掲載日 2024年03月12日


高知県農業振興部
農業イノベーション推進課

【事例区分】
  • IoT等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • IoT等を活用した社会課題解決の取り組み
  • IoT等を活用した社会課題解決の取り組み
  • IoT等の自社内業務等での利活用

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • ビッグデータ
  • AI
  • DX
  • LPWA

【利活用分野】

  • 農林水産業
  • エネルギー・鉱業

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 農業を取り巻く状況は厳しく、ハウスを使った園芸農業には、高齢化や後継者不足といった社会的課題への対応が求められている。また、新しい技術やAIの活用により収量アップも必要とされている。このような状況の中で高知県は、「IoP注1でもっと楽しく!もっと楽に!もっと儲かる!農業へ」をモットーに、産学官が連携しIoPプロジェクトを2018年より進めてきた。

 高知県は、中山間地域が多く耕作地は全国のわずか0.6%という環境にあり、農業所得を上げるには、生産効率(面積当たりの収量)を高めることが最重要となっている。IoPは植物の情報をデジタル技術で可視化し、それを栽培に活用するものである。高知県では、ハウス栽培が盛んで、狭い面積でも生産性を高める努力がなされている。ピーマン、ナス、ニラなど、狭い面積でも稼げる品目の栽培が盛んである。IoPクラウド(SAWACHI)は、このような農家の努力を支援する役割を果たしている。

 図1に示すように高知県は面積当たりの農業産出額が全国トップであり、少量多品目でのアプローチが強みとなっている。この面積当たりの収量増加には、世界一のレベルを誇るオランダ農業の環境制御技術を高知県の気象条件に合わせて改良し取り入れたことが貢献している。ハウス内では様々な環境制御装置が活用され、光合成の最適化を図る管理が行われている。環境データを始めさまざまなデータを活用する等、高知県はデータ駆動型農業により生産性の向上を推進している。

 なお、オランダの技術を導入するため、2009年11月に、高知県とオランダで最大かつ最先端の産地であるウェストラント市との間で、友好園芸農業協定を締結している。この時以来、オランダとの交流で県内への環境制御技術の普及が推進された。この結果、全国の0.6%しかない農地で、2022年度の産出額では園芸全体で853億円(全国17位)となっている。

注1:IoP (Internet of Plants) は、花数、実数や作物生産を決定づける光合成の生理生態情報など、作物をインターネットでつなぎ情報を収集すること。

図1 耕作面積当たりの農業産出額
(出所:高知県農業イノベーション推進課提供資料)

IoT事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

『IoPクラウド(SAWACHI)』

 関連URL:https://kochi-iop.jp/iop-cloud/

サービスやビジネスモデルの概要

 IoPクラウド(SAWACHI)では、図2に一例を示す通り、利用登録をすることで様々な情報を確認することが可能となる。

①出荷実績確認機能
  いつでも、どこからでも、自分の出荷実績(出荷量や等階級)の推移を確認可能

②全国市況チェック機能
  現在の市況と入荷量、高知県産主要品目の卸値を確認

③SAWACHIニュース
  病害虫情報や日々の栽培管理に役立つ情報を提供

④局地気象チェック機能
  県内(約200カ所)の詳細な気象を表示
  現在の天候状態+詳細な気象予測(5kmメッシュ、自分のハウス位置レベル)

○その他
・環境データモニタリング機能
  施設園芸ハウスの温度、湿度、炭酸ガス濃度など現在・過去の状況を表示。13社の機種に対応
・警報機能
  ハウス内環境が異常となった時に、警報・緊急連絡メールで通知

図2:SAWACHIの画面イメージ
(出所:高知県農業イノベーション推進課提供資料)

IoPクラウド(SAWACHI)の利用状況は、2023年12月末現在以下のようになっている。
 ・ハウス詳細接続農家注2:558戸
   注2:ハウス内の環境データをIoPクラウドにアップロードしている農家

 ・SAWACHI直接利用農家:1,112戸 
 ・出荷データ同意:2,529戸

 出荷画面表示が可能な作物は、当初の7品目から30品目に増加している。また、生産者画面と同様の画面を普及指導員や営農指導員が閲覧することで、指導、支援体制の充実化も図っている。

 また、図3のように、現在、高知県では環境制御技術を駆使してハウス内の光合成を最適な状態に保つ取り組みが進んでいる。植物は日中に光合成を行い、そのエネルギーを利用して生長する。したがって、光合成が順調に行われるかどうかが収量に影響する。

