掲載日 2024年02月06日

 

株式会社スカイディスク

【事例区分】
  • AI等を活用した企業・自治体等向け製品・サービス等の提供
  • AI等を活用した社会課題解決の取り組み

【関連する技術、仕組み、概念】

  • AI
  • DX

【利活用分野】

  • 製造(食品)
  • 製造(機械)
  • 製造(電機)
  • 製造(医療)
  • その他製造業全般
  • 農林水産業

【利活用の主な目的・効果】

  • 生産性向上、業務改善
  • サービス・業務等の品質向上・高付加価値化、顧客サービス向上
  • 事業継続性向上
  • 事業の全体最適化
  • その他(生産計画立案の属人化回避)

課題(注目した社会課題や事業課題、顧客課題等)

 株式会社スカイディスク(以下、当社)は、福岡県福岡市に本社を構えている2013年に設立された会社である。創業以来、数多くの国内製造業のDXを支援している。当初は、情報を収集して分析するIoTプラットフォームを開発していた。その後数年前から、収集した情報からAIを活用して分析し、業務改善を行う事業にシフトしてきた。そうした中、様々なお客様と話をする中で製造業の生産計画立案に課題があることに気が付いた。自社の正確な生産能力が分からず、積極的な受注活動を控えるという事態が起きている。この原因の一つは、オペレーションがまだまだアナログ的であり、現場の勘と経験頼みとなっていることが多いためである。受注を増やしたいのに受注機会を逃すという状況が、企業が成長する上で大きな阻害要因となっている。

 また、生産管理ができていないことによって残業が増加する、不良品が減らない、適正原価が把握できていないなどの課題が深刻化し、3M(ムリ、ムダ、ムラ)が解消できず業務改善の見通しが立てられない企業も多い。こうした課題を改善するために、生産管理のDX化を推進するツールを開発・提供することを決断し、2022年4月に独自AI が製造業のお客様の生産計画立案を支援するサービス「最適ワークス」を正式リリースした。リリース後、短期間で100社超の企業に導入されている(2023年7月時点の実績)。

 なお、当社の最適ワークスは、一般社団法人日本クラウド産業協会のASPICクラウドアワード2023のAI部門で総合グランプリを受賞している。また、当社は、経済産業省が選ぶ「行政との連携実績のあるスタートアップ100 選」に選出されている(図1)。

関連URL:https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230418003/20230418003.html

図1経済産業省が選ぶ「行政との連携実績のあるスタートアップ100 選」掲載内容
(出所:スカイディスク提供資料)

 

事例の概要

サービス名等、関連URL、主な導入企業名

『最適ワークス』

 関連URL:https://saiteki.works/

サービスやビジネスモデルの概要

 最適ワークスは、どの製品を・何個・いつまでに、というオーダー情報から、設備・人員の最適な割付けを実現する生産計画をAIが立案する。生産計画は、オーダー・設備・スタッフの3つの軸でガントチャートの形で表示することができる。図2は設備を軸とした表示例となっている。

 最適ワークスの利用については3つのステップとなっている(図3参照)。まず初めにマスターデータ注1の設定をより簡単に行う機能である「工程デザイナー」を使用して工程の登録を行う。工程デザイナーを使用することにより、従来は属人化していた生産計画の立案がエンジニアではなく誰でも立案可能となっている。これは特許を申請中の技術である。また、工程の登録は既存管理システムからのCSVでのアップロードも可能で、関連システムとの連携も意識したサービスとなっている。

 次に独自開発した数理最適化注2AIによって生産計画を作成する。導入実績ベースでは、人が作成したものと比較すると7~10%程度、効率的な生産計画を作成できる事例もある。また、生産計画がデジタル化されることで設備稼働の最適化、納期の明確化などが可能となる。その結果として製造実績を把握することができ、計画と比較して分析をすることが簡単にできるようになる。具体的には、納期遵守率ほぼ100%を実現、不用品発生率0%、残業時間/残業代を20%削減などの実績も出ている。PDCA注3をまわしていくことで業務の3M(ムリ、ムダ、ムラ)の改善、残業時間の削減、さらなる設備稼働の最適化が可能となる。

注1:生産計画を立てるためには、製品、工程、設備、生産能力、スタッフなど、様々な生産計画にまつわる情報とその関係性を、マスターデータとして整理し、紐付けて設定する必要がある。しかし、このマスターデータの設定は、製造におけるすべての要素や制約条件を洗い出すなど手間がかかる作業が必要である。「工程デザイナー」はこの設定・修正を簡単に実施するためのツールである。ある導入企業では、通常は数か月以上かかる導入期間を最短で1か月に短縮している。

注2:数理最適化(数理計画法)とは問題解決の手法で、因果関係や規則、必要なデータの中で最適解を導き出すもの

注3:Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の仮説・検証型プロセスを循環させ、マネジメントの品質を高めようという概念。

 

図2:最適ワークス画面イメージ
(出所:スカイディスク提供資料)

 

図3:最適ワークス利用のステップと提供価値
(出所:スカイディスク提供資料)

 

 本サービスは、パッケージ製品としての提供ではなく、SaaS注4として提供している。これにより初期投資を抑えた導入が可能となっており、常に最新の機能を利用することができる。価格については図4のとおりである。

注4:SaaSとは、これまでパッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由でサービスとして提供・利用する形態のこと。「Software as a Service」の頭文字を取った略語。

図4 サービス価格表(出所:スカイディスク提供資料、2024年1月時点)

 

