掲載日 2025年10月27日

 

株式会社エムスクエア・ラボ

【事例区分】
  • 企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • 社会課題解決の取り組み
  • 実証実験等の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • IoT
  • AI
  • DX
  • LPWA
  • 4G

【利活用分野】

  • 農林水産業
  • 流通・小売

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 事業の全体最適化

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 株式会社エムスクエア・ラボ(以下、当社)は、2009年に静岡県牧之原市で創業されたベンチャー企業である。代表の加藤氏は、元々産業機械やロボットの研究開発に従事していた技術者であり、農業とは無縁のキャリアからの転身であった。創業の原点には、「農業が閉ざされた世界である」という強い問題意識がある。静岡の農業者と接する中で、地域内で完結し、外部との交流が乏しい農業界の構造に危機感を抱いた加藤氏は、「日本の農業を開ける」というテーマを掲げ、情報発信と課題の掘り起こしから事業をスタートさせている。

 初期には県の事業を通じて農業者への取材を重ね、現場の困りごとを丁寧に拾い上げた。売り先がない、価格が安定しない、消費者の反応がわからない―そうした課題は、農業者だけでなく流通や消費者との関係性にも起因していた。農業と他分野を掛け合わせることで社会課題を解決するという発想のもと、当社は農業用ロボットの開発や農産物流通の再構築など、複数の事業を並行して展開してきた。

 現在は静岡県西部を拠点に活動を広げ、さらにインドにも現地法人を設立している。日本の持続可能な農業技術をパッケージ化し、グローバル展開を進めるなど、地域課題と世界課題の両方に挑むユニークな企業として注目されている。

 

事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

サービス名:やさいバス、Mobile Mover(モバイルムーバー)

関連URL:https://vegibus.com/
     https://www.m2-labo.jp/mobile-mover

サービスやビジネスモデルの概要

 当社が展開する主なサービスは、「やさいバス」と「Mobile Mover(モバイルムーバー)」の2つである。

 やさいバスは、農産物流通の非効率性を解消するために開発されたICTプラットフォームである。分散した生産者と需要者(小売店など)をウェブ上でマッチングし、受発注情報をリアルタイムで共有。物流会社にはQRコードで荷物情報を提供し、集配所(バス停)で荷物を集約することで、複数の農家が1台のトラックをシェアする「ミルクラン方式」を実現している。これにより、物流コストの削減と配送効率の向上を両立。さらに、物流データを活用して温室効果ガス排出量の試算も可能となっており、環境対応にも寄与している。図1では、やさいバスの流通モデルが視覚的に示されており、複数の農家と小売店を効率的に結ぶ仕組みがわかる。

 Mobile Mover(モバイルムーバー)は、スズキの電動車椅子技術を応用した農業用ロボットである。最大の特徴は、人と協調しながら作業できる点だ。従来の農業ロボットが無人化に偏りがちだったのに対し、「人が楽しく働ける」ことを重視し、低価格かつ汎用性の高い設計を実現している。現在は実証実験を重ね、量産化に向けた研究開発を続けている段階であるが、作業者の負担軽減だけでなく、収穫物の流通や販売までを視野に入れた設計思想が特徴であり、単なる機械ではなく「農業のパートナー」としての役割を担っている。図2では、Mobile Mover(モバイルムーバー)が畑で作業する様子が描かれている。

 両サービスとも、技術開発だけでなく、地域との共創、ユーザとの対話を重視したビジネスモデルであり、単なる製品提供ではなく「仕組みの提供」によって社会課題の解決を目指している。

図1:やさいバスの仕組み(出所:エムスクエア・ラボ提供資料)

図2:Mobile Mover(モバイルムーバー)のイメージ(出所:エムスクエア・ラボ提供資料)

 

 

取り扱うデータの概要とその活用法

本システムは、次のデータを活用している。

・映像・画像データ(病害虫検知、葉色判定):Mobile Mover
・物流データ(出荷・配送・到着情報):やさいバス
・環境データ(温室効果ガス排出量の試算):やさいバス

 

事例の特徴・工夫点

価値創造

 当社の取り組みは、IoTやAIといった技術の利活用によって、農業の現場に新たな価値をもたらしている。特に「やさいバス」では、分散した生産者と需要者をICTでつなぎ、物流の最適化を実現している。これにより、農家の手取り向上や配送効率の改善だけでなく、温室効果ガス排出量の可視化といった環境面での副次的効果も生まれている。

