京セラコミュニケーションシステム株式会社
- IoT等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
- その他(図書館、書店、出版)
【関連する技術、仕組み、概念】
- IoT、AI、DX
【IoT等の利活用分野】
- 自治体、図書館、書店、出版
【IoT等の利活用の主な目的・効果】
- 生産性向上、業務改善
- サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
- 事業の全体最適化
課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)
京セラコミュニケーションシステム株式会社(以下、当社)は、1995年に京セラ株式会社より分離独立し、情報システム企業として事業を開始した。現在では、「ICT」「エンジニアリング(通信・環境エネルギー)」「経営コンサルティング」の分野において事業を展開している。(図1参照)
図1:事業分野(出所:京セラコミュニケーションシステム提供資料)
図書館の蔵書を点検する蔵書点検は図書館の重要な業務のひとつであるが、図書館運営の大きな負担になっている。図書館を一定期間休館にし、職員総出で数万冊におよぶ蔵書をバーコードで1冊ずつ読み取る作業は膨大な時間と工数を要するからである。この業務はRFID*1の利用によって効率化できるが、その場合は全蔵書にICタグを貼付する工数や機器の導入コストが課題となっている。
そうした中、当社は、ICT技術を活用して蔵書点検業務の効率化を支援すべく、2019年11月から本の背表紙画像をAIで解析して蔵書点検をサポートするシステムの開発をスタートし、2020年3月から実証実験を進め、2021年2月よりAI蔵書管理サポートサービス「SHELF EYE」を提供している。
*1:RFIDとは、電波を用いてICタグの情報を非接触で読み書きする自動認識技術
本取組みは、ASPIC IoT・AI・クラウドアワード2022のAI部門において準グランプリを受賞している。
参照先:https://www.aspicjapan.org/event/award/16/index.html
事例の概要
サービス名等、関連URL、主な導入企業名
・サービス名:AI蔵書管理サポートサービス「SHELF EYE」
・関連URL:https://www.kccs.co.jp/ict/service/shelfeye/
・導入先:公共図書館
サービスやビジネスモデルの概要
AI蔵書管理サポートサービス「SHELF EYE(シェルフ アイ)」では専用機器は不要であり、タブレット端末を使用して蔵書管理サポートサービスが可能となる。
「SHELF EYE」では書架をカメラで撮影した複数冊の背表紙画像を独自開発AIで解析し、まとめて確認することができ、蔵書点検における本の読み取り作業を効率化できる。また、専用の機器を必要としないため、導入コストを抑えられる。
その効果は、次のようになっている。(公共図書館での実証実験結果及び、当社調べ)
作業時間 :バーコードスキャンと比べて半分以下の時間で処理が完了
導入コスト:IC機器に対して約50%程度削減が可能
ビジネスやサービスの内容詳細
「SHELF EYE」蔵書点検機能については次のようになっている。
① 点検対象の棚に並ぶ本の背表紙をタブレット端末で撮影し、撮影した背表紙画像データを「SHELF EYE」に
取り込む。
② AIが背表紙画像の特徴を解析して本のISBN*2を推測する。
③「SHELF EYE」上で図書館システムから取り込んだ蔵書データと本の特定結果を紐付け、点検用CSVデータを
作成する。(図2参照)
*2: ISBN(国際標準図書番号:International Standard Book Number)は、固有の書籍出版物を発行形態別、1書名ごとに識別するユニークな
コードとして、今では世界117の国と地域(2011.6現在)で発行される書籍に表示されている。
図2 「SHELF EYE」蔵書点検機能詳細(出所:京セラコミュニケーションシステム提供資料)
取り扱うデータの概要とその活用法
本棚(背表紙)の写真データ
点検用CSVデータ(図書館システムからのデータ)
事例の特徴・工夫点
IoT等による価値創造
本の背表紙が並ぶ業界において様々な活用が想定される。
1.本が並ぶ環境下において棚卸や書架整理(新刊本の入れ替えなど)の効率化
2.背表紙画像を活用したシステム拡張(仮想本棚・拡張現実など)
IoT導入や事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間
最初はOCR*3で文字での判別を試みたが精度が悪かった。それで画像解析のAIに切り替えたところ、OCR以上の精度を確認できたため、AI中心に精度向上を繰り返した。
背表紙の中にはシリーズ本や新書などの類似したデザインが多く、水増し処理などの対処を繰り返し行うことで精度を向上させた。
また、実証実験でお客様環境に持ち込んだ際に、下記のアイディアをいただく。
1.図書館の書架にある貸出回数が少ない本を分かるようにしてほしい
2.棚違いで入れられた本を確認できるようにしてほしい
などの要望に応える機能を実装した。
*3:OCRとは印刷された文字や手書きの文字などをカメラやスキャナといった光学的な手段でデータとして取り込み、それを解読(文字認識)することによって一度印刷されてしまった文字をパソコンなどのコンピューターが利用できる文字(テキスト)データに変換する技術
重要成功要因
本システムの開発が成功した一番大きな要因は、当社のお客様に協力を頂けたことである。実際の図書館で実証実験を繰り返し、精度を向上することができた。
技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの
当社は、既にディープラーニングの取り組みをしており、それを背表紙特定に適用することで良い結果が得られたので、そこからさらにモデルの変更を進めて現在に至っている。本の背表紙も画像から特徴をとらえ、似た特徴の画像とマッチングして認識している。変色、汚れについては、画像処理で疑似的に類似画像を作成し精度を上げている。
今後の展開
現在抱えている課題、将来に想定する課題、挑戦
次にチャレンジしたいのは、人がタブレットで実施している書架撮影をロボット、ドローンの利用によって可能な限り無人化することである。また、スマートグラスなどの技術も活用し、もっと本に触れる、もっと本が読まれる仕組みづくりにつなげていきたい。
実証実験を通じて、背表紙画像を利用することで書架自体をデジタルに表現することにより、本の物理的なスペースの課題や本の見せ方などを変革できた(DXの実現)。
技術革新や環境整備への期待
今後、背表紙の画像が汎用化されれば、図書館で学習データを作らなくてもSHELF EYEを利用できるようになる。そうなればSHELF EYEの利便性がさらにあがり、様々な業界に貢献できるのではないかと考えている。
強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動
公共図書館以外にも学校図書館において、読書意欲を高める取組みやSHELF EYEの機能を用いて、いつでも本に触れることができるような環境構築に取り組んでいきたい。
将来的に展開を検討したい分野、業種
「SHELF EYE」は、書店の棚卸や在庫管理にも活用できる技術であると考えている。さらには、当社は公共図書館のDX推進に取り組んでおり、その中でもSHELF EYEを活用していきたい。
参照先:https://www.kccs.co.jp/ict/service/public-library/
本記事へのお問い合わせ先
京セラコミュニケーションシステム株式会社
https://www.kccs.co.jp/contact/ja/ict/index.html?category=education&service=shelfeye