上士幌町役場
- ICT等を活用した社会課題解決の取り組み
- ICT等を活用した実証実験等の取り組み
【関連する技術、仕組み、概念】
- ビッグデータ
- DX
- 4G
【利活用分野】
- 運輸・交通
【利活用の主な目的・効果】
- 生産性向上、業務改善
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
- 事業継続性向上
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
上士幌町(かみしほろちょう)は、北海道十勝管内の北部に位置し(図1参照)、人口5,000人に対して行政面積は東京23区よりも大きい約700平方キロメートルを抱え、総面積の約76%を森林が占める緑豊かな町である。基幹産業は畑作、酪農、林業などで、特に乳牛の飼育頭数は約4万頭おり、全国トップクラスとなっている。観光に目を向ければ、ぬかびら源泉郷や公共牧場として日本一広いナイタイ高原牧場、北海道遺産にも選定された旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群などが有名である。
上士幌町では、域内公共交通の不在が地方創生実現の足かせとなっていた。高齢者人口の増加に伴い、自動車運転免許証の返納が増加しており、免許返納後の移動手段の受け⽫の確保が重要となっている。そうした中、町では全世代の人が生き生きと暮らす「生涯活躍のまち」の実現に向け、外出の機会を創出するため福祉バスのデマンド化を進め、事前予約式にするなど空き時間を可視化するとともに沿線住民の利用拡大を図っている。
予約システムではUI(ユーザインタフェース)設計にもこだわり、高齢者でも使いやすいものを提供するなどICTを積極的に活用している。こうした取り組みにより図2にあるように福祉バスの運行回数、稼働時間の大幅削減を実現する中で、利用者数を増加させ効率化を実現している。運行を効率化しただけでなく、空き時間に貨物の配送をするなどさらに効率化をあげている。また、福祉バスの自動運転、ドローンによる配送の実証実験にも積極的に取り組んでいる。
図1 北海道上士幌町
(出所:上士幌町役場提供資料)
図2 福祉バスデマンド化の利用実績
(出所:上士幌町役場提供資料)
実証事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
『生涯活躍のまち上士幌MaaSプロジェクト』
関連URL:https://www.maas.co.jp/news/release20190920/
『自動運転バス定期運行』
関連URL:https://www.kamishihoro.jp/sp/self_driving_bus
サービスやビジネスモデルの概要
従来の定められた時間に定められた路線を走る定時定路線の福祉バスをデマンド化し、自宅前までの送迎などによって外出機会の創出を図っている(図3の左側参照)。デマンドバスは、タブレットにより予約するシステムとなっている。UI設計においては、高齢者が使いやすいようにこだわって開発している(図3の右側参照)。こうした予約システムを動作させるシステムについては、極力ランニングコストがかからないように内製化も行っている。
また、オンデマンド運行や貨客混載を取り入れるなど、多様なニーズに合わせた移動を可能としている。現在は、自動運転レベル4の社会実装に向け、事業性&技術面&社会受容面の課題解決に取り組んでいる。
図3 福祉バスデマンド化の概要
(出所:上士幌町役場提供資料)
福祉バスの有効利用にも取り組んでいる。空き時間に貨物を配送することで、域内における人・モノの移動を最適化する実証である。図4にあるように前日に福祉バスの予約が入っていない時間帯を確認し、空き時間に配送を実施している。
さらに市街地は陸送、農村部はドローンの空送などと、輸送手段をミックスすることで地域物流の最適化を目指している。(図5参照)
図4 福祉バスの活用
(出所:上士幌町役場提供資料)
図5ドローンを活用した配送概要
(出所:上士幌町役場提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
次のデータを取り扱っている。
・荷物情報(TMS)
・移動の予約状況
他の事業者のシステムとの連携など、これらのデータを活用した連携は今後の課題となっている。
事例の特徴・工夫点
価値創造
福祉バスのデマンド化においては、運用コストを低減しながら「90歳のおじいちゃんでもネット予約が出来る仕組み」を開発し、高齢者の利便性向上を実現することができた。また、遠隔地の物流にドローンを活用することで、市街地のトラック物流の大幅効率化を実現できることを確認できた。
苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間
UIの開発には、非常に苦労をした。開発側がすごく良いUIで高齢者でも簡単に使えると考えたものでも、実際は駄目だということが何回もあった。例えば、指が乾いていてタブレットにタッチしても反応しないなどである。このケースではタッチペンの利用で解決した。デマンド福祉バスの到着予定時間には幅があるので、実際の到着を知らせる方法についても議論があった。LINEなどのICT利用ではなく、クラクションを鳴らすだけで良いという意見がありそれを採用した。地域おこし協力隊注1という制度も活用して、高齢者の使いやすいものに落とし込む作業に時間をかけて取り組んだ。
また、まちづくり会社に常設の相談窓口を設けて、タブレットやスマホの相談窓口としている。
その他、自動運転の障害となるマップを作成したが、除雪作業などで想定しない場所に雪が積まれてしまうとそれがマップに記載されていない障害となる。このため、国や道などと雪を積む場所を調整するなどの交渉が必要であった。
注1:地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組
重要成功要因
UIの使い勝手を良くするために、地域おこし協力隊が高齢者一人ひとりを訪問するのは大変なので、高齢者のサークル活動が行われている集会所を訪問し、説明をして一緒に操作を行った。このような場では、ICTが得意な高齢者の方が苦手な方に操作を教えてあげるなど高齢者間の協力関係が生まれることもあり、より多くの意見や要望を引きですことができた。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
ランニングコストを抑えるために、最短経路をAIで探索するシステムは内製化した。
今後の展開
現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦
自動運転では、国産メーカの自動運転バスで適当な製品がなく、現在は、フランス製の車両を使用している。また、今後は中国製の車両を使用することも検討している。現状は、メーカごとにシステムが違い、例えば自動運転に必要な障害となる場所を示すマップなどの作成に時間と手間がかかるが、せっかく作成しても車種が違うと使用できないことがある。これについては、システムを共通化してほしいと考えている。
ドローンも国産のものはまだ価格が高く、バッテリーも高額である。バッテリーは他のシステムなどでも共通に使用できると便利だと考えている。
技術革新や環境整備への期待
運用コストが低減できるように、法規制やメーカ間のシステム仕様の共通化を期待している。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
上士幌町での取り組みを理解してもらい、データ連携基盤「かみしほろルーラルOS」注2に物流事業者、交通事業者の方に入ってもらうことでモビリティシステム間の連携を拡大していきたい。
注2:「かみしほろルーラルOS 」は 、町の取り組みや限られたリソースをひと繋ぎにし、町内の交通・移動データや施設利用の予約情報が共有されるデータ連携基盤
将来的に展開を検討したい分野、業種
ドローンを使用した実証実験では、山梨県の小菅村からの遠隔操作を行っている。ICT技術を使うと全国どこの自治体とも連携が可能となるので、広域連携で仲間を増やしていきたい。また、多くのステークホルダー間でのコンセンサス形成が必要になるが、自動走行できる範囲を上士幌町域内だけでなく帯広まで拡大したい。
本記事へのお問い合わせ先
上士幌町役場 デジタル推進課
URL: https://www.kamishihoro.jp/
e-mail : ict@town.kamishihoro.hokkaido.jp