掲載日 2022年02月14日

株式会社YEデジタル

【提供目的】
  • コスト削減
  • 事業・業務プロセスの改善
  • 収集情報を活用した付加顧客サービス提供
  • 顧客へのサービス対応・サービス品質向上
  • 新たな顧客層の開拓、マーケティング

【活用対象】

  • 他企業とのアライアンス・コミュニティ内で活用
  • 企業顧客
  • その他(自治体のバス)

IoT導入のきっかけ、背景

 株式会社YEデジタル(本社:福岡県北九州市、以下当社)は、産業用ロボットのリーディングカンパニーである株式会社安川電機から分離独立したIT会社として1978年に創業し、さまざまな製造業のお客様のもとで養った基幹事業に加えて、IoTソリューションやサービスビジネス、ビジネスソリューションを新たな中核事業として推進している。

 バスは地域の交通に欠くことができないエッセンシャルサービスであるが、バス会社を取り巻く環境は、マイカー利用の増加によって、公共交通の利用者が減少するなどの変化にさらされている。加えて、コロナ禍による外出機会の減少がバス会社の経営に大きな打撃を与えた。当社が本社を置く九州では、アジア圏からのリピート観光客のバス利用が多いため、外国人観光客がほぼなくなったこともバス会社の経営に大きな影響を与えている。

 従来バス会社は、乗降者数の変化に合わせたダイヤ改正を定期的に行い、輸送資源を適切に再配分することによって収益の維持・向上を図っているが、こうした急激な環境変化に対応するためには、よりフレキシブルでダイナミックなダイヤ改正が求められている。

 ダイヤ改正の範囲は特定の路線ではなく全体におよぶため、改正の際は全路線のバス停に掲載してある時刻表を、ダイヤ改正日の深夜に一括更新する必要がある。そのために、人がバス停を巡回して紙の時刻表を一晩で張り替えるという作業を行っている。加えて、バス停ごとに新しい時刻表を準備する作業も必要である。その数は、規模が大きいバス会社では数千のオーダーになる。このように、ダイヤ改正は多大なマンパワーを要する作業であるため、旅客需要の変動に応じたダイヤ改正を行うことが困難であった。

 こうした中、当社と同じ福岡県でバス事業を運営している西日本鉄道株式会社のグループ会社である西鉄エム・テック株式会社と共同で、当社のIoT技術を活用したスマートバス停を開発し、時刻表更新の課題解決に加えてバス利用者の利便性向上や新たなビジネス機会の創出を実現した。
 

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

・サービス名: スマートバス停クラウド MMsmartBusStop
・関連URL: https://www.ye-digital.com/jp/product/iotm2m/mmsmartbusstop/
・導入先: 全国のバス会社(上記関連URLを参照)、自治体

 本サービスは、一般社団法人ASP・SaaS・AI・IoTクラウド産業協会(ASPIC)の「第15回 ASPIC IoT・AI・クラウドアワード2021」において、「総務大臣賞」と社会業界特化系ASP・SaaS部門の「総合グランプリ」を受賞した。
 

サービスやビジネスモデルの概要

 スマートバス停クラウドMMsmartBusStopは、バス停に掲載している紙の時刻表、路線図やお知らせをディスプレイ表示に置き換え、クラウドから一括配信するサービスである。さらにクラウドサービスの柔軟性を生かして、以下に示すサービスの広がりと三方よしを実現している。(図-1、図-2を参照)

  • バス利用者の利便性向上
    • 時刻表の見やすさの向上(現時刻の時間帯を拡大、多言語化)
    • バスロケーションや運休情報のタイムリーな表示
    •  ニュース、天気予報などの待ち時間を有効に活用できる情報配信
  • バス事業者の業務効率化と働き方改革
    • イベントや乗降者数に合わせたダイナミックなダイヤ改正の実現
    • 深夜にかけて時刻表の張り替えを行う作業をなくすことによる働き方改革
  • MaaS(Mobility-as-a-Service)を見据えた異なる事業者との連携
    • 異なる交通機関への乗り換え案内(航空便のフライト情報など)
    • 異業種メーカーと連携したコラボバス停(自動販売機一体型スマートバス停など)
    • 広告の配信

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図-1 スマートバス停への時刻表等の表示例
(出所:YEデジタル提供資料)

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図-2 スマートバス停の世界感
(出所:YEデジタル提供資料)

内容詳細

 スマートバス停がもたらすイノベーション効果を以下に記載する。

(1) ダイヤ改正日の時刻表更新の効率化

 本サービスの導入先である西鉄グループでは、福岡県内で約12,000停(6,000箇所上下線で2倍)のバス停を有している。これらのバス停に対して、年2回のダイヤ改正に伴う時刻表の張り替えと、年間10数回のお知らせの掲示が必要で、その都度マンパワーをかけて夜間の一斉作業を行っていた(写真-1を参照)。

 スマートバス停を導入することによって、クラウドから時刻表やお知らせの更新を自動的に行うことができる。これによって、人手と時間がかかり、かつ、場合によっては危険を伴う深夜の路上作業から解放し、安全管理や乗務記録管理などの本来業務に集中できる働き方改革が実現できる。

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写真-1 スマートバス停導入前のダイヤ改正作業
(出所:YEデジタル提供資料)

