本メルマガは、IoT価値創造推進チームのリーダーである稲田修一が取材を行ったIoT導入事例の中から、特に参考となると感じた事業や取り組みを分かりやすくお伝えする見聞記です。

 今回は2022年度のIoT導入事例の概要紹介の2回目です。

ここに注目!IoT先進企業訪問記 第75回

広がるAIの適用領域-2022年度のIoT導入事例の概要(その2)

1.    AI活用はアイデア次第

 2022年度のIoT導入事例の概要を紹介する2回目です。今回は、AI活用の事例を紹介します。事例を見てあらためて感じたのは、アイデア次第でいろいろな価値創出が可能なことです。こんな領域にAI適用が可能なのだ、と感心した事例もあります。これらをコンパクトに紹介したいと思います。

2.図書館のDX化にAIを活用した京セラコミュニケーションシステム

 京セラコミュニケーションシステム株式会社(KCCS)は、本の背表紙画像をAIで解析して蔵書点検をサポートするAI蔵書管理サポートサービス「SHELF EYE」を提供しています。開発のきっかけは、顧客である図書館の「蔵書点検って楽にならないかな?」という声でした。

 蔵書点検は図書館の「棚卸」作業のことで、年に1~2回、蔵書がなくなっていないか、実際にある場所と蔵書データの場所が一致しているかを点検し、蔵書を元の場所に戻します。所在が確認できない蔵書は、リスト化して探します。蔵書入替のために、書庫内に移動する書架整理なども行います。図書館を一定期間休館にし、アルバイトも使いながら職員総出で行うことが多い重労働です。

 今までは、導入費用や維持コストが高いICタグ導入で、この作業を迅速化していました。これに代わる方法としてKCCSが考え付いたのは、背表紙の写真を使いAIで本を特定する方法です。タブレット端末のカメラ機能で書架を撮影し、書架にある複数冊の本の背表紙画像をAIで解析し、一括して特定することで蔵書点検作業を効率化します(図1参照)。

図1:SHELF EYEによる蔵書点検の概要(出所:KCCS提供資料)

 KCCSが狙っているのは「公共図書館のDX」です。図書館のデジタルツインを構築することにより、蔵書を探したり、貸し出したり、点検したりという図書館の定型業務の自動化を一層推進することができます。この自動化で生み出した余力で、図書館側では本来の仕事であるレファレンスサービス、専門的資料の提供、調査研究の支援など専門サービスを充実させることが可能になります。現在、面白い図書館が次々に誕生しています。デジタルツインの活用は、利用者の年齢や興味に合致する本棚の提示など、図書館に新たな魅力を加えることになりそうです。

注:何らかの情報あるいは資料を求めている図書館利用者に対して図書館職員が相談に乗り、専門的な知見を活かし求められている
  情報あるいは関連する資料などを提供、あるいは提示することによって支援するサービス。

関連記事

【IoT導入事例】本の背表紙画像をAIで解析し、図書館の蔵書点検を効率化~本との出会い、読書人口増加に貢献する京セラコミュニケーションシステム~

【ここに注目!IoT先進企業訪問記】図書館のDX化を推進する京セラコミュニケーションシステムの取り組み

3.パッケージのデザインにAIを活用したプラグ

 株式会社プラグの「パッケージデザインAI」は、デザインの評価のための「評価AI」とデザインの生成のための「生成AI」という2つのAIを活用しています。AIによるデザイン評価の学習データとして活用しているのは、同社が2015年から実施している消費者のパッケージデザインへの好意度調査に関する大量のデータです。

 開発中のデザイン案をウェブにアップロードすると、消費者がデザインをどのように評価するかを「評価AI」が予測します。「生成AI」は元のデザイン案のパーツを組み替えて新たなデザイン案を作成し、そのデザイン案を再度、評価します。この生成と評価をAIが何度も繰り返し、1時間で最大1000案のデザインを作成し、この中から消費者の好意度が高いものや、「おいしそう」「高級感がある」などのイメージワードのスコアが高いデザイン案を選択することができます。

 狙っているのは、パッケージデザイン開発の迅速化と低コスト化です。現在は、デザイン制作に3カ月間、制作したデザインの消費者調査の実施・デザインの改良に3か月間、合計6カ月間かかっています。「パッケージデザインAI」を利用すれば、この開発期間の後半3か月間を1時間に短縮することができます。また、一商品当たり数十万円から数百万円かかっていた消費者調査をスキップすることも可能となります。

 顧客の「パッケージデザインAI」の使い方を見ていると、消費者調査の代替として使用するだけでなく、消費者調査にかけるデザイン案を決めるのに使う、AI評価と消費者調査の結果を組み合わせて最終デザインを決定するなど、パッケージデザイン開発の新しい方法として活用されているそうです。人とAIの共創が、デザイン領域でどのように進むのかを示す事例の一つとして注目されます。