 「Mobile Mover(モバイルムーバー)」においては、単なる自動化ではなく、人と協調して作業するロボットという設計思想が特徴的である。農業現場においては、無人化よりも「人が楽しく働ける」ことが重要であり、当社はその視点からロボットを開発している。流通や販売までを含めた設計により、農業の付加価値向上にも貢献している。導入前には、農家のICTリテラシーや価格面での懸念もあったが、FAXからメールへの移行など、使い方を工夫することで導入の壁を乗り越えてきた。こうした現場に寄り添った設計と運用が、実証実験での成功を支えている。

苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 事業化にあたって最も苦労したのは、チームづくりである。やさいバスのようなプラットフォーム型サービスでは、生産者、物流事業者、購買者、そして自社のスタッフが一体となって運用する必要がある。中には「FAXでしか受注できない」「高価なロボットは使えない」といった拒否反応もあった。使い方を丁寧に教えるなどそうした声に真摯に向き合いながら、少しずつ信頼を築いてきている。

 また、技術面では、農業現場の厳しい環境に対応するため、既存技術の活用と引き算思考による設計が求められている。そのため、Mobile Moverは高機能なロボットではなく、必要最低限の機能に絞り込むことで、価格を抑え、農家が手に取りやすい製品に仕上げている。

 創業以来積み重ねてきた取り組みであり、地域との対話と実証を通じて、少しずつ形になってきた。

重要成功要因

 成功の鍵となったのは、「発信力」と「仲間づくり」である。当社は、創業当初から「助けて」と言える姿勢を大切にしてきた。自社だけで完結するのではなく、地域の農業者、物流会社、加工業者、自治体、さらには海外のパートナーまで、幅広いステークホルダーと協力関係を築いてきている。

 また、当社が持つ技術力だけでなく、既存の技術や仕組みを柔軟に活用する姿勢も成功要因の一つである。スズキの電動車椅子技術を応用したロボット開発や、二次元バーコードを活用した物流管理など、既存技術を組み合わせることで、低コストかつ高機能なサービスを実現している。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 技術開発においては、農業現場のリアルな課題に対応するため、既存技術の応用と現場視点での設計を重視している。Mobile Mover(モバイルムーバー)では、スズキの電動車椅子技術をベースに、人と協調して作業するロボットとして再設計している。やさいバスでは、ICTによる受発注管理と二次元バーコードによる物流管理を組み合わせ、分散した情報を効率的に統合する仕組みを構築している。

 

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 現在の課題は、インドでの農業事業の本格展開と、国内でのロボット市場投入である。インドでは、現地の農業者との連携を進めながら、日本の農業技術をパッケージ化して展開しているが、文化や制度の違いもあり、現地化には時間と工夫が必要である。

 一方、国内では、やさいバスのAI活用による営業自動化が進行中であり、消費者の行動データをもとに、店舗ごとの需要予測と畑の在庫をマッチングする仕組みの構築が進められている。これにより、営業人員に頼らない販売体制の実現を目指す。

技術革新や環境整備への期待

 農業用ロボットの普及に向けては、通信環境の整備が不可欠である。農地では通信遅延や圏外エリアが多く、ロボットの誤作動につながるリスクがある。衛星通信や5Gの活用、スターリンクの導入などが進めば、より安定した運用が可能になると期待している。

 また、自動走行に関する法整備も課題であり、農地と隣接する公道での低速走行が認められれば、ロボットの活用範囲は大きく広がる。スマート農業の推進にあたっては、こうした制度面での支援が求められる。

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

 今後強化していきたいのは、ロボットの現地製造・販売体制の構築と、AIによる病害虫検知の精度向上である。インドでは、現地のニーズに合わせたロボットが求められており、現地生産によるコスト削減と市場適応を目指している。

 また、やさいバスでは、営業支援の自動化に加え、消費者との接点強化やマーケティング機能の拡充も視野に入れている。人間が担うべき「対話」の部分に注力し、その他の業務はデータとAIで効率化するという方向性で、事業の持続性と拡張性を高めていきたい。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 農業は、あらゆる業種と連携可能な分野である。今後は、通信事業者との連携による農業×通信の新たな価値創出、環境分野との協業による排出量管理、教育分野との連携による人材育成など、多様な分野との連携を視野に入れている。

 特に海外展開においては、インドを起点にアフリカなどへの展開も検討しており、日本の持続可能な農業技術を世界に広げるというビジョンのもと、異業種との協業を積極的に進めていく方針である。

 

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