(2) ディスプレイのメリットを生かした見やすい表示

 従来の紙の時刻表は文字が小さく読みづらい。スマートバス停では現時刻の時間帯を拡大表示することによって見やすい表示を実現した(写真-2を参照)。また、平日は平日ダイヤを大きく表示し休日ダイヤを小さくする(もしくは表示しない)ことによって表示領域を有効に使うことができる。

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写真-2 ディスプレイのメリットを生かした見やすい表示
(出所:YEデジタル提供資料)

(3) 異なる交通機関への乗り換え案内

 空港行きのバスに乗る際、バスの時刻に加えて、自分が乗る飛行機のフライトに遅延がないかが気になることが多い。バス停にバスの時刻表と合わせてフライト情報が表示されていると一目で確認ができ便利である。スマートバス停では、クラウド上で異なる交通機関の時刻表や運航状況を配信できるため、バス停にフライト情報などの乗り換え案内も表示することができる。(写真-3を参照)

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写真-3  航空情報を統合したバス停の例
(出所:YEデジタル提供資料)

(4) 異業種とのコラボレーション

 スマートバス停の導入台数を増やしてそのメリットを生かすためには、バス会社の導入コストの軽減が重要である。そのために、従来にない新たなバス停の姿として、さまざまなコラボレーションを実現している。その一つが、自動販売機やクリーニング対応ロッカーなどとスマートバス停を一体化した事業共創コラボスマートバス停である。(写真-4を参照)

 加えて、バス停に広告を表示することも可能である。道路脇や歩道に物を設置することは厳しく制限されているため、合法的に設置許可を受けているバス停は広告媒体としての価値が高い。
 

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写真-4  事業共創コラボスマートバス停の例
(出所:YEデジタル提供資料)

(5) さまざまな設置形態に対応したラインアップ展開

 屋外に設置するスマートバス停は電源の確保が課題になる。そのため、ソーラーパネルや一次電池を使用することで商用電源が不要な「郊外モデル」や「楽々モデル」を提供している。駅前などで既に商用電源が確保されている立地には、大型LCDディスプレイを備えた「繁華街モデル」や「市街地モデル」を提供している。(図-3を参照)

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図-3 スマートバス停のラインアップ
(出所:YEデジタル提供資料)

概要図

 スマートバス停のクラウドサービスイメージを図-4に示す。MMsmartBusStopはクラウドサービスとして構築されており、サービスを利用するバス事業者や広告代理店単位にアカウントを発行する。利用者は自社の拠点からこのクラウドサービスにアクセスして、時刻表の更新などのさまざまな業務を行うことができる。(図-4を参照)

 バス事業者が持つダイヤ編成システムは、バス事業者と経路検索サービスなどの情報利用者との情報の受け渡しのために国土交通省が標準化を進めたGTFS-JP形式で時刻表データをエクスポートできることが一般的になっている。このGTFS-JP形式のデータをスマートバス停のクラウドシステムのDBにインポートし、バス事業者がコンテンツ管理機能を使用して時刻表の一括更新を行うことが可能となっている。

 広告に関しても、広告代理店向け機能を使用してコンテンツの登録や表示の設定を行うことができる。

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図-4 スマートバス停のクラウドサービスイメージ
(出所:YEデジタル提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

  • 時刻表データ(GTFS-JP)
  • 路線図
  • 運賃表
  • ニュース、お知らせなどのバス事業者が配信する付加情報
  • バスロケーション情報、フライト情報(外部システムとの連携)
  • 広告データ
  • スマートバス停の稼働データ、など

 

事業化への道のり

苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 屋外設置が必要なスマートバス停のハードウェア開発では、防水・防塵対策、夏の炎天下での温度上昇対策、日中屋外でもはっきり見えるLCDディスプレイの高輝度化、低消費電力化などさまざまな対応が必要であった。ハードウェア面での対応に加えて、クラウドからの温度や消費電力の監視など、安定運用に必要な機能を備えている。

 駅前に設置したスマートバス停は広告媒体として最適である一方で、駅前などは景観条例によって広告が規制されており、当初は広告を出すことができなかった。そのため、自治体との折衝を行い、市民生活の向上に資する情報提供基盤の維持費用を広告で充当することについて、規制の対象外とする条例改正をしていただくことで広告の実現にこぎつけた。
 

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

  • 当社が保有するIoTの技術を活用した。
  • 西鉄グループから時刻表更新を効率化したいというニーズを頂いた際にすぐにPoC(概念検証)を始められたのは、MMCloudというIoTプラットフォーム持っていたためであった。PoCが進み、最終的にはお客様であった西鉄エム・テックと共同開発の形で事業化することができた。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題

 国内に50万基以上あると言われる路線バスのバス停のうち、約80%(YEデジタル調べ)には電源供給がされていない。バス停時刻表の張り替え業務削減を行うためには、これらの無給電バス停のスマート化が必要である。そのためには、稼働に必要な電力を太陽光発電や乾電池などで自給自足できるオフグリッド対応のスマートバス停「郊外モデル」「楽々モデル」の導入拡大に向けたビジネスモデルの検討が課題である。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

  • 国や自治体の災害情報システムと連携して、災害情報を即座にスマートバス停に表示できる仕組みなどを検討したい。
  • 上記のような役立つ情報の提供に加えて、バス停に足を運んで頂けるように、バス停をより楽しく使っていただけるコンテンツの表示や仕組みの検討をしたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 大手デベロッパーなどと、魅力的な街づくりやスマートシティの実現に向けた取り組みの中でスマートバス停を展開したい。

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e-mail : press@ye-digital.com