 具体的には、ハウス内の炭酸ガス濃度や温湿度などを計測し、それに基づいて環境をコントロールする仕組みが整備されている。炭酸ガス濃度が低下すると、炭酸ガス発生装置が炭酸ガスを補給し、湿度が低下すると細霧装置が作動し、作物が最適な環境で生長できるようにコントロールしている。これらの取り組みにより、高知県ではデータを基にした栽培管理が普及しており、収量増加が実現している。主要な品目であるナス、ピーマン、トマト、シシトウ、キュウリ、ミョウガ、ニラでは、約60%の面積(2022年度末時点)で環境制御技術が導入されている状況である。

図3 環境制御技術
(出所:高知県農業イノベーション推進課提供資料)

 

取り扱うデータの概要とその活用法

IoPクラウド(SAWACHI)では、次のデータを取り扱っている。
 ・環境データ(温度、湿度、炭酸ガス濃度、日射量)
 ・出荷データ
 ・気象データ
 ・市況データ
エネルギーデータ/画像データもパイロット的に使用している。

 

事例の特徴・工夫点

IoPクラウドによる価値創造

 これまで環境制御技術やデータ駆動型農業を進めてきたが、IoPクラウド(SAWACHI)の本格運用により、多くのデータを集積できるようになった。環境制御技術は品目ごとに栽培条件の試験データがあり、それを利用して普及指導員、営農指導員と農家の方が、データを共有して、意見交換をすることを積み重ねてきた。このような地道な努力の継続で、環境制御技術を県内に普及することができてきている。

IoPクラウド導入や事業化時に苦労した点、解決したハードル、導入にかかった期間

 IoPクラウド(SAWACHI)が、本格運用を開始したのは2022年9月である。それまではIoPクラウドのプロトタイプを農家の方にパイロット的に利用してもらい、その中で改善すべき点や使いやすさの向上などのフィードバックを受け、サービスを改良している。特に、苦労したのは農業分野におけるデジタル化の前例が少なかったこと。環境データや出荷データの閲覧は基本的には提供した生産者に限るなどの個人情報の取り扱い方など、さまざまなハードルを生産者に説明し、クリアする必要があった。

 データ駆動型農業の普及において、IoPクラウドに集積された環境データや出荷データを指導機関が分析・診断し、より有益な情報として生産者にフィードバックすることで栽培技術の改善や経営の最適化を図っている(図4)。さらに農業振興センターやJ Aも含めた品目ごとのグループが各地で形成され、グループ内で自主的にデータを共有する活動が進められてきた。このグループ内の意見交換の中で栽培技術の最適化、経営の効率化などの改善が進んでいる。

 また、スマートフォンなど電子機器の使用に苦手意識を持つ方には、スマートフォンの研修教室なども開催し、IoPクラウド利用に関する支援も行っている。

図4普及指導のイメージ
(出所:高知県農業イノベーション推進課提出資料)

 

重要成功要因

 高知県での環境制御技術導入は、2013年から実証が始まっている。10年に渡る取り組みの間に環境制御技術やデータ駆動型農業の重要性とメリットについて生産者の理解が進んでおり、これがIoPクラウド(SAWACHI)の円滑な立ち上げに貢献している。今回のプロジェクトにおいてはクラウドを構築し、生産者が自分のデータを見やすくする取り組みが進んでいる。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 オランダの農業は、施設園芸において世界トップレベルである。特に施設園芸では、ハウス内の環境の管理に徹底して取り組んでおり、これにより収量増大を実現している。日本の農業はこれまで主に温度中心に経験や勘に頼った管理をしていたが、ハウス内の環境データに基づき総合的なコントロールが可能なデータ駆動型農業を重要視し、推進している。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 大きな目標として三点考えている。一つ目は、自治体間の連携を深め構築したIoPクラウド(SAWACHI)のシステムを全国展開することである。二つ目は、IoPクラウド(SAWACHI)を他の産業にも利用できるようにプラットフォーム化を進めたい。3つ目は、GX注3with IoPという脱炭素化に向けた取り組みを考えている。

注3:GXとは、Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)の略称で、温室効果ガスを発生させる化石燃料から太陽光発電、風力発電などのクリーンエネルギー中心へと転換し、経済社会システム全体を変革しようとする取り組みのこと

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 一つは、IoPクラウド(SAWACHI)をより多くの生産者の方にご利用いただくこと。今後は、IoPクラウドに集積されたデータを利用し、収量の増加や品質の向上など、施設園芸の飛躍的な発展を目指した事例を増やしていきたいと考えている。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 繰り返しとなるがIoPクラウド(SAWACHI)を全国展開していくことである。

 

本記事へのお問い合わせ先

高知県農業振興部 農業イノベーション推進課

e-mail : tadahisa_saitou@ken3.pref.kochi.lg.jp

URL :  https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/160601/