計測し、適切な距離が取れていない場合にほぼリアルタイムにアラートを発する(密接アラート)機能などを提供している。

 本ソリューションの導入は、既設のネットワークカメラを利用し、かつそのネットワークカメラからIPネットワークへのストリーミングが可能な場合は、最短で2日、月額2万円(税抜き)からの導入が可能となっている。

 

内容詳細

 本ソリューションは、当社が創業以来蓄積してきた、群衆カウンティング、人物・物体トラッキング、人の姿勢推定などのディープラーニング(深層学習)を用いた画像解析の要素技術を組み合わせることによって、わずか2週間という短期間での開発が可能となった。

 ここで、当社の開発に関するポリシーを紹介する。当社では、お客様の課題を解決するにあたって、従来のシステム開発とディープラーニングをはじめとした先端のAI技術を組み合わせることによって、ビジネスニーズに最適化したソリューションを提供している(図-1を参照)。

 従来システムではエラーがない厳密解を得ることができるが、例えば複雑な画像認識をルールのみで記述することは困難であり、今や自動で特微量を捉え正解データを導き出すディープラーニングの方が最適な手法であると言える。そのため、当社では従来システムのよさと、その一方で従来システムでは解けなかった部分を見定めた上で、ディープラーニングをはじめとした先端技術で解くべき課題を決めている。この考え方は、要素技術開発のターゲットを選定する際にも生かされている。

 

図-1 従来システムとAIの関係
(出所:Ridge-i提供資料)

 

 以下にCOVID-19対策映像解析AIソリューションの詳細を示す。

(1)  群衆カウンティング・密集度解析AI

 群衆カウンティングでは、写真-1に示すように人の形が明確に識別できず、重なりがあり、かつ車などの人以外の物も行き交う画像からリアルタイムに人数を測定することができる。(リンクの動画1も合わせて参照

 屋外の密集度の測定方法として、携帯電話のネットワークを利用したモバイル空間統計がある。モバイル空間統計ではメッシュ単位の人口を推計できるが、メッシュが比較的荒いため地域単位の人出の推定に使われることが多い。また、当然の事ながら携帯電話を有していない人はカウントされない。群衆カウンティングでは、より狭い範囲の人数を正確にカウントすることができ、携帯電話のネットワークが不安定な室内においても実装が可能である。

写真-1 群衆カウンティングの解析例
写真-1 群衆カウンティングの解析例
(出所:Ridge-i提供資料)
 

(1)  超高精度距離推定・密接度推定(密接アラート機能)

 会議室などの屋内で人と人の距離を正確に測定し、ソーシャルディスタンス推奨距離以上の距離が取れているか否か、また密が発生していないかどうかを検出するのは難しい。同じ場所にいる人同士がスマートフォンのGPSを使った位置測位を行うことで相対距離を測ることができるが、GPS電波が受信できない室内ではこの方法は使えない。加えて精度の課題もある。

 そこでネットワークカメラ画像を当社の姿勢推定・人物を検出するAIで処理することによって、 人と人の距離を正確に測定する技術を開発した。(図-2を参照。リンクの動画2もあわせて参照

 図-2の人物上の緑の”・”マークがAIが検出した関節である。この推定結果を基に人物の足の位置を算出し、人と人との距離を正確に計測し、一定距離以下(距離は自由に設定可能)に接近すると音を発したり、UIを赤く表示するなどリアルタイムで警告を行う。同時に、接近した人を記録することもできる(図-2のPeople at Risk画面)。

図-2 姿勢推定による距離の測定
図-2 姿勢推定による距離の測定
(出所:Ridge-i YouTubeチャンネルの動画から抜粋)
 

 さらにこのソリューションでは、カメラの画像から同一人物を自動的に抽出して移動のトラッキングを行うことができる。図-3に示すように、カメラが捉えた人物に、事前の登録なしで自動的にID番号を割り振り、上着を脱ぐ、マスクを取るなどを行っても同一人物としてトラッキングする。(リンクの動画3もあわせて参照)。

 この機能によって、もし感染者が発生した場合、感染者のカメラ内での移動経路や接触者を特定することが可能となる。また、顔部分のマスキングを行うなどのプライバシーへの配慮も可能となっている。

 同一人物の追跡は、先に示した姿勢推定に加えて、歩き方、顔、服装などの個人属性の検出などの、当社が独自開発した複数のAIで実現している。

図-3 同一人物のトラッキング

図-3 同一人物のトラッキング
(出所:Ridge-i提供資料)

取り扱うデータの概要とその活用法

 本ソリューションで使用しているデータは、動画・静止画を含むカメラ画像である。

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 当社はこれまで、お客様の課題解決を中心としたB2Bソリューションを提供してきた。今回の「COVID-19対策映像解析AIソリューション」は、初めてのプロダクトとして提供した。AIについて、このような社会課題においても活用できるということを多くの方に知っていただく機会になったと思う。

 従来のB2BソリューションでもPoCの谷を乗り越えるための苦労がある。その際当社は、お客様が従来システムを使って課題を解決しようとされた場合は、そのプロセスも含めて顧客課題を理解し、従来のシステム開発とディープラーニングをはじめとした先端技術とのベストミックスを提案し、投資対効果が実感できるソリューションを提供することにより、PoCの谷を超えて、実用化への導入につなげてきた。今回、当社として初めてのプロダクト提供であったため従来と異なる面では苦労した。

 

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 本ソリューションでは以下の要素技術を活用している。全て当社が独自に研究し開発した技術である。当社は、優れた研究論文は開発の際に参照しているが、学習モデルやアルゴリズムには既存コードを使わず独自の開発を行っている。

  • 姿勢推定ディープラーニング(独自手法であり、2020/6時点の公開ベンチマークでトップの性能を達成。後日公開予定)
  • 人物検出ディープラーニング(遮蔽や重なりにも精度が高い、特別なもの)
  • 人物属性分類ディープラーニング
  • 人物・物体トラッキング技術
  • 高速・安定したビデオストリーミング処理
  • 群衆カウント ディープラーニング

 これらの独自開発技術を組み合わせてチューニングを施すことによって、短期間で「COVID-19対策 映像解析AIソリューション」という形に仕立ててリリースすることができた。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 当社のソリューションを多くのユーザーに使っていただき、フィードバックを貰うループをどれだけ柔軟に回すかが重要と考えている。そのために、今回の「COVID-19対策 映像解析AIソリューション」は導入しやすい価格を設定した。

 

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 今回提供した「COVID-19対策 映像解析AIソリューション」では、直近の課題対策として、密の回避、見える化、群衆の人流統計を実現した。さらに今後は、ウィズコロナ、アフターコロナを見据えた中長期的なニーズに対応するために、密が起きやすい作業現場・職場での無人化や省人化につながる、フルリモート前提の遠隔操作や人手を介さない作業支援・判断支援のソリューションを提供していきたい。

 

将来的に展開を検討したい分野、業種

 当社の技術力のみで課題を解決するのではなく、当社とは別の領域で技術的な強みや販売力の強みを持つ企業と協業することで、イノベーションのスピードを加速することが可能となる、もしくは従来は解決できなかったことが可能となるシナジーが生まれる企業との提携や共創を行いたい。

 また、これまでは人間の視覚にあたるディープラーニングを活用した画像解析技術を中心にソリューションとして提供してきたが、今後はそこに聴覚や触覚を加えていくフェーズになると考えている。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社 Ridge-i ビジネスストラクチャリング

e-mail : contact@ridge-i.com