 

取り扱うデータの概要とその活用法

最適ワークスでは、次のデータを取り扱って最適な生産計画を立案している。
 製造工程のマスターデータ(次のデータを製品ごとに準備する)
  ・工程の順序
  ・使用される設備、担当者、所要時間など

 オーダーデータ
  ・発注や受注に関する情報

 

事例の特徴・工夫点

AI活用等による価値創造

 導入企業の多くは、まず生産計画の立案業務の複雑さが最小限に抑えられることに注目することが多い。ある企業では、ベテランでも2時間、不慣れな方だとまる1日かかった生産計画を2分で立案できるようになっている。このように、初めは生産計画立案の効率化が焦点であったが、現在では、実際にサービスを利用していく中で、当初期待以上の効果がでることが分かっている。本サービスの一番の価値は、業績に直結する改善活動が出来る点にあるだろう。具体的には、生産計画の効率化により製造キャパシティが増加する一方で残業が減少する、納期遵守率が向上する、不良品の発生率が減少するなどの効果がでている。これらの成果は、新規受注を通した新たな売上高の創出、あるいは人件費の効率化や原材料の効率活用といった形で原価率改善へと寄与する。

 また、特に注目すべき点としては、各部署間でのコミュニケーションの改善があげられる。従来は製造部署と生産管理部署との間でコミュニケーションが十分に行われておらず、計画に対する不満や誤解が生じていた。しかし、最適ワークスの導入で生産工程の見える化が進み、部署間での議論が具体的なものとなり、改善のためのPDCAを回しやすくなっている。

AI活用や事業化時に苦労した点、解決したハードル、解決に要した期間

 最初にぶつかった課題は、最適化のためのAIアルゴリズムの構築であった。学習型のAIでも生産計画を作成できるが、それは最適なものではない。このため、最適ワークスでは、推論系の数理最適化のアルゴリズムを使っている。POC(概念実証)を繰り返し、汎用性を持たせながら最適化を確実に実現できるように完成度を高めるのに苦労した。

 もう一つの課題は、「工程デザイナー」で実現した工程を簡単に登録する機能の開発である。当初はCSVでの作成やエンジニアがCSVを加工するといった手法を取っていたが、これは、「利用者がエンジニアでなくても使える」という当社のサービスコンセプトに合致しなかった。この課題を克服するための「工程デザイナー」機能の開発にかなりの時間を要した。

 現在は、中堅中小企業向けにサービスのアップデートを継続して実施している。現場のお客様の声を聴いて、反映するところと今は反映させないところの線引きが難しくて苦労している。

重要成功要因

 このようなサービスの開発にあたっては、システムを使いこなし、価値を感じてもらえるユーザとの協働が不可欠である。このようなユーザをみつけ、協力してもらうことにより機能を改善したことが大きな成功要因である。

技術開発を必要とした事項または利活用・参考としたもの

 数理最適化AIを独自開発した。

 

今後の展開

現在抱えている課題、将来的に想定する課題、挑戦

 数理最適化AIのアルゴリズムは、様々な分野で利用可能だと考えている。このため、集荷・配送管理の最適化など製造業における管理領域の拡大を進めたい。また、倉庫の人員配置など物流分野での展開、施工管理など建設・住宅建築分野での展開など製造業以外の分野における数理最適化アルゴリズムの導入を進めていきたい。

 さらに、数理最適化AIの可能性について、より具体的に考えてみたい。例えば、CO2排出量の最適化など、新しい社会課題に対応するための活用も視野に入れたい。

 なお、開発にあたっては、自社で開発する、他社と協業して開発するなど、状況に応じて柔軟に対応する予定である。直近では、大手企業と配送ルート最適化のPOCを進めており、この取り組みはドライバーの高齢化による人手不足への対応、更には業務効率改善の結果として CO2排出量の削減にも寄与できると考えている。

技術革新や環境整備への期待

 生成AIの発展に期待したい。生成AIの開発には何百億もかかるので独自開発は困難であるが、具体的なサービスとして落とし込む余地は多分に存在すると考えている。例えば、生成AIが発展すると、カスタマーサクセス注5領域での活用ができるようになるのではないかと考えている。

注5:カスタマーサクセス(Customer Success)とは、言葉のとおり、製品やサービスを通じて顧客の成功を支援する概念

強化していきたいポイント、将来に向けて考えられる行動

  中堅中小企業の競争力を強化するために、最適ワークスの利用者を広げていきたい。この実現に向けては、ユーザとの協創の仕組みづくりが鍵となる。当社の宣伝にならないように気を付けながら、視聴者にとって有益な情報収集を行えるウェブ・コンテンツを今後増やしていきたい。例えば、最適ワークスの導入で製造量が増えた一方で残業が減り、有給取得率が100%になった例、外国人労働者が生産計画を作成している例などがユーザに響くのではと考えている。

将来的に展開を検討したい分野、業種

 他の企業との連携を通じて新たな分野での利用を検討していきたい。例えば、人材系の領域での利用である。具体的な例としては、大企業の研修スケジューリングや飲食店のスタッフスケジュールなどが挙げられる。最適ワークス開発を通して得たAI開発のノウハウを利用してこれらの課題に対する解決策を提案することで、製造業だけでなくサービス業にもユーザを拡大していきたい。

 

本記事へのお問い合わせ先

株式会社スカイディスク 担当:高橋 瑞希

e-mail : contactus@skydisc.jp

TEL:092-738-1331

URL : https://skydisc.jp/