関連記事

【IoT導入事例】消費者に好まれるデザインを作るプラグの「パッケージデザインAI」

4.画像処理AI技術が魅力の一つとなっているFORXAI

 コニカミノルタ株式会社の画像IoTのプラットフォーム「FORXAI(フォーサイ)」は、エッジデバイスとクラウドを容易に連携し、データ管理とAI処理を実行するための技術群です(図2参照)。クラウドを経由して遠隔地のエッジデバイスを操作・管理することができます。また、アプリケーションと接続して、容易にエッジデバイスのセンサーデータや画像情報などをリモートの環境から連携・活用することができます。

図2:FORXAIのCloud/Edgeの連携アーキテクチャーの概要
(出所:コニカミノルタ統合報告書2021)

 FORXAIを特徴づけているのは、その開発プロセスです。まずは2030年の社会課題の予想からスタートし、その解決のために同社ができることを考えています。結果として、同社の強みである光学デバイスと画像処理技術にIoT/AI技術を付加し、創造すべき価値を明らかにしています。社会課題の検討の次に実施したのはビジョンの作成です。「Go Beyond Human Vision」というビジョンステートメントを考えだしています。大きな組織を動かす上で、必要なプロセスだと感じます。

 また、オープンな開発体制を採用しています。プラットフォームやエッジデバイス、画像処理AI技術をオープンに提供し、社会のDX化を加速させるソリューションをパートナーとの共創で企画・開発・販売しています。また、パートナーのAI・デバイス・プラットフォームに関する技術を取り入れ、プラットフォームの充実を図っています。2022年12月末の時点でパートナーは57社に達しています。

 画像を中心とした高速・高精度なAI処理の技術群であるImaging AI、現場から高品質な画像データを収集するさまざまなEdge Deviceなど、同社の優れた画像IoT技術がFORXAIの魅力となっていますが、同社は、FORXAIの発展に不可欠な技術とビジネスの両方に通じた人財育成にも力を入れています。大きな企業が戦略に基づくDXを実行する上で、大いに参考になる事例です。

関連記事

【IoT導入事例】人々の“みたい”に技術で応えるコニカミノルタのFORXAI Imaging AI

【ここに注目!IoT先進企業訪問記】顧客のさまざまな「みたい」を実現するコニカミノルタの画像IoTプラットフォームFORXAI

5.「帰りの渋滞」の予測にAIを活用したNTTドコモ

 株式会社NTTドコモの「AI渋滞予知」は、リアルタイム版モバイル統計にAI技術を適用し、その日の人出の状況に基づいて帰りの交通渋滞の発生やその規模・時間帯などを予測する技術です。帰りの渋滞に影響する当日の人出を定量的に把握して予測するので、天候やイベント開催などによる影響を織り込んだ的確な予測ができます。

 これを可能にしているのは、携帯電話ネットワークの持つ各基地局のエリアごと所在する携帯電話を周期的に把握する機能です。「リアルタイム版モバイル空間統計」では、日本全国の10 分毎の人口の移り変わりをおよそ500mメッシュ単位で、属性別にほぼリアルタイムに把握することができます。

 「AI渋滞予知」は、次の2つのモデルで実現しています。一つは、リアルタイム版モバイル空間統計により得られた過去の人口分布とそれに対応するNEXCO東日本が保有する交通量との関係を、機械学習技術によってモデル化した交通需要予測モデルです。もう一つは、交通需要と道路の通過に必要な所要時間の関係を、これも機械学習技術によってモデル化した所要時間予測モデルです。毎日の渋滞を予測する際には、その日の正午時点までの人口分布を交通需要予測モデルに入力して当日の交通需要を予測し、さらに所要時間予測モデルを用いて当日の所要時間を予測対象区間毎に予測しています。

 「AI渋滞予知」は、渋滞ピークを避け快適に走行できる点が利用者から評価され、高速道路利用のリピート率向上につながっています。また、渋滞予知を見て、渋滞ピークを避けるために帰宅時間を遅らせる利用者が多く、外出先での滞在時間増加が消費増加につながるなどの効果も生んでいます。モバイル空間統計はさまざまな分析を可能とする便利なサービスですが、このリアルタイム版の提供によって活用範囲がさらに広がりそうです。

関連記事

【IoT導入事例】「帰りの渋滞」の予測精度を大幅に向上したNTTドコモの「AI渋滞予知」

6.おわりに

 取材対象を探すためにAI活用に関する多くの事例を調べていますが、成功するアイデアを創出するノウハウの一つは、技術シーズでなく課題からスタートすることです。解決したい課題を抱えている組織が開発に協力することで、開発をスピードアップすることが可能となります。また、無駄なものを開発する手戻りの危険性が低下します。共創という言葉が名実ともに一般化したように感じています。

 
スマートIoT推進フォーラムでは、 会員の皆様からIoT導入事例を募集しております
詳細は以下を御覧ください。
IoT導入事例の募集について
 
IoT導入事